「あぁ、ここからはライト消すよ。見つかるとヤバいかもしれないからね」
そう言って、慶次は持っていた懐中電灯の電源をoffにする。元親もそれに促されて光を消した。これからは、月明かりだけを頼りにしていかなければならない。
「あと、あまり大声で話さない方がいいかなぁ。実際、俺もちゃんと見るの始めてだから、どんなんなのかよく分かんないだよね」
ここで何かが行われているという噂を聞いただけで、実際何が行われているのかは慶次自身も知らないらしい。気になっていたそれを確かめるために、政宗たちを誘ったという部分もあるに違いない。
「もしかしたら、時季外れのお祭りでもやってたりしてね」
「campfireかもしんねぇぜ?」
ぼそぼそと小さな声で、佐助と政宗は互いの推測を交わす。慶次は『変なコト』と言っていたが、政宗は大概そんなに大したことではないと思っている。そこに行き着くまでに体験する、恐怖や冒険といったものを楽しむのが最大の目的なのだ。
再び慶次の後について岩場から少し移動すると、神社へと繋がっていく石段を発見した。一直線に向かっているのではなく、螺旋型に階段が作られているらしい。
「暗いから足元注意してかねぇとな」
一段一段しっかりと足を踏みしめながら、元親が小さく呟く。明かりになるのは、空に浮かんでいる月だけだ。しかも、背の高い竹に囲まれているので、その光もあまり届いていない。
ぐるりと小島の外周を回るようにして石段を登りきると、少し奥の方に神社が建っていた。いきなり6人でワッと飛び出していくわけにもいかないので、様子を窺いつつ近付いていくことになった。
中腰になって、それぞれ鳥居やら石碑やらの陰に隠れながら、神社を目指していく。政宗は元親と共に最前線で行動することにした。この緊張感がいつの間にか、高揚感に変わっていたらしい。
社殿の前では、何やら火が焚かれているらしかった。綺麗に組まれた木材が炎に包まれて燃えている。冗談で言ったキャンプファイヤーが当たってたのかもしれない、と政宗は一人ニヤニヤと笑っていた。
不意に、ギギッと木の擦れ合うような音が聞こえてきた。社殿の戸が開いたらしい。その中から誰かが出てきた。
真っ白な装束を身に纏ったその人物だった。神社なのだから、このような格好の人物がいても不自然ではない。ただ一つ違和感をもたらしているのは、その顔に被せられた狐面であった。
狐面の男は焚いていた火の前まで来ると、手に持っていた御幣をバサバサと振り始めた。同時によく分からない呪文を唱え始めたのだ。もしかしたらこれは祝詞というものかもしれないが、政宗は宗教に詳しくないので判断できなかった。
単調ではあるが、長く聞いていると心の内側から揺さぶられているような感覚を覚える声である。それに底知れない恐怖を政宗は感じ始めていた。
息を潜めて白装束の男の様子を窺っていたが、これ以上ここに留まっていては危険だと政宗の本能が警告している。周りの連中は、息を呑んでその光景を見つめていた。
「も、もう行こうぜ」
流石の元親も怖じ気づいたのか、小声で皆に帰ろうと促した。異論を唱える者は誰もいない。総員撤収とばかりに皆動き始めた――その時。
「うわっ!?」
慶次が何かにつまずいたらしく、大きな声を上げてしまったのだ。その瞬間、政宗は絶望的な気分に陥った。男がこちらを振り向くのが見えたためだ。
「……見ぃたぁなぁ」
酷くくぐもった声が男から発せられた。完璧に気付かれてしまった。このままでは本当にまずい、と直感的に政宗は思った。
男がよく分からない奇声を上げた。その声に反応して、神社の奥の方からわらわらと人が出てきた。20人ほどはいる。どうやら、仲間が隠れていたようだ。
しかし、人にしてはおかしい、と政宗は思った。何故か動きが緩慢で、足元がおぼついてないような感じなのだ。両手を中途半端に上げた状態で、ヨタヨタと動き回っている。
「……っ!?」
一瞬火に照らし出されて見えたその顔は、人のものではなかった。蒼白を通り越して最早色というものを感じさせない顔色、全くいびつに歪んだ輪郭、そして、目鼻など顔を構成するパーツは異様に大きかったり、ひしゃげていたりする。
ひっ、と政宗は思わず小さな悲鳴を上げてしまった。現実ではあり得ない。こんなよく分からないものが存在するはずがない。こんなホラー映画みたいな話があるわけない。
「ぞ、ゾンビだっ!?」
慶次が上擦った声で叫んだ。それを合図に、6人は逃走を開始した。
無我夢中で石段を転がるように駆け下りていく。ここでもし転けでもしたら、一巻の終わりである。震えて縮こまりそうになる体を叱咤して、政宗は走り続けた。
「おい、早く逃げねぇと!奴ら追いかけてきてるぜ!」
元親が振り返りながら叫んだ。絶叫に近い。あの異形の者たちが追い掛けてきている――そう聞いて、政宗の心臓が一気にすくみ上がった。
懐中電灯を持っている慶次が先頭を、元親が最後尾を走っていた。元親はチラチラと背後を振り返っている。石段を全速力で駆け下りると、コンクリート製の橋が見えてきた。
取り敢えずこの小島から逃げたとして、どこへ向かえば良いのだろうか。そんなことを話し合う余裕もなく、6人はひたすら走っていた。
6/12
*prev next#