貼り紙の写真で見る限り、第六天魔王の大きさはあまり分からない。何か比べるものも一緒に載っていると、よく分かったに違いない。魔王というぐらいなのだからそれに相応しく、volumeたっぷりなんだろうと密かに期待を抱いていた。

意味もなくmenuを見たりして待っていると、waitressが大きな木桶を抱えてやってきた。予想よりも一回りほど大きい。volumeたっぷりどころではなかった。たっぷりを超えて、どっかりとかどっかんとかそんな爆発的な擬音がピッタリな代物である。

流石魔王と名のつくかき氷だと、オレは少し動揺していた。これを30分以内に食べきることが出来るのだろうか。そんな不安が胸中をよぎる。今さら気付いたが、オレはあまり甘いものが好きではないのだ。Shit、すっかり失念していた。冷たいものという一面しか見えていなかったようだ。

かき氷が机上に置かれると、厳めしい顔をしたmarterがstop watchを手にしてやってきた。これで時間を計ろうというのだろう。無言のmasterから言いようもないpressureを感じる。

だが、ここまで来たらやるしかねぇ。何が何でも完食してやるぜ。オレは腹を決めた。いや腹を決めたというより、この困難な状況を楽しく感じ始めてもいた。逆境であればあるほど、燃えるtypeなのだ。

「では、始めえぇぇい!」

masterの声と同時に、オレは無言で巨大かき氷にspoonを伸ばした。サクリとした感触を捉え、すぐさま口に運び入れる。普段よりも口を大きく開いて氷を放り込んで、素早く胃へと送る。甘味が口にじんわりと広がるかと思ったが、冷たさで口内が麻痺したせいか、そうでもなかった。

最初は恐ろしいほどに順調だった。冷たいものに飢えていたオレは、spoonに氷を山盛り載せて口に運ぶという作業をひたすら続けた。かき氷を食べると頭がキーンと痛くなると言うが、そのキーンのキが来る前に次の山を食べていたので、それほど痛くはなかった。ただ口の中が冷たい、というより痛いという感覚になってはいたが。

木桶に入ったかき氷は早いpaceで着実に減っていた。この調子ならば、30分以内にはいけそうだ。水分でタプタプになった腹をさすりながら、オレは時間を計算した。残り10分、このpaceを崩さなければ大丈夫そうである。

しかし、ここで由々しき問題が起きた。氷の下に細かく刻まれたスイカが隠されていたのである。山盛りだった氷が随分と少なくなってから、ようやくソレが見え始めたのだ。

スイカという伏兵は予想外で、一瞬目眩がしたような気がした。いや、目眩ではない。幻覚が見えた。スイカを抱えて嬉しそうに笑っている小十郎の幻覚が見えたのだ。スイカも野菜だということを、教えてくれたのも小十郎だったっけな。

いやいやいや、今は小十郎のことなんか考えている場合ではない。気をしっかり持たねぇと、とオレは頭をぶんぶんと左右に振って、意識を現実に戻した。

しかし、これはマズイ。かき氷だけだと思って油断していた。時間的にも胃袋的にも余裕がない。

スイカをどう処理するか。種を一つ一つ取って食べる時間はないのでそのまま食べるとして、その数が問題だ。spoonを使って食べるのはかなり時間がかかる。

不意に、スイカは野菜だという言葉が脳裏に閃いた。そう、野菜なのだ。昔、野菜があまり好きではなかったオレに、小十郎が良いことを教えてくれたのを思い出した。

「まるごと食べられなければ、ジュース状にして飲んでしまえば良いのです」

野菜好きな小十郎の豆知識が、こんな所で役立つとは思わなかった。遠くにいる小十郎に心の中で礼を言いつつ、オレは木桶の中のスイカを見た。

スイカをjuice状にして一気に飲んでしまえば、時間的には大丈夫な気がする。しかし、spoonで潰して液状にしている時間はない。ならば、どうするか。人間追い詰められると、普段以上に頭が働くようで、オレは究極の策を思い付いた。

curryを飲み物だと言う奴だって、この世にはいるのだ。だから、ほとんど水分で出来ているスイカだって飲み物だと思えば良い。幸い、このスイカは喉を通ることの出来るぐらいの大きさで切られている。

無茶は承知だ。しかし、漢にはやらねばならない時がある。真田が言いそうな台詞だが、そう思い込むことで自らを鼓舞する。

ガッと木桶を掴んで、オレはスイカごと中身を飲み干そうとした。それを見て、masterは驚きで目を見開いた。waitressは思わず口元に手を当てる。

甘い水と化したかき氷と冷たいスイカを、オレは無理やり飲み込み始めた。んがが、とおかしな声が出る。食道がスイカを飲み込むのを拒否しているようだ。

思っていたよりキツかったので、丸飲みせずに少し噛み潰してから飲み込むようにした。そうすると、先ほどよりスンナリと胃に入っていく。OK、この調子だ。必死の形相でスイカを飲み込んではいるが、心中はcoolに構えていなくてはならない。

ぐぐぐと木桶を上にあげて、さらにスイカを口の中に流し込む。last spartだ。水分で胃がヤバいことになってきているが、あともう少しの辛抱である。なんとか持ってくれ、オレの胃袋!

「そこまでえぇぇぇい!」

masterの声が店中に響くと同時に、オレは木桶をドンと机の上に置いた。waitressが中を覗き込んで目を丸くした。そう、中身は空っぽだったから。スイカの種1つ残していないのだ。

完食した。やり遂げたぜ、小十郎。オレは満足そうな表情で、spoonを置いた。最後の方は全然使っていなかったが、この窮地を共に潜り抜けた戦友のように思える。

口の周りがベタベタになりながらもcoolに笑うオレを見て、masterはそっと右手を差し出した。オレもそれに応えて右手を差し出す。この店の中で、なんとも言い難い絆のようなものが、生まれたのかもしれない。

暑い夏は好きではないが、たまにはこんな日も良いかもしれない。晴れ晴れとした気分で、そんなことをオレは思っていた。



その後、部屋に帰ってから猛烈な腹痛に見舞われ、3日ほど腹を下して寝込むことになった。そしてその間、スイカを持って追いかけてくる小十郎という悪夢に苛まれる羽目になったのである。



―終―


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