止める間もなく走っていってしまった毛利の後を追おうかと、政宗が店から飛び出した。その肩を慶次が掴む。

「俺が行くよ。こんなコトになったのも、あの人の言う通り俺のせいだ」

力なく微笑む慶次に、政宗はどう答えて良いのか分からなかった。毛利の言う通り慶次のせいと言うならば、危険を予測出来ず肝試しに賛同した政宗にも責任がある。その責任を、慶次は一人で背負おうとしているのだ。

戸惑う政宗に、佐助が人差し指を立てながらある提案をした。

「一か八か、あっちはケイちゃんに任せて、俺たちは山道から行ったらどうかな。どちらかがダメでも、どちらかが上手くいけば良いと俺は思うよ」

「しかし、ケイジ殿お一人では……」

真田が心配そうに慶次を見上げる。佐助の案では、慶次一人で毛利の元に向かうということになる。

真田は慶次が一人で行くのは危険だ、と言いたいのだろう。しかし、佐助は慶次の言葉からその覚悟を汲み取って、この案を提示したのだ。

「大丈夫、俺は一人じゃないよ。夢吉もいるしさ」

慶次はニッと笑って、肩に乗っている夢吉を指差した。その言葉を理解したのか、夢吉がキキッと小さく鳴いて反応した。そんな夢吉の様子に、政宗は緊張が少しだけほぐれたような気がした。

「それに、そっちの道も何があるか分からないから、3人で行った方が良いよ」

少しだけ険しい視線を山の方に向け、慶次は呟いた。彼の言うように、あの山道も安全であるとは言い切れない。

再び表情を崩した慶次は、手に持っていた懐中電灯を政宗に放り投げた。明かりがなければ、あの道を歩くことは出来ないだろう。

「じゃ、また後でな」

「毛利サンのこと宜しくね」

「ご武運をお祈り申す!」

3人からそれぞれ声をかけられた後、慶次は一本道に向かって走っていった。

しばらくその後ろ姿を見つめていた政宗たちは、自分たちのなすべきことを行うために西の山に向かって歩き始めた。

海の家から少し離れた場所に、山へと繋がる坂道があるのを見つけた。懐中電灯を持つ政宗が先頭になって、その坂道を登っていった。

そこは砂利で綺麗に舗装された山道だった。政宗の服を掴んだ真田が真ん中を、背後に注意を向けている佐助が最後に続いていた。進む内に道が上下二手に分かれていたので、なるべく逃げ場のある下の道を選ぶことにした。

海から少し離れたため、波の音ではなく虫の声がよく聞こえる。もう夏が終わるんだな、とこんな状況にも関わらす政宗はしみじみと感じてしまった。

「ぎゃあぁぁぁぁ!」

突然、絶叫に近い悲鳴が聞こえてきた。波の音や虫の声以外ほとんど何も聞こえない静かな島に響いた、場違いなその悲鳴は毛利のものであった。

「ちっ!」

「毛利殿っ!」

助けに行った方が良いのではないか。慌てて踵を返そうとした政宗と真田を、佐助が掴んで止める。

「大丈夫、ケイちゃんを信じようよ」

佐助は普段では考えられないほど真剣な眼差しで政宗たちを見つめていた。

ここから毛利を助けに戻ったとしても、間に合うかは分からない。毛利のところへ行って、皆してやられてしまったら元も子もないのだ。それに慶次が毛利を救出に向かっている。彼を信じて、毛利が無事であることを祈るしかなかった。

そう判断した佐助自身も、毛利を心の底から心配しているのはずである。頭に血が上っていた政宗も、佐助の言葉に冷静さを取り戻し、小さく頷いた。

一刻も早く助けを呼んで戻らなければならない。そう思うと、自然に駆け足で走っていた。佐助も真田も同じスピードで後をついてくる。

この時、ザザザッという草擦れの音が聞こえてきた。どこからだ、と思って周囲を見渡すと、山の上の方から斜面を下りてくる集団が見えた。確かめるまでもなく、あの異形のものたちであると分かった。上の道に潜んで、政宗たちを待ち伏せていたらしい。

「くそっ!」

慌てて懐中電灯を消すが、相手に気付かれてしまった後では意味がない。振り切って逃げようと、3人は足を速めた。しかし、山の斜面から飛び降りてきた2体のゾンビに行く手を阻まれた。

前後から囲まれてしまった。政宗たちは立ち止まって、それらを威嚇するように構えた。近くで見ると、奴らのその奇怪な姿がよく分かる。

数は5体、頑張れば倒せないこともないだろう――と思って、政宗はふと気付いた。相手は普通の人間ではない。どのような攻撃をしてくるかも、どのような特性を持っているのかも分からない状態だ。

ジリジリと焦燥感ばかりが政宗の胸を締め付ける。このままでは、どうしようもない。玉砕覚悟でぶち当たってみようか。

そんなことを考えていると、真田が突然政宗の腕を掴んだ。そして、そのまま前へと進み出たのである。

「政宗殿、某は何か考えたり覚えたりするのは苦手でござる」

何かを決意したかのような、さっぱりとした表情の真田が意味の分からないことを語り始めた。真田の言っていることが、今現在の状況にどう繋がるのか、政宗は全く理解出来ない。

「しかし、体を使うのは得意中の得意……」

真田が何を言いたいのか、ようやく分かった気がした。肉弾戦は自分に任せろ、と言いたいに違いない。

「佐助、政宗殿と先に行け。俺もすぐに後を追う!」

「旦那……」

真っ赤な鉢巻きをギュッと結び直して、真田は立ちはだかるゾンビを睨みつけた。



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