慶次の案内に従って、5人は肝試しへと出発した。向かう先はどうやら、海水浴場らしい。

昼と同じ大きな一本道を6人は歩いていた。昼間も大して人などいなかったが、夜は全くと言って良いほど人の気配がしていない。こんな時期、こんな時間に海水浴場をうろつく人間など、この島にはいないのだろう。

ひっそりとした夜の闇に気圧されたのか、普段からうるさい真田も何故か静かに大人しく歩いている。大きな道なので電灯はそこかしこに設置されているが、古いためかうすぼんやりとした頼りない光しか放っていない。

慶次と元親が先頭を歩いている。2人とも手に懐中電灯を持っていた。元親が家の中を探したら、2つ出てきたのだ。何かあった場合に2つあると心強い。そう思った政宗は、自身の考えに少し驚いてしまった。

何かあったら――そんな思いはどこから湧いて出たのか。あの家で見た黒猫のせいだろうか。普段ならばそんなこと考えもしないはずだ。言いようもない不安に襲われた政宗は、頭を振って気持ちを落ち着かせた。

こういう時は無理やりにでも楽しいことを考えた方が良い。もしかしたら、これから運命の出会いというのもあるかもしれない。自然に囲まれた孤島に咲く一輪の花を偶然見つけられるかもしれない。

「そうだ、surpriseな出会いで、俺の青春はrose colorに染まってparadiseが始まんだよ!」

「どうしたの?飲みすぎた?それとも、頭沸いちゃった?」

佐助が気味悪いものを見るような目でこちらを見ていた。どうやら考えていたことが、そのまま声に出ていたらしい。ブツブツと意味の分からないことを呟いている政宗は相当気持ち悪かったようだ。

微妙な空気が政宗と佐助の間に流れる。政宗は誤魔化すように、Hahahaと乾いた笑い声を上げながらひょいと後ろを振り返った。最後尾では、毛利と真田が一緒に歩いていた。珍しい組み合わせである。

これまでの毛利の様子からいって、怖いのが苦手だと政宗も分かっていた。プライドの高い人物だから、そうとは認めないだろうが。真田と一緒にいるというのは、そのプライドが許す人物が彼ぐらいしかいないということである。政宗や元親には絶対来ないだろうことは、容易に想像出来た。

ようやく海水浴場に到着した。月明かりに照らされてはいるが、真夜中の海は冥府に繋がっているのではないかと思えるほど真っ暗だった。

「海の中から何本も白い手が出ておる心霊写真を見たことがあるか、真田?」

「む、昔テレビでやっていたでござるな」

「それを今、思い出してしまった……」

怖がりな2人は、自らの手で自らの首を絞めるような会話をしている。ドつぼにハマりかけているようだ。

自分で言っておいて蒼白になってしまった毛利と真田は、ニジニジと佐助の方に近寄ってきた。佐助は佐助で、ああもうなどと溢しながらも甲斐甲斐しく面倒を見ている。

「やぁっぱmammyは偉大だな!」

「海の藻屑にされたい、伊達の旦那?」

政宗の軽口に、佐助は物騒な脅しをけしかけてきた。笑顔で言う台詞ではない。

そんな普段と変わらない政宗たちのやり取りを、足を止めて眺めていた慶次は再びゆっくりと歩き始めていた。

「なぁ、ここじゃないのか?」

元親が懐中電灯の光を慶次に当てて尋ねる。ここから更に別の場所へと向かうのだろうか。

「ここじゃないんだよね。もっとあっち、あのちっちゃな島だよ」

慶次は手にしていた懐中電灯を遠くに向ける。その先には、小さな山のような島があった。元親が言っていた神社のある小島に違いない。

あの小島に一体何があるというのか。好奇心と恐怖心という相反する気持ちが同時に沸き上がるのを、政宗は感じていた。

再び5人は慶次に導かれて歩き始めた。海岸の西端は岩場になっており、十分注意しないと転けてしまいそうになる。元親と慶次が持っている懐中電灯で足元を皆の足元を照らしてくれているので、なんとか無事にコンクリート製の橋に辿り着くことが出来た。

「落ちないように気をつけなよ」

慶次が明るい声で注意を促す。柵も何もない、打ちっぱなしのコンクリートが橋代わりに延々と繋がっているだけなので、下手をすると海の中へダイブしてしまう可能性がある。こんな真夜中の真っ暗な海に飛び込みたいなどとは全く思わない。

ザブンザブンと波が打ち寄せる音ばかり聞こえてくる。いつの間にか、皆無言になっていたようだ。真田や毛利は、恐怖のせいで話す余裕がなくなってしまったのだろう。政宗は雰囲気に飲まれてしまって、話すことを忘れていたのだ。

何か馬鹿なことでも言いながら行こうか、と思い始めた時にちょうど目的地に到着した。コンクリートの橋から降りると、目の前には鬱蒼とした竹林が広がっていた。



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