前置き:
宅配ピザのド○ノピザでは2011年11月28日から12月18日まで、「メガネ割」「独り身割」「おさげ割」「前田割」「課長割」「インコ割」「中二割」「一階割」「やさしさ割」というちょっと変わった割引サービスを行っていました。




ピザを頼む9の方法





朝晩の寒さと日中の暖かさに、季節の移り変わりを感じる初冬のある休日。政宗はいつものようにバイトを終えて、疲れた体を引きずりながら201号室へと帰ってきた。

部屋の扉を開け、中へと入る。部屋の暖かさは心地よい。しかし、相も変わらずむさくるしい男ばかりが集まっている部屋である。今日は居候たちが揃いも揃っているらしい。この男連中の熱で部屋が暖められているのかなどと不意に考えてしまい、政宗の全身にゾワッと鳥肌が立った。

頭をぶんぶんと勢い良く振る。さらに疲れた表情になった政宗は、中にいる居候たちに声を掛けた。

「今、戻ったぜー。もう夕飯は食ったか?」

「まぁぁぁだでござああぁぁぁる!」

政宗の問いに、真田が無駄に力をみなぎらせて答えた。普通に答えることが出来ないのだろうか、と思わず呆れてしまう。

しかし、この時間に夕食が終わっていないのも珍しい。食事を作ってくれる佐助に何かあったのか。不意に湧いた疑問を政宗は口にした。

「なんだ、猿飛が忙しいのか?」

「いや、そうじゃねぇ。たまにはピザでも頼もうってことでよォ」

政宗の問いに、長會我部が嬉しそうに答えた。貧乏学生やフリーターの集まりである201号室の面々では、なかなか豪勢な食事というのが出来ない。スーパーのセールで買ってきた安い食材を料理して、皆で分け合って食べるのだ。分け合ってというより、取り合ってという方が正しいかもしれない。ある意味、年齢の近い大家族気分である。

ただでさえ育ち盛りの大食漢がいるので、食事は質よりも量を選びがちである。だから、宅配ピザなどという量も限られ、金額的にも厳しいものを頼むとは珍しいことだった。

「pizzaって珍しいな。どういう風の吹き回しなんだ?」

「これを見よ!」

バッと毛利が取りだした一枚のコピー用紙。そこには宅配ピザで有名な店の名前と特別割引について書かれていた。それを見た政宗は思わず目を見張った。

「メガネ割だァ?」

見たことも聞いたこともない割引メニューである。内容を読んでみると、眼鏡を掛けている人物であれば割引がきくらしい。

一風変わった割引の羅列を流し読み、政宗はへぇと声を上げた。こういう趣の変わった割引はあまり見たことがない。上手い話題の作り方である。

一人感心している政宗に、慶次がへらへらと笑いながら話しかけた。

「この前田割が使えるってコトらしいよ。前田って俺だからね」

「ちょうど同じ名字だったのか。運が良かったな」

この部屋の住人に、割引対象の名字を持つ者がいるという幸運に恵まれたらしい。

長會我部や毛利、伊達といった名字はなかなか全国的にも珍しく、こういう割引には向いていないのだろう。猿飛に至っては、そんな名字の人間を探すのが難しいぐらいである。

「25%割引って結構大きいっしょ」

佐助がにこにこと笑って言う。その姿は家計を預かる母の如しである。毎日の食事を考え、その食費のやり繰りに苦労している佐助が言うのだ。この割引はとても得なのだろう。

ピザを頼むことで佐助の負担を減らせることが出来るし、何より普段の食事にはないメニューである。お得な割引を使って、たまには楽しい食事をするのも良いだろう。

「でもよ、この中の1つだけじゃなくて全部当ってたら、その分さらに割り引かれるんじゃねぇのか?」

「それならかなりお得じゃん!」

長會我部の何気ない疑問に、佐助がハッとしたように叫んだ。長會我部に言われるまで気付いていなかったのだろう。

この割引条件に全て当てはまれば、25%よりもさらに割り引かれる。そうなれば、かなりお得に食事をすることが出来るのだ。

紙に書かれた条件は9つ。前田割ならば慶次がいるため、既に可能となっている。他の割引がどのようなものか。佐助は目を皿のようにして、紙を見つめていた。

政宗としては早く食事にありつきたかったが、こうなった佐助を止めることは出来なかった。

「むむむ、独り身割ならみんな共通でござるな!」

「んな悲しいことを嬉しそうに言うなよ……」

満面の笑みを浮かべて言う真田とは対照的に、長會我部は悲しげに眉尻を下げる。今の状況では独り身であることを喜んでも良いが、本来なら喜ぶべきことではない。あまり胸を張って言えることでもない。

皆独り身という悲しい事実はさておき、この独り身割ならばここにいる全ての人間に当てはまっている。これならずいぶんと割引がきくのではないか。

「それぞれの割引に合う人物がそれぞれいるっていうのじゃ意味がないんじゃないかな」

佐助が不安そうに言う。確かに、その条件に合う人数を集めればかなりお得になる。しかし、そうなればピザ屋の売り上げが困ったことになるのは明らかだ。そこまで客に都合の良い割引などないだろう。

