<ハッピーサマーファイティング>
暑い。暑い。暑い。それ以外の言葉が出てこねぇ。今日の最高気温は39度だって聞いたが、軽く40度は越えてる気がする。
いや、この部屋が異常に暑いだけなのかもしれない。coolerなんてそんな高価な物なんてないし、頼みの綱であるfanは今壊れている。寝惚けた元親に蹴っ飛ばされて、その短い一生を昨日終えたばかりだった。当然その後みんなで元親をタコ殴りにしたが。
兎に角、fanがあるのとないのでは随分と違うもんだなと思うわけで。
「あーうーあーあー」
畳に転がっている真田が遂に人類の言葉を発しなくなった。暑さでとうとう頭がやられちまったか。
今は大学も高校もsummer vacationの真っ只中だ。だが折角のvacationをenjoy出来るような環境じゃない。講義がない分、バイトをこれでもかっつーぐらい詰め込んでるし、何より厄介な同居人たちがいる。
真田は宿題を見てくれと煩いし、毛利は日輪浴に行くとかワケ分かんねぇことを言っている。元親と猿飛は相変わらずバイト三昧で日中はほとんど顔を合わせることがないが、会ったら会ったで暑苦しい。特に元親。
俺は考えた。バイト三昧で、更にムサい野郎共に囲まれて、青春真っ盛りのsummer vacationを終えていいのだろうか。いや、良くねぇ!
つーワケで、バイトが休みな今日一日、vacationをenjoyする計画を立てた。猿飛のママチャリを借りて、1人で街の中を探検してくるつもりだった。ここに来てから結構経つが、まだ行ったことのない場所が多く残っている。気分は「この町大好き」のチョーさんだ。
で、朝イチで準備をし終えて出掛けようとdoorを開けたら、俺を襲った不快指数100%の熱風。即座にdoorを閉めた。なんだこの暑さ!そう思って、部屋のオンボロTVをつけて天気予報を確認した。
予想最高気温39度だァ?冗談じゃねぇ!どうしてこういつもいつもtimingが悪いのか。あの熱風のせいで外へ出ようという気が失せてしまった。
今日は部屋でおとなしく課題でもやるか、と自室に戻った。戻ったは良いが、部屋の中も半端なく暑くなってきていた。昼に近づくにつれて気温も上昇している。もう課題なんてやれるような状態じゃない。やめだ、やめ。
そんな複雑な心境の変化を経て、俺は今タンクトップ一枚と短パンという格好で畳の上に転がっていた。町内会で配っていた団扇を片手に。
朝から俺の部屋で宿題をやっていた真田も、暑さに耐え兼ねてゴロリと寝転がっている。
チラリと奴の方に目を向けた。普段からそうなので今まで疑問に思わなかったが、ふと真田の格好がおかしいのに気付いた。
「なぁんでお前は学ランなんか着込んでんだよ?てかソレ冬用じゃねーか!」
そう、真田は真っ黒な長袖の学ランを着ていたのだ。そんな服を着ているのだから暑いのは当然である。というか、なんでそれに今まで気付かなかったんだ、俺。疲れてんのか?
「な、何を仰られるか、政宗殿!学生たる証として学生服を纏うのは当然のこと!」
「Shut up!見てるだけで暑いんだ!おとなしく脱ぎやがれ!」
グダグダと意味の分からん拘りを説明する真田の言葉を遮って、俺は奴の学ランを無理やり脱がすという暴挙に出た。
断じて好き好んでやっているワケじゃねぇ。ただでさえ暑くて堪らない状態なのに、目の前に真っ黒な暑苦しい格好をしたアホがいるのが許せないだけだ。
「ぎゃあぁぁぁ、追い剥ぎぃぃぃ!」
生まれて初めて追い剥ぎ呼ばわりされた気がする。だがそんなことで挫ける俺じゃねえ。問答無用で奴の学ランをひっ剥がしてやった。
律儀に無地のシャツを着ていたのには驚いた。コイツほど今時の若者って言葉からかけ離れた奴もいないだろう。
無駄に動いてしまったので、一気に暑さが増した感じがする。汗が止まらない。
「す、涼しい……!」
「たりめーだっつーの!」
学ランを脱いで涼しさを感じたらしい真田の言葉に、俺はすかさず突っ込みを入れた。あんな暑苦しい格好をしていたのだから、暑いのは当然だ。もしや気付いていなかったのか、コイツ?
不意に真田の腹から、ぐぅぅという切ない音が聞こえてきた。時計を見ると正午を少し過ぎたところだった。道理で俺も腹が減っているワケだ。
「昼メシで食えそうなもん何かあったっけ」
今は猿飛がいないので、自分で昼メシを作らなくてはならない。真田に料理を任せたら地獄を見ることになる。猿飛から指導を受けて、それなりに料理の出来るようになった俺が作るしかないのだ。
俺の部屋には食材らしいものは一切置いてないので隣に行かなくてはならない。
201号室と202号室を繋ぐ穴から猿飛の部屋へと入る。小奇麗に片付けられたこの部屋は主の性格が滲み出ているようだ。
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