橋の中間あたりまで来た時に、政宗は後ろを振り返った。あのゾンビらしきものたちは橋を渡り始めたところらしい。その動きの遅さに少し救われているようだ。全速力で駆け抜ければ、奴らもすぐには追いつけないだろう、と政宗が思った時。

「だぅわっ!?」

叫び声と共に、ドバーンという音が海から聞こえてきた。何故か、元親が海に落ちたのだ。こんな状況で最高に最悪な不幸っぷりを披露するとは、流石元親としか言いようがない。しかし、今はそれを笑っていられる状態ではなかった。

政宗たちは元親を助けるために海に飛び込もうとしたが、慶次に止められた。あのゾンビたちが思っていたよりも早く近づいてきているのだ。

「誰か呼んできてから助けにいった方が良いと思う。あいつら数が多すぎるから、このままじゃ皆ここでやられちまう」

真剣な表情で言う慶次の言葉に、政宗はしばらく考えてから無言で頷いた。元親は心配だが、この状態で助けにいったらそのまま全員奴らの餌食になってしまうかもしれない。

「も、元親殿がっ!まだ……」

「旦那、落ち着いて!先に誰か呼んでこないと!」

真田は元親を助けに戻ろうとするが、佐助に取り押さえられる。佐助は慶次の言う通り、集落に戻り助けを求めてきた方が良いと判断したようだ。

毛利は元親が落ちた場所をジッと見つめていた。一体何を考えているのか、その表情からは分からない。このままぼんやり突っ立ていても仕方がないので、政宗は毛利の手を掴んで無理やり一緒に走り始めた。そのあとを慶次たちも追ってくる。

毛利の手を引きながら走っていた政宗は、ふと後ろを振り返ってみた。そして、見るんじゃなかったと即座に後悔した。落ちた元親を追って、ゾンビたちが海に飛び込んでいく光景がその目に見えたからだ。


* * * * *


海岸まで戻ってきた政宗たちは、一旦海の家に隠れることにした。全力疾走していたので、息がだいぶ上がっている。

慶次が素早く店の戸を開け、政宗たちを招き入れた。店内のテーブルの下に隠れて、外の様子を窺う。息をするだけで発見されてしまいそうな気になって、呼吸が上手く出来ない。こんなことになるなんて、全く考えてもいなかった。

追い掛けてきていたゾンビたちは、政宗たちに気付かず走り去っていった。しかし、まだ油断は出来ない。少し時間を置いてから、政宗たちは立ち上がった。

「取り敢えず、家のあるトコまで戻った方が良いね」

顔面蒼白の佐助がポツリと呟く。声に普段の余裕が感じられない。それは当然だと思う。こんな現実的でない出来事に巻き込まれて、普段通りに振る舞えるはずがない。隣に立つ真田は、佐助の服の裾をギュッと握り締めている。

兎も角、島の人々に協力を要請して元親を助けなければならない。このままではにっちもさっちも行かない状態だ。しかし、助けを呼んだからといって、それで解決するのか。そんな不安が政宗の脳裏にチラチラ浮かんでくるが、何もしないままでいるわけにはいかなかった。

「取り敢えず警察だろ。まずは家のあるトコまで戻んねぇと」

「集落に戻るんだったら、あの一本道を行った方が早いけど、もしかしたら先回りされてるかもしんない……」

先ほど走り抜けていったゾンビたちが、政宗たちの先回りをして一本道にいるかもしれない。そんな可能性があるのに、その道を利用していくというのはかなり危険な行為だ。

「遠回りになるけど、西の山から集落に行ける道があるよ。ただこんな夜中だし、結構入り組んでいるから時間かかるけど」

腕を組んで慶次が呟く。山道から迂回していけば安全ではあるが、その分時間がかかってしまう。待ち伏せされているかもしれない大きな一本道を行くか、それとも時間はかかるが危険のない山道を行くか。政宗も佐助も黙り込んで考えていた。

「あの阿呆をあのまま放っておくわけにはいかぬだろう!」

この時、毛利が声を荒げた。茫然自失の状態から我に戻ったらしい。握り締めた拳を震わせている。

「貴様のせいだ!貴様があのような場所に連れていったから元親は……!」

毛利は大声を出しながら、慶次に詰め寄った。ある意味八つ当たりではあるが、その気持ちは分からなくもない。こんな理不尽な状況に陥ったら、政宗でも何かに当たりたいと思う。

いつもの毛利からは考えられないほど取り乱している。普段元親に対して酷い態度を取っているが、やはり何かあれば心配なのだろう。

「回り道など時間の無駄ではないか!仮に奴らがいたとしても突破していけば良い!急いで人を呼んでくれば、元親を助けられるはずだ!」

「落ち着け、毛利!」

「落ち着いてなどおれるか!我は一人であろうと行くぞ!」

毛利は既に冷静な判断が出来なくなっていた。隠れていた海の家から飛び出して、一本道の方へと駆けて行ってしまった。



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