<布団の中からサプライズ・ミー>


「はい、ここで質問です」

オレの言葉に、一同の箸が止まる。今は朝食中で、201号室及び202号室の面々が勢揃いして、ちゃぶ台に並んだ猿飛の手料理をつまんでいた。

皆して何事だと言わんばかりの表情をしている。Ha、そんな惚けた顔をしてもムダだ。

「オレの寝床にsnakeのオモチャ入れたの誰ですか?正直に名乗り出なさい」

極めて淡々と話す姿に、オレの怒りは底深いと感じたのか、皆黙って顔を見合わせていた。

ほうほう、しらばっくれるつもりか。さっき起きた時に布団の中で見つけて、shockでしばらく気絶してたんだぜ。あまりにも精巧に出来てるオモチャだから、本物かと思っちまったんだな。押入れん中で寝てたから、気絶した姿は誰にも見られなかったのが幸いだった。

ともかく、朝からとんでもねー悪戯かましてくれた奴がこの中にいる。こんなコトすんのは、こいつら以外の誰がいようか。いや、いない。

オレは一番疑わしい人物に視線を向けた。

「なぁ、元親……」

「お、俺じゃねぇよ!んな意味のねぇイタズラはしねぇ。もっと壮大で心臓が止まるか止まらないかのネタをだな」

一人、悪戯談義に花を咲かせ始めた元親。語り出したら止まらない。コイツが不幸なのは、そういう悪戯ばかりやってるせいだと思う。

しかし、元親が本当に犯人だったら、多分ニヤニヤしながら感想を聞いているところだろう。ならば、違うというコトか。Shit!

オレは次に怪しい人物に視線を移した。

「なぁ、慶次……」

「ちょ、ちょっと待ってよ!俺はそんなことしないって。なんで朝から俺が政宗を驚かさなきゃなんないんだよ?」

驚きのあまり、かじりかけの沢庵をポトリと落とした慶次。大好物の沢庵を落としても、それを拾わず必死で否定する姿に、思わず信じてしまいそうになる。そして、肩に載ってる夢吉の姿にも、思わずほだされそうになる。

しかし、コイツは前科がある。あのsummer memoryだけは忘れられねぇ。人の良さそうな顔して、騙して散々な目に遭わせやがったんだ。

疑惑の眼差しを向けると、慶次はブンブンと顔を横に振った。同じように夢吉も顔を振っている。そういうのやめろよ。動物モノには弱いんだ。内緒だけどな。

純粋無垢な瞳に負けて、オレは元気にご飯をかっ込んでいる奴に目を向けた。

「なぁ、真田……」

「むぐぉっ!?某は違うでござるよ!政宗殿を驚かすなんて質の悪い悪戯など致しませぬ!」

メシを喉に詰まらせて一瞬目を白黒させた後、真っ直ぐな瞳をコチラに向けてくる真田。まぁ、バカで正直なコイツが悪戯するなんてことはないだろうと思ってたから、別にこれ以上疑うつもりはない。

そこで、オレは大穴で本命の人物に視線を向けた。

「なぁ、毛利……」

「濡れ衣を着せるな、箸で喉を掻っ切って死ね」

「ごめんなさい」

あまりにも威圧的に言うもんだから、つい謝っちまった。低血圧の毛利は、朝からとことん機嫌が悪い。目付きもヤバい。触らぬ神に祟りなし、という言葉もある。コイツ自身が元から祟り神のような気もするが。

しかしそれなら、最後に残ったのはアイツしかいないじゃないか。

「なぁ、猿飛……って違うよな?」

「当たり前でしょ。俺がそんなことをする意味が分かんないよ」

猿飛は心底困っているようだ。コイツがオレに悪戯するなんて、地球がひっくり返ってもあり得ない気がする。しかし、もしかしたら笑顔に騙されてるだけかもなんて、疑心暗鬼になってくる。

一体どいつが犯人なんだ!

はぁ、と大袈裟に溜め息を吐いたオレはpocketに入れていた件のブツを取り出して、ちゃぶ台の真ん中に置いた。げっ、と言う声が色んなトコから聞こえてきた。オレがちゃぶ台の上に載せるなんて思ってもいなかったのだろう。甘いぜ、テメーら。

そんな声など聞こえなかった振りをして、オレは再び投げ遣り気味に尋問を開始した。

「もう一度聞きます。コレをオレの布団に置いたのは誰ですかー?」

「むっ?それを入れたのは某でござるよ」

「ええぇぇぇっ!?」

真田の突然の自白に、毛利以外の声がハモった。推理も何もあったもんじゃない。しかも、全く悪気というものが感じられない自白だ。

オレは真田を問い詰めた。

「おい、一体どういうこったよ?」

「昨夜、政宗殿に渡そうと思っていたのでござる。しかし、先に寝てしまわれたようだったので、忘れぬようにと枕元に置いておいたのでござるよ」

確かに、昨日は働き詰めでヘトヘトんなって、さっさと寝ちまった。夜、真田に何か言われたような記憶もあるが、如何せん意識がほとんどdreaming landに飛んでいたので、内容なんて全く覚えていない。

でも、なんでコイツはオレにsnakeのオモチャなんか渡そうとしたんだ?

「むうぅ、蛇の死体を持っているとお金が貯まると聞いたことはござらぬか?」

「死体じゃなくて、脱け殻なら聞いたことあるけどさ」

真田の問いに、慶次が戸惑いながら答える。オレも脱け殻なら聞いたことがあるが。

いや、待てよ。今死体っつったよな、死体。死んでるsnakeってコトだよな。死んでるsnakeが一晩中オレの布団の中にいて、さっきまでオレのpocketに入っていて、今はちゃぶ台の上に載っているというコトか?

オレは大きく息を吸い込んだ。

「オモチャじゃなくて、本物かよおぉぉぉ!?」

「そうでござるよ?」

「ぎゃああぁぁぁぁ!」

オレの悲鳴に近い叫びに反応して、皆一斉にちゃぶ台から離れた。真田だけは一人気にせず、もぐもぐとメシを食い続けている。なんて奴だ、信じらんねぇ。

オレも元親も慶次も毛利も猿飛も、茶碗を持ったまま固まっている。しばらくして、顔を引きつらせた猿飛が真田に話しかけた。

「だ、旦那!今すぐソレ捨ててきて!」

「何を言うか、佐助!こんなに綺麗な形で死んだアオダイショウは珍しいのだ!」

「アオダイショウとかどうでもいいから!捨ててこないと、おやつ抜きだからね!」

猿飛のおやつ抜き攻撃に降参した真田は、しょんぼりしながらsnakeの死骸を掴んで外に出ていった。母は強し、というものだ。

ようやく動き始めたオレたちは、ちゃぶ台に載っていた皿などを一旦下ろし、上を濡れた布巾で拭き始めた。誰も何も言ってはいないが、こういう時にはムダに連帯感を発揮する。

朝からとんだ騒ぎだった。真田にしてみれば親切心でやったコトなのだろうが、ただの悪戯にしか見えねぇ。金のこととか心配してくれていたのは、一応感謝しておくけどな。

そんなことを考えていると、真田の嬉しそうな声が玄関から聞こえてきた。

「今度は本物の脱け殻を見つけたでござる!」

もういいっつーの!



―終―


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