完全なる密室。約2メートル四方の閉ざされた空間に、男が二人。

一人は気分が悪いのか、口元に手を当てしゃがみ込んでいる。もう一人はその男を心配そうに見つめていた。

彼が心配しているのは、その男の体調ではない。後に起こるかもしれない惨事を心配しているのだ。

この密閉されたエレベーター内で今一番起きてはならない悲劇。その悲劇を防ぐために命を懸けた、一人の男の喜劇が始まろうとしていた。



の喜劇



何故こんな事になったのか。政宗は眉間を人差し指で押さえながら昨晩の出来事を思い返していた。



政宗の住んでいる201号室に意味もなく集まるようになった真田、佐助、毛利、元親の4人。不本意ながら、政宗の部屋は奇人変人の溜まり場になっていた。

昨日の夜は珍しく5人揃っていたのだ。政宗宅に間借りしている元親はバイトで忙しいらしく、ほとんど部屋にいることはない。毛利に至っては、いつ何時に侵入してくるのか分からない。

そんな生活をしていた彼らが偶然にも揃った。そこで佐助が出してきたのが、2本の酒。

数日前、101号室の前田家の奥さんから貰ったのだという。彼女の旦那の甥である前田慶次という青年がフラリとやってきて土産に置いていったらしい。一本だけでなく同じ種類のものをかなり大量に。

2人だけでは処理しきれず、誰かにお裾分けをしようと前田夫婦は考えた。その対象に選ばれたのが佐助だったのである。佐助は何故か前田家の奥さんと親しい。主婦同士気が合うんだろ、と元親が言っていたことを思い出した。政宗は佐助に少しだけ同情した。

兎も角、酒ががあるというかなり珍しい状況に201号室にたむろっていた面々は興奮した。変人揃いと言っても若者ばかり。酒があるとなれば必然的に酒宴になるわけで。

政宗の部屋で一晩中にも及ぶ酒盛りが始まってしまったのだ。

真田はまだ高校生なのでオレンジジュースを佐助から渡された。だが、酒が呑めないからと言って宴会を全く楽しんでいなかった訳ではない。酒に酔うことは出来なかったが、真田の場合は雰囲気に酔ってしまって人一倍騒がしかったのである。

一応政宗も未成年に入るのだが、大学生という事でそこら辺は問題にされなかった。呑むな、と言われても呑んでいたに違いないけれど。

早く一人前の大人になりたいと思っている政宗にとって、今まで年齢制限で出来なかった事が出来るようになるというのは何よりも嬉しいことなのだ。

この5人の内、特にハイペースで呑んでいたのが元親と佐助であった。ふと見るとコップが空になっている。元親は何となく分かるが、佐助も酒に強かったとは意外だった。

途中から始まった元親と佐助の呑み比べに何故か政宗も巻き込まれてしまった。その隣では、自作の「お館様讃歌」という滅茶苦茶なメロディの歌を真田が大音量でがなり立てている。政宗の部屋はかなり混沌とした空間となっていた。

こんな呑めや唄えやの馬鹿騒ぎの中で静かな男が一人。全く酒の呑めない毛利である。

真田と同じオレンジジュースをこっそり飲んでいた毛利に佐助が気付いた。それまで誰も気付いていなかったらしい。

何飲んでんの、と佐助は胡散臭い笑顔で毛利に近付いていく。我は呑まぬぞ、と忌々しげに吐き捨てた毛利を佐助は突然背後から羽交い締めにした。先程と変わらぬ笑みを浮かべて。

「俺様の酒が呑めないってワケ?」

大体、佐助の酒ではなくて前田さん家から貰った酒である。今振り返ると、佐助は完璧に酔っていたのだと思う。素面の状態であの毛利にあんなことが出来るわけがない。

そんな佐助の暴挙に元親も乗った。突然の事に慌てている毛利の首をガシッと掴んで、その顔に酒の入ったコップを近付けた。

何だか楽しそうだったのでつい政宗も参加してしまった。毛利に悩まされて溜まっていた日頃の鬱憤を晴らしたかったのかもしれない。政宗は毛利の両腕を掴んで暴れられないようにした。

そして、いつの間にか真田も参戦していた。助太刀致す、と意気込んだ真田は毛利の両足を渾身の力を込めて押さえつけていた。

ああいう時だけは素晴らしい連携を見せんだな、と政宗は昨夜のことを振り返って今更ながら感じた。

酒を呑ませようと奮闘する4人の男たち。必死に抵抗を試みる哀れな1人の男。コップからでは上手く呑ませることが出来なかった。毛利が暴れるので溢れてしまう。

そこで政宗が目をつけたのが酒の瓶。瓶から直接酒を飲ませることを思い付いたのだ。この時、すっげぇ俺 Nice idea!などとハイテンションな自画自賛をしていたことも思い出して、恥ずかしさが込み上げてきた。

それはさておき、政宗は元親に毛利の腕を押さえるように頼んで瓶を取ってきた。その中には結構な量の酒が残っている。



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