「ちくしょー!今年も白組の勝ちかよ!納得いかねー!」
「Ha、オレの勝ちだ!金払えよ、元親!」
紅白歌合戦の結果に不満を洩らす元親と、彼に手を差し出して金を寄越せと迫る政宗。どちらの組が勝つか、2人で賭けをしていたのだ。
「ゆく年くる年が始まったでござる!」
「お、今年はココかぁ!一度行ってみたいと思ってたんだよなぁ」
テレビの真ん前を陣取ってテンション高く叫んでいる真田と、食べるだけ食べて満足そうな顔でテレビを眺めている慶次。ゆく年くる年を見ないと、大晦日という気がしないらしい。
「この甘酒はそなたの手作りか?」
「違うよー、お湯で溶かすだけのインスタントってヤツ」
湯飲みに入っている甘酒の湯気を眺めている毛利と、甘酒を箸でクルクルとかき混ぜている佐助。寒がりな2人は揃いも揃って半纏を羽織り、背中を丸めていた。
大晦日、201号室にて
狭い部屋に男6人、しかも小さなこたつに皆で入っているものだから、なんとも言い難い光景となっていた。
薄いこたつ布団を互いに取り合いへし合いの末、今の形に落ち着いた。ただ各々に割り当てられたこたつ布団の面積はかなり少なく、暖を取っているとはいえない状態である。
それでも寒くないのは、佐助が用意してくれた甘酒のお陰だと思いたい。実は、野郎ばかりの集団から発散される熱気が原因であるなどとは、政宗は死んでも認めたくなかった。
夕食を食べ終えた後、大晦日の定番である紅白歌合戦を見ながら、誰が良いだのなんだのととりとめもないことを話していた。
「もうすぐ今年も終わりでござるな!」
「初詣行くか?」
「寒いからヤダ」
元親の誘いを、佐助は珍しく断った。普段ならばこういうイベント事には飛び付くはずなのだが、どうやら寒さには勝てなかったらしい。
部屋の中でも完全防寒に余念のない毛利も、佐助と同様に断った。寒さにとことん弱い様がオクラのようだ、と茶化した元親に怒りの座布団アタックをお見舞いしている。
佐助と毛利以外の面々は、初詣に行く気満々という雰囲気で、その準備を始めていた。
「佐助!寒いから嫌などとは、漢らしくないぞ!」
「寒いの嫌いなんですー、ていうか、旦那たちだけで行ってきなよ。俺様、片付けあるしさ」
「家事に逃げやがったな、猿飛」
こたつの中に手足を突っ込みながら、佐助は口を尖らせて反論した。
元親に一矢報いて機嫌が良くなったのか、毛利は政宗に向かって話し掛け始めた。
「初詣ではなく、初日の出ならば参るぞ。日輪同好会としては、重要な催しだからな」
「それじゃ、初詣行ってくるわ」
毛利の言葉を無視して、素早く出掛ける準備を済ませた政宗は玄関へと向かう。
背後で毛利がぎゃあぎゃあと何かを言っているが、それも聞かなかったことにして、部屋の外へと飛び出した。
政宗に続いて、元親・慶次・真田が部屋から出てきた。一列になって、アパートの階段を降りていく。なんだかカルガモの親子のような光景である。
「うー、マジで寒いな」
身を切るような寒さに、元親は両手を擦り合わせる。吐く息が凍りつきそうな寒さだ。
「神社って近くにあるの?」
上着のポケットに両手を突っ込んだ慶次が政宗に尋ねてきた。
しかし、そう聞かれても政宗には分からない。そもそも神社なんて、この付近で一度も見たことがない。
政宗は自分よりも長くここに住んでいる真田に訊いてみた。
「なぁ真田、お前神社の場所知ってるか?」
「全く分かりませぬ!」
漢らしく堂々と真田は答える。その漢らしさは今必要ではないだろう、と政宗は思った。
真田は冬仕様の学ランのみという、この寒い時期に考えられない格好をしている。それで風邪をひかないのは、いわゆるバカだからか。見ているだけで寒い。
しかし、神社の場所が分からなければ初詣のしようもない。部屋を出たは良いが、初っ端から最大の難関にぶち当たってしまった。
「どうすんだよ?」
「うーん、仕方ないから、取り敢えず栄光門でも拝んどく?」
慶次が苦笑しながら指差すのは、おだわら荘の入り口にある門。かつては壮麗だったであろうその門も、歳月には勝てず、所々朽ちたり折れたりしている。
「……ま、良いんじゃねぇの?なんか御利益ありそうだし」
慶次の突拍子もない提案に、意外にも元親は賛同した。思ってたより寒かったので、さっさと帰りたいと思ったのかもしれない。
真田も神社に拘ってはいないようで、皆で初詣気分を味わえたらそれで満足のようだ。
政宗にしても、今から神社を探して夜の街を彷徨いたいとは思わない。さらに、このメンバーでは朝になっても着かないだろう。
こんな感じで適当にユルくやっていけるのが、この共同生活の醍醐味であるように政宗には感じられる。
「じゃ、拝んどきますか!」
4人で横一列に並んだ政宗たちは、『おたわら荘』と記された栄光門に向かって手を合わせたのだった。
今年もこの連中とこんな調子で暮らしていけますように。
賽銭も何もないお参りだけれども、この栄光門ならば自分の願いを聞いてくれるに違いない――などと、政宗はなんとなく勝手に思っていた。
その後、怒った毛利によって鍵が閉められていたために、似非初詣から帰ってきた政宗たちはしばらく部屋に入ることが出来なかった。
寒空の下、望みもしなかった初日の出を拝むことになり、相変わらずな一年を予感させる始まりとなったのである。
―終―
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