<レイニーデイズに悩まされ>


「いい加減やめてくれ」

本気でこれ以上はやめて欲しい。俺は毛利と真田に懇願した。2人は全く聞いちゃいない。黙々と自分の作業を続けている。

あの俺の一言がいけなかった。適当に言ったあの言葉がこの面倒な状態を生み出してしまったのだ。

ここのところ、ずっと雨が続いていた。梅雨だからしょうがないと言えばそうなのだが、3日も続くと鬱陶しくなってくる。

洗濯物が乾かない、と猿飛が嘆いていた。俺たちの分も一緒に洗濯してもらっているので、本当にゴメンって感じだ。着る服もなくなってくるしな。服がねえ、ってぼやいてたら真田が学ラン貸してくれた。んなもん着たくねぇよ。いや、今は洗濯物の話なんてどうでもいい。

雨が続くと気分まで落ち込んでくる。いつもバカ元気な真田は外で遊べないとしょげていた。真田以上にdamage受けてんのが毛利だ。3日も太陽の姿を拝むことが出来てない奴は部屋の隅で力なく横たわっていた。目が死んでいる。萎びたオクラと例えて言った元親の言葉はピッタリ過ぎだと思う。太陽に当たらないと元気が出ないってホントにオクラそのものだ。

そんな奴らを尻目に俺は目の前にある紙にペンを走らせていた。課題として出されていたreportをすっかり溜めてしまっていたのだ。空いてる時間を見つけて早めに終わらせたいのだが。

暇な真田は俺にちょっかい掛けてくるし、廃人寸前のような毛利は見てるだけで鬱陶しい。reportやろうと思っても、こんな部屋で集中出来る筈もなかった。下手すりゃ終わらねぇかも、という危機感が募ってきた。

だから、俺は真田と毛利に一つ提案をした。断じて元気づけようとかそんなコトを考えていたわけじゃない。ただ俺の邪魔にならないようにしたかっただけなんだぜ。兎も角、俺は2人にある案を提示した。

「てるてる坊主作りゃいいじゃねーか」

俺のこの言葉を聞いて、真田と毛利の目に生気が帯び始めた。てるてるぼおぉぉずぅぅっ、と真田は意味の分からない気合いの入れ方をして猿飛の部屋に道具を取りに行った。毛利はゆるゆると立ち上がって、両手を大きく開いた。日輪よ今再び、とかなんとかワケの分からんことをほざいている。なんなんだ、コイツらは。

そんなこんなで猿飛から渡されたらしいハサミ、輪ゴム、tissue paperを持った真田が部屋から戻ってきた。早速2人しててるてる坊主作りの作業に入ったのである。

さっきまでの通夜みたいな雰囲気とは打って変わって、となると思っていたが奴らは無言で黙々と作り続けていた。何だか怖い。その鬼気迫る表情は、てるてる坊主じゃなくて藁人形でも作っているようだ。

結局、reportに集中出来ずにバイトに行く時間になってしまった。俺は奴らを残して家を出た。帰る頃にゃ飽きてるだろ、なんて楽観的に考えながら。

それがどんなに甘い考えだったのかは、後で身に染みて分かることとなった。

部屋に戻って玄関を開けた俺の目には、異様な光景が映っていた。カーテンレールにみっしりと敷き詰められたてるてる坊主たち。奴らが密集しているせいで窓から空が見えなくなっていた。

