オーウ、この街のミナサーンは死んだサカナのような目をしてマスネー!

現代のストレス社会に生きるワカモノは無気力覇気無し泥人形デース。

しかしワタシは愛の伝道師、即ちラーブテロリスト。

ミナサンに真実の愛を伝えるタメ。

腐った社会を変えるタメ。

ドカンと一発、愛ミナギってニエタギラせマース!



荒んだ社会にLOVEハリケーン!



初夏。鬱陶しかった梅雨も明け、夏が駆け足でやってこようとしていた。街路樹の緑も一段と濃さを増している。照りつける日差しの下、道行く人々は汗を拭いながら歩いていた。

そんな人々の様子を、政宗は冷房の効いた店の中から眺めていた。右手で頬杖をついて、左手に持ったストローでアイスコーヒーの氷をからからと掻き回す。

今日はここ「喫茶・本能寺」で待ち合わせをしていた。この店はおだわら荘から歩いて15分ほどの商店街の中にある。政宗はここを密かに気にいっていた。和風を意識した小綺麗な内装と和楽器を主とした心地よいBGM、そして厳つい顔をした店主の入れる芳醇な珈琲。街の喧騒を完全に遮断した別世界のような店に癒しを求めて、政宗は時々一人で来ていたりするのだ。

そんな場所で待っている相手は、現在政宗の保護者代わりを務めている片倉小十郎であった。出張でこの街まで来るということを彼から聞いて、会おうという約束をした。電話でちょくちょく話をしたりはしていたが、たまには直接会って顔を見ながら話をしたいと政宗は思っていた。

店の出入り口に取り付けられた鐘がカランと鳴って、政宗の思考が中断された。

「遅くなって申し訳ありません、政宗様」

待ち人が慌ただしくやってきたのだ。仕事の合間を見計らって急いで来たのだろう。スーツ姿の小十郎は上着を腕に掛け、シャツの袖を捲り上げている。この男がスーツを着ると全く堅気に見えないと、政宗は常々思っていた。思うだけで本人に伝えたことはないが。

隣の席に荷物を置いて椅子に腰掛けた小十郎の元へ、ウェイトレスが注文を聞きにやってきた。和服を纏った艶やかな女性で、ウェイトレスと表現するよりは場末のスナックのママと言った方が似合う。

「ホットを頼む」

「畏まりました」

水とおしぼりをテーブルに置いて、女性は店主に注文を告げに行った。店主と女性は夫婦か何かなのだろうか。上総介様、と呼び掛ける声がカウンターの方から微かに聞こえてきた。

こんなクソ暑い日にhotなんてよく飲めるな、と政宗は変なところで感心してしまう。

「政宗様、御調子は如何ですか?」

「ま、上々ってトコだ。大学もバイトもなんだかんだ言って楽しいし……周りに変人ばかり寄ってこなきゃな」

ポケットから取り出したハンカチで汗を拭きながら小十郎は政宗に尋ねてきた。電話口で大体のことは話しているが、部屋に住み着いている阿呆共のことはそう詳しく言っていない。一緒に住んでる奴らがいると話したきりだ。電話であの奇人変人のことを説明するのは相当難しい。だから、奴らのことは小十郎に直接会ってから話そうと考えていた。

ふぅ、と息を吐いた政宗はこれまで身の回りで起きた馬鹿馬鹿しい出来事を話し始めた。時折、あの変人たちの真似をしながら。



一通り語り終えた後、政宗はアイスコーヒーを一気に飲み干した。

「成る程、面白いことになっておりますな」

「軽ーく言うんじゃねぇよ、小十郎!結構大変なんだぜ?」

説明の最中で運ばれてきたコーヒーのカップを手に小十郎は感想を述べた。身振り手振りを交えて話す政宗の説明は臨場感に溢れていたので分かりやすかった。

ただ傍から見るとコントをしているようにしか見えない政宗の挙動は、あの和服のウェイトレスにこっそり笑われていたのである。政宗自身はそんなことなど全く気付いていなかった。

「あぁ、昨日獲れた野菜を持ってきたんです。皆で食べてください」

「Thank you、小十郎!ただ『皆で』は余計だ」

小十郎は隣の椅子に置いてあった青い鞄を政宗に渡した。結構ずっしりとしている。中にはキャベツでも入っているようだ。

そろそろ仕事に戻らなくてはならない。小十郎がそう告げると、政宗は会計の紙を持って立ち上がった。払わせるわけにはいかない、と小十郎は紙を受け取ろうとする。しかし、政宗は頑として紙を手放さなかった。

「いっつも世話になってばかりだからな、たまには良いだろ?こう見えても結構稼いでんだぜ」

手をヒラヒラと振りながらレジへと向かう政宗の背を小十郎は見つめていた。知らず知らずの内に柔らかい笑みを浮かべて。

一つ、本人に直接告げると全力で否定するのが目に見えていたので、敢えて口に出さなかったことがあった。

「昔に比べて、よく笑われるようになった」

同居人たちに関する愚痴を言っている筈なのに、何故か楽しげな表情の政宗。時折見せる笑顔は、彼が家にいた頃にはほとんど見ることの出来なかったものだ。

嫌だとか鬱陶しいとか口では言いながら、今の騒がしい生活が満更ではないに違いない。本人は無自覚なのだろうが。

しばらく見ない内に成長している政宗に嬉しさを感じると共に、一抹の寂しさも小十郎は感じていたのであった。



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