<フィフティ・フィフティ>



「狭い」

そりゃ狭いだろうさ。六畳間で男3人、密集して川の字で寝るなんて正気の沙汰じゃねぇよな。でもアンタが言うな、毛利さんよ。なに元親に八つ当たりしてんだよ。俺の枕使うんじゃねぇ!

「狭過ぎるぞ」

「狭いよな」

八つ当たりされてるのに同調すんなよ、元親。枕でポスポス殴られてるじゃねーか。にしても俺に言われたって困るっつーの。狭いって文句言うんだったら自分の家に帰りゃあ良いのに。

今日は毛利も元親も真田も猿飛も勢揃いしてっから寝る場所に物凄ーく困ってたりする。他の奴らが困るのは分かるが何で俺が困らなきゃなんねぇんだ。Shit!

元親んとこは火事になっちまったからしょうがねぇけど、毛利は帰る家があるのに居座ってやがる。帰れっつっても聞く耳持たねえ。埒があかねーから諦めて狭い部屋に布団並べたのが数分前。

この配置でいくと俺が真ん中、俺を挟んで右に毛利、左に元親。毛利の隣に元親置くと毛利がキレるからな。で、幅的に3人仲良くぎっちり詰まって寝るしかない。どう見たってcapacity overだ。布団だって足りねぇし。元親なんかはblanket一枚だけだったりする。

「猿飛のところは奴と真田の2人か。此方は3人。不公平だな」

不公平も何もアンタが言う台詞じゃないだろ、ソレ。元親も何故かうんうん頷いている。

「5人ってのが辛いよな。偶数だったらちょうど半分になれっけどよォ」

「貴様が分裂するか消滅するかすれば解決するな」

人間としての存在を全否定かよ。どんな時でも元親は最底辺の扱いだな。そんな鬼畜な発言をされても元親はいつも通りに笑っている。慣れって恐ろしいな。

「じゃあ半々になるようにしたら良いんじゃない?」

「うおっ!?」

いつの間にか猿飛が背後にいた。気配消して近付いてくんな。お前は忍者か。ってまだ起きてたのかコイツ?真田は隣でもう寝てる筈だ。

毛利が怪訝そうに猿飛に聞き返している。半々って意味が分かんねぇ。毛利が言ったみたいに分裂しろってことか?

「だからそっちに半分、うちに半分体を持ってくりゃ良いんだよ。ソレを使ってさ」

ニコニコしながら猿飛は部屋を繋いでいる穴を指差した。成る程、その穴に入ったまま寝ればちょうど各部屋で半々になる。俺の部屋も2.5人、猿飛の部屋も2.5人。ちょうどbalanceも良い。それに俺の部屋も狭くなくなる。That's great!Nice idea!

なワケねえぇぇぇっ!大体誰がそこで寝るんだよ!?めっちゃ嫌な予感がすんだよ!大概俺か元親に回ってくるに決まってんだよ!

「名案だな。早速寝てみるが良い」

爽やかな笑顔で俺の肩に手を置くな!俺決定かよ。早ぇよ。

「待て待て!何で俺なんだよ!?アンタか元親で良いだろーが!」

「我にやれと言うのなら、貴様が寝ている間に生のオクラを身体中の穴という穴に突っ込むぞ」

「あー、オレだとまた壁壊しちまうかもしんねぇし」

何なんだ、その脅迫!?てか元親の野郎、自分の不幸っぷりを逆手に取って逃げやがった!目ェ泳いでんじゃねーか。

こいつらはダメだ。話にならねぇ。だったら言い出しっぺがやるべきだよな。俺はチラリと猿飛の方を見た。

「なんでコッチ見んのさ?俺は絶対ヤダよ」

猿飛は心底嫌そうな表情をしている。発案者の癖に嫌だってどういうことだ?俺だって嫌だっての。ま、料理作ってもらってる恩があるから猿飛に押し付けることは出来ねぇよな。

あぁ、真田にやらせるワケにゃいかねぇ。あの壁の穴を作った元凶だからな。これ以上壁を壊されて堪るか。

「そう考えると……」

結局出来そうなの俺だけじゃねーか!

思わず叫びそうになっちまった。口に出せば絶対押し付けられるに決まってる。いや、言わなくてももう決まってるようなものだった。

毛利がニヤニヤ笑っている。猿飛の笑顔も何だかスッゲー胡散臭い。なに期待に満ちた目で見てんだ、元親。ワクワクしてんじゃねーよ!

「クッソ!てめーら覚えとけよ!」

今日だけだ!こんなとこで寝るのは今日だけだからな。今度はアンタだからな、毛利!ギリギリと3人を睨み付けて、俺は壁の穴へと向かう。勿論枕を忘れずに持って。

背後で毛利と元親がクスクス笑っている。こういう時だけは仲良いんだな!

「あ、俺様帰れなくなっちゃうから先に失礼」

猿飛がひょいと立ち上がって先に穴をくぐっていった。俺もそれに続いた。

猿飛の部屋に置いた枕に頭を載せる。ちょうど腹の下からが俺の部屋に残っている部分だ。壁に阻まれて向こうは見えねぇが、あの2人はまだ笑っているらしい。声が聞こえてくる。

「ふぎゃっ!?」

突然足の裏をくすぐられて変な声が出た。元親か毛利かどっちだ?再びくすぐられそうになった瞬間、足を思い切り上げてやった。顔にでも当たったのか壁の向こうから、ぎゃっ、という元親の悲鳴が聞こえた。アイツが犯人か。一矢報いることが出来たお陰で気分が良い。

足の裏への攻撃とそれに対する防衛はしばらく続いていたが、流石に2時間もやっていたら飽きたのか奴等は何もしてこなくなった。ようやく寝れるぜ。ずっと足を動かしてたから疲れた。眠い。ねむ。

「へごっ!?」

うとうとしていたら突然顔に衝撃を受けて変な声が出た。目の前を見ると足がある。多分寝相の悪い真田の野郎だな。真田がゴロゴロ転がってきて俺の顔を蹴りやがったらしい。

「Goddam it!」

もう我慢出来ねぇ!こんなとこで寝てられっか!部屋に戻ってやる!

真田の足の親指をぐにゃりとつねってから穴を抜けて部屋に戻ると元親が大の字で寝ていた。2人分の幅を一人で使ってやがる。

毛利は毛利で俺が戻ってきても寝れないように、服や教科書を部屋中に散らばせていた。嫌がらせの天才か、コイツは。

頭の中でぷちっという音がした。腹いせに元親と毛利を足蹴にしておく。取り敢えず2、3回ほど。

元親からblanketを取り上げてベランダへと続く窓を開けた。発泡スチロールで塞がれている穴に気をつけながら腰を下ろす。

今日はここで寝てやる。何が何でも寝てやる。ここなら誰にも邪魔されない筈だ。まだまだ夜は肌寒いけど、blanketを持ってきたから大丈夫だろ。

空には沢山の星が瞬いていた。こんな経験滅多に出来るもんじゃねぇよな。でもアイツら絶対許さねー。明日起きたら蹴っ飛ばしてやる。

そんなことを考えながら、くしゅん、と一つ。俺は空に向かってくしゃみをした。



―終―


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