あんたら楽しんでるかい?

夏はやっぱり良いよなぁ!

海に来りゃ恋が出来る。

夜になりゃ祭もあるし、花火も上がる。

そして真夜中にゃ……



真夏のはデッド・オア・アライブ



「うーみーはひろいーぞぉ、おおきーいぞおぉぉぉ」

少々調子の外れた歌声が船の甲板に響いていた。船内に響く大きなエンジン音に負けないぐらいの声を出しているのは、もちろん真田である。

歌うというよりも大声でがなりたてている真田は、船の鉄柵から大きく身を乗り出した。勢いよく進む船に切られて飛沫となった波を触ろうとしているのだ。キラキラと太陽の光を反射する波に興味が湧いたらしい。

それに気付いた佐助が、慌てて真田を止めた。動く船から海に落ちたら大事である。それに救命設備の整っている大きな定期船とはいえ、自分から危険な行為をするのは他の客の迷惑になる。

もうダメでしょ、とどことなく母親のような口調で真田を叱る佐助に、政宗は思わず頬を緩ませた。最近、佐助は皆から母親――オカン扱いされ、そしてそう呼ばれている。本人はそれを否定し嫌がっているが、傍から見ればまさしくオカンなのだ。その面倒見の良さが全ての原因である。

「おっ、見えてきたぜ!アレだ、あの島だ!」

元親が叫んだ。その嬉しそうな声につられて、政宗は柵から少し顔を出した。風が頬を打つ。波飛沫から飛んできた小さい水滴が顔に当たる。

船の進む先に、緑に彩られた小さな島が見えたのだった。

何故、政宗たちが船に乗って島などを目指しているのか。それは、政宗のぼやきが発端となっていた。



夏休みも半分ほど過ぎようとしていたある日、政宗はふと自分の生活を振り返ってみて愕然とした。夏休みなのに何もしていない、どこにも出かけていない、夏を満喫していない、ということに気付いたのだ。

折角の夏休みなのだからどこかに行きたい、と思うのは若者ならば当然である。普段はバイト三昧で、たまの休みには家でダラダラとする。それだけで夏を終えるのは嫌だった。

夏の初めにわけの分からない出来事に巻き込まれた以外に、特にこれといったイベントもなかった。しかも、その出来事は楽しいとか嬉しいという形容詞で表せるものではない。一言でいうなら、鬱陶しいというものであった。

そんな体験だけが今年の夏の思い出になるなんて悲惨すぎる。そんなことを考え、自分の青春の在り方を疑問視した政宗は、隣人や居候たちに愚痴を溢してみたのだ。

一緒にセミ取りに行きませぬか、と言ったのは真田である。麦わら帽子姿で網と虫かごを持ってセミを追いかける自分の姿を想像して、政宗はきっぱりと断った。大学生にもなって、セミ取りはないだろう。

共に日輪を崇め奉りに参るか、と言ったのは毛利である。その行き先が想像つかないし、そもそも日輪に関係することは絶対に拒否したい。政宗は丁寧に辞退した。

皆でスーパーの特売に行こうよ、と言ったのは佐助である。特売ではお一人様いくつまでと数量の限られているものがあるため、大勢で行った方が良いと彼は主張する。もはや夏とか青春という言葉に掠りもしていない。何が悲しくて皆でスーパーの特売に行ったことを、夏の思い出にしなくてはならないのだろうか。

このように、本気なのかふざけているのか分からない意見が出される中、しばらく考え込んでいた元親が口を開いた。

「海に行かねぇか?」

珍しくまともな意見だった。その真面目な言葉に、他の4人は驚いていた。明日は雨どころか雪が降るやもな、と毛利が呟いた。

騒然とする周りの様子など意に介することなく、元親は続ける。何かを思い出しながら話しているので、最初は要領を得なかったが、まとめてみるとこうらしい。

元親の母方の実家がとある島にあり、そこに住む祖父母は既に他界しているが、家は残っているのだという。しかも残っているだけでなく、そこに泊まることが出来るように電気や水道も通っているらしい。いわゆる別荘のような扱いになっているようだ。

そこに皆で行かないか、と元親は誘っているのだ。

政宗は文句なく賛成した。そんな好条件の旅行など滅多にない。真田も海や島という単語に反応して、行きたいでござると大声で言った。

「なるほど、日輪同好会の夏期合宿というわけか」

どこをどう考えたらその結論に達するのか分からないが、毛利は一人で合点して喜んでいる。たまには羽伸ばししたいねぇ、と佐助も笑って言った。

期待に沸き始めた4人に、元親は一つ忠告をした。その島はあまり観光地化されてないので、コンビニや食事の出来る店などはないというのだ。

そうなると、食材などを持っていって自炊しなくてはならない。皆の視線が佐助に集まる。無言の内に食事担当を任されてしまった佐助は、引きつったような笑みを浮かべていた。

こうして、おだわら荘201号室と202号室の住人たちは、元親の言う島へと旅出ったのである。



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