「ならば、全ての割引項目を兼ね備えた人物がいれば良かろう」

「ま、頑張れよ」

「え、ちょっとどういうこと?」

毛利と政宗にポンと肩を叩かれた慶次は素っ頓狂な声を出す。名字が使える前田割以外の部分で、自分に白羽の矢が立つとは思っていなかったからだ。

全ての割引条件に合う人間は、この面子の中で前田しかいない。そもそも前田という名字が使えるという話から始まったのだ。

「おさげ割のおさげなら、慶ちゃんも出来るっしょ」

「独り身割は言うまでもねーな」

佐助と長會我部は口々に勝手なことを言う。ええぇ、と慶次は情けない声を上げた。拒否する暇もなかったようだ。

おさげを作ることが出来る髪の長さをしていたのは幸いだった。皆から夏場は暑苦しいと虐げられている慶次の長髪も、こういう時ばかりはありがたく思われる。

そんな困った顔をしている慶次などお構いなしに、佐助を中心とした201号室の面々は話を進めていく。

「あとメガネ割か。メガネってこん中じゃ誰も持ってないかな」

この部屋には様々なタイプの人間が揃っているが、残念なことにメガネを掛けているタイプの人間はいなかった。メガネを掛けていてもおかしくない優等生タイプの毛利も視力に問題はなく、メガネを持っていなかったのである。

昨今、流行りのお洒落メガネなど聞くまでもなく持っていないことは分かる。このままではメガネ割がきかなくなってしまう。

佐助が腕を組んで悩んでいると、毛利が政宗を指さしてある作戦を提案した。

「伊達が人差し指と親指で輪を作って、前田の両目に当てて『これぞ本当の伊達眼鏡!』と言えば良いのではないか?」

「絶対No!」

そんな恥ずかしい行為など絶対にごめんである。政宗は全力で拒絶した。慶次が全て一身に担うという事態になっているからこそ、高みの見物で安心して笑っていられるのであって、自分まで巻き込まれることになれば笑っていられなくなる。

しかし、このままでは毛利の案しかないだろう。そんな雰囲気が室内に漂い始めた。早急にこの雰囲気をなんとかしなくてはならない。

「本物のメガネでなくても、メガネっぽいものとか、似たようなもんで良いだろ?」

「おぉ!そういえば眼鏡に似たものならば某が持っておりますぞ!」

Niceだ、真田!と政宗は心の中でガッツポーズを作る。隣で毛利が舌打ちした音が聞こえたのは、おそらく気のせいではないだろう。

ゴソゴソと学生鞄を漁って真田が出してきたのは、黒い丸縁に髭の付いた玩具の鼻眼鏡であった。何故そんなものを学生鞄に入れているのか。この男に突っ込みを入れ出したらきりがない。

真田は取り出した鼻眼鏡をギュッと握りしめる。

「鼻眼鏡でも立派な眼鏡……慶次殿ならば立派に付けこなしてくださると信じておりまする!」

「そんな信じ方されるのはちょっと……」

ワクワクと期待に満ちた眼差しを向ける真田に、慶次は引きつり気味に笑った。鼻眼鏡が似合うなどと言われて喜ぶ人間はいないだろう。

とりあえず、眼鏡割は真田のメガネで解決だろう。政宗としては解決にしたかった。毛利の案に決まらなければ、何だって良い。

「次の課長割だけどよ。課長ってあだ名でも良いんだな」

政宗は話題を素早く次の割引に移す。もたもたしていたら、また自分に何か話を振られる恐れがある。他人への嫌がらせを進んで心掛けている毛利がいるので、油断は出来ない。

「でも、あだ名で課長って呼ばれたことなんかないよ」

「課長って貫禄でもねぇしな」

慶次の呟きに、長會我部が頷く。社会人ならいざ知らず、この年齢で課長などというあだ名を付けられることなど、よほどのことがない限りないはずである。自由人然たる慶次の姿を見て、課長というあだ名を付けろというのが無理な話だ。

しかし、課長割の為には課長というあだ名で呼ばなくてはならない。慶次に相応しい課長という役職に絡んだあだ名は何か。皆で悩み始めた時、毛利がピッと挙手した。

「ならば、今この時任命してしんぜよう!」

「ちょ、いきなり何なのあんた」

「日輪同好会、宴会活動課課長・前田慶次!」

両手を振りかざした後、毛利は大仰に慶次を指さす。指を差された当の本人は、心底嫌そうに顔をゆがめた。日輪同好会がこの場で出てくるとは考えていなかったのだろう。

しかし、宴会活動課というのはどのような課なのか。いや、そもそも同好会で課長などという役職など必要ないはずである。

突っ込み所満載のあだ名だが、これで課長というあだ名を使うことが出来るといえば出来る。疲れた顔をしている慶次に、真田がキラキラと瞳を輝かせて話しかけた。

「これで立派な課長でござるな!うらやましいでござる」

「そなたは主任ぞ、真田」

主任を任命されて、真田は諸手を上げて喜びを表現する。真田の場合、名前だけでも何かの役割をもらえることが嬉しいらしい。しかし、主任というのも何をするのか分からない役割である。おそらく、適当につけたに違いない。


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