時々風に吹かれて蠢くその真っ白な集合体は物凄く気持ち悪い。

「な、なにしてんだよ、てか作り過ぎじゃねぇのか」

「これぐらいせぬと忌々しき雨は止まぬ。伊達よ、そなたも手伝え」

嫌です。絶対Noです。これ以上作ってどうすんだよ。意味ねーだろ、という俺の抗議に耳を傾けることなく毛利と真田はてるてる坊主を作る作業に没頭していた。

こうして、冒頭の俺の台詞に戻るワケである。

夕食の後も風呂の後も、毛利と真田は一心不乱にてるてる坊主を作り続けていた。地球の資源を無駄遣いしすぎだ。

「こりゃオレか?」

夕食の前に帰って来ていた元親が素っ頓狂な声を上げた。レールに吊るされたてるてる坊主を指差している。

元親が指差すそれを見てみると、左目の部分に眼帯が書かれていた。更に他の物に比べて幾分雑っぽい。そんなてるてる坊主が10個ほど吊り下げられていたのだ。

その隣の方に目をやると、どうしても俺としか思えないてるてるがいた。右目に眼帯、ちょっとだけ目付きが悪い。そんなトコまで再現しなくていいっつーの。結構気にしてんだぜ、目付きの悪さ。

「あ、俺のもあるじゃん」

俺と元親に続いて猿飛も自分仕様のてるてるを見つけたらしい。頬と鼻のトコにpaintされている奴だ。なんだか全体的にbalanceが悪いのは真田が作ったからに違いない。

俺たち3人model以外の奴は至って普通のてるてる坊主である。アイツら自分たちのは作ってねぇんだな。そんなことを考えていたら、元親と猿飛が話し掛けてきた。

「なぁ、明日晴れるか賭けねぇか?負けた奴が勝った奴にラーメン奢るってのでどうだ?」

「天気予報だと明日も雨なんだけどね。あの2人の熱意が奇跡を起こすか、それとも科学が勝つか賭けてみない?」

なんだか面白そうだ。2人の提案に俺は、乗った、と答えた。

さて、どちらに賭けるか。毛利と真田の恐ろしいほどの熱意は凄いと思うが、あんなので天気予報が外れるワケがない。しかもあんなフザケた大量のてるてる共じゃ効果なんてないだろ。そう思った俺は明日雨になる方に賭けた。元親と猿飛は晴れに賭けた。

「ラーメンは俺がもらうぜ」

「さぁ、どうかな?」

俺の勝利宣言に猿飛がニヤニヤ笑って答える。俺らの勝ちだって、と元親が嬉しそうに言う。結果は明日になれば分かる。明日が来るのが楽しみだ。

たまにこんな楽しいことがあるから共同生活も悪くないかな、なんて思う時がある。まぁ、傍迷惑な時が多いと言えば多いけれども。

そんな俺たちの賭けなど知らない毛利と真田は、相変わらず黙々とてるてる坊主を作っている。畳の上にはまだ吊るされていない奴が山盛りになっていた。

「おっし、じゃオレも手伝うかな。明日晴れてもらわなきゃなんねぇしな」

「俺も俺も!」

元親と猿飛がてるてる作りを手伝い始めた。ズリィぞ。俺は何も出来ねぇじゃねーか。マズイ、なんだか明日晴れそうな気がしてきた。こっそりてるてる坊主を反対に吊るしておこうか。って、てるてる軍団の重みでカーテンレールが外れそうになってやがる。思わず頭を抱えてしまった。

結局、良い歳をした野郎共のてるてる作りは夜中まで続いた。俺は眠くて途中で寝てしまった。みんな俺の部屋にいたから布団が引けなかったっつーの!

ケータイのalarm音で目を覚ました俺は一直線にベランダの方へと向かった。昨日見たよりも格段にてるてる共が増えていた。溜め息を一つ吐いて、俺は一気にカーテンと窓を開いた。

晴れていた。ぴっかぴかに晴れていた。快晴ってヤツだ。俺の一人負けじゃねーか、ちくしょう!

ベランダに出て辺りを見回してみた。ついさっき雨が止んだばかりなのか、街中がきらきらと光を反射している。ふと視界の隅に鮮やかな七色が飛び込んできた。虹だ。ここから大分遠い家と家の間に虹のarchが架かっていた。なんだかちょっとだけ得した気分になった。

しょうがねぇ、ラーメンぐらい奢ってやらぁ。俺は雨上がりの街に背を向けた。部屋ん中で雑魚寝しているバカ共を起こさなきゃならない。ドカドカとわざと大きな音をさせて部屋に入っていった。

雨が降るのもそう悪くねぇな、なんて思ったりしながら。



―終―


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