それなりに料理は出来るようになったと言っても、普段から猿飛が作ってくれているので、どうにも勝手が分からなかったりする。
しかも、猿飛の部屋も俺の部屋に負けず劣らず暑かった。いや、閉め切ってる分、俺んとこより暑いんじゃねぇのか。
暑さのせいで食材を探すのも億劫になってきた。もう食えりゃなんでも良いだろ。kitchen周辺を漁って出てきたものは、cupnoodleだった。
それを2つ手にとり、俺は自室へ戻る。暑さと空腹のせいでぐったりと溶けていた真田は、cupnoodleを見て顔を歪めた。歪めたというよりひしゃげたって感じだが。
「ま、政宗殿……腹は空いておりますが、その、こんな暑い日にかっぷらーめんは……」
「Shut up!」
グダグダぬかす真田の頭にchopをお見舞いし、俺はその手元にcupnoodleの容器を放り投げた。
腹に入りゃ何を食っても、どんな食べ方をしても同じだ。俺は人差し指を立てて、真田に告げる。
「お湯は使わねぇ。男らしくこのまま食うべし!」
「なるほど!それなら暑くないでござるな!」
自分で言っておきながら、それで納得されると少し複雑な気分がする。真田は乾麺を取り出してガリガリと食べ始めた。俺もそれに続く。
暑い夏の昼間に暑い部屋の中で乾麺を貪り食う2人の男という図は、中々猟奇的な雰囲気を感じさせる、気がした。
兎にも角にも、lunchを終えた俺たちは、猿飛の部屋の冷蔵庫から持ってきた麦茶を片手に一息ついた。
余りにも暑いので冷蔵庫を開けた時、開いたままずっとそこにいたいと思ったが、電気代がかかって猿飛にどやされそうなのでやめておいた。
「暑い、で、ござる」
午後に入って一番暑い時間帯になった。俺も真田も溶けかけたクラゲのように弛緩している。
「そう言えば……心臓メッキャクすれば火もまた涼し、という言葉をお館様から聞いたことがありますぞ」
「そりゃ心臓じゃなくて心頭な。心臓滅却したらヤバいだろ」
互いに生気のない目を天井に向けて、他愛もない会話を続けていた。暑すぎて意識が朦朧としかけている。ただ単に腹が膨れて眠いだけなのかもしれないが。
突然、真田がムクリと起き上がった。
「試してはみませぬか、政宗殿」
真田の誘いを拒否しようと口を開きかけたが、さっきの諺が本当なのかどうか興味がないと言えば嘘になる。
心頭滅却すれば火もまた涼し。
この暑さから逃げられるのなら、心頭だろうが心臓だろうが滅却しても構わない。猛暑のせいで思考能力が鈍っていた俺は、そんなことを考えてしまったのだった。
「OK!試そうぜ、ってどうすんだ?心頭滅却ってなぁ、雑念を払うってことだったと思うが」
「雑念を払う……ためには周囲の世界を己から遮断しなくてはなりませぬな」
そう呟いた真田はおもむろに立ち上がって、窓の方へと向かっていった。そして開放されていた窓をガラガラと閉めたのである。
そのまま同じように玄関を閉めて、部屋の真ん中に戻ってきた。室内の暑さが一層増した気がする。
「これじゃ暑くねぇか?」
「いえ、暑いと思うから暑くなるのでござる!そう!心頭をメッキャクして、逆にどんどん暑くなれば涼しくなりましょう!」
何故か悟りを開いたかのような口調で突拍子もないことをほざき始めた真田は、押し入れの中から布団を引っ張り出し始めた。
冷静に考えれば、真田は暑さで頭がやられてしまったのだろうとしか思えない。だがしかし、残念なことに俺も暑さのせいで頭がやられかけていたのだった。
「なぁるほどねぇ……なら、いっちょ我慢対決でもすっかぁ?」
俺の脳は沸騰していたに違いない。coolにキメた俺の言葉に、布団を抱えていた真田はピクリと反応した。
「ぬぅうおぉぉ、見ていてくだされお館様ああぁぁぁ!某は負けませぬうぅぅ!」
布団を抱え上げて、真田は喧しく叫ぶ。部屋の温度がまた高くなった気がした。
抱えていた布団を下ろした真田は猿飛の部屋へと向かった。冬に使う分厚い半纏を2着持ってきたのだ。一つは自分ので、もう一つは猿飛のだろう。
「これを着てくだされ、政宗殿!これぞ我慢対決に相応しい格好であろう!」
笑顔で猿飛の半纏を渡してくる。良いぜ、そっちが本気なら、俺も本気を出してやる。
俺はkitchenに向かった。ヤカンに水を入れて、それを火にかける。沸騰したお湯で熱い茶を入れた俺は、それを真田の方へと持っていった。
「良いかい、今から飲めるのはこの熱いお茶だけだぜ?」
「承知!某は負けませぬぞ、政宗殿!」
真田は既に半纏を着て、更に布団を被っていた。俺も同じように準備をする。当初の目的はとっくの昔に頭から消えていた。
「燃えよ、我が魂!みぃなぁぎぃるあぁぁぁ!」
「上等だ、真田幸村ぁ!俺の全力を見せてやるぜ!」
8月某日、真夏日。記録的な猛暑となったこの日に閉め切った部屋の中、俺と真田は分厚い半纏をその身にまとい、熱い茶を飲みながら布団にくるまって、我慢対決という名の一騎討ちをした。
その後、死にかけていた俺たちを、帰宅した猿飛が発見したのは言うまでもない。
―終―
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