「長曾我部よ。貴様は昔、綺麗な貝殻を集めたりする趣味がなかったか?」

「あった、あったけどよォ……焼けた貝殻はいらねぇっての!」

じゅうじゅうと焼けに焼けた貝の殻を、毛利は元親の顔に押し付けようとしている。まだやってんのか、と毛利と元親のやり取りを尻目に、政宗はテーブルの方へと向かった。

持ってきた数本の缶ビールをテーブルに置いて、政宗は佐助の手伝いをしようと近付いていく。片付けられた皿や網を見ると、すっかり綺麗に食べ尽くされていた。結構な量があったはずだが、飢えに飢えた若者たちの前では一溜まりもなかったようだ。

大体片付け終えていたらしく、政宗は紙皿と割り箸をゴミ袋に詰めていくという作業を任されただけだった。あとは明日でいいっしょ、と佐助は軽く笑って缶ビールに手を伸ばした。

同じようにビールを飲み始めた政宗は、妙に深刻そうな表情で佐助に話しかけた。

「なぁ、猿飛。なぁんか俺たちって華がねぇよな?」

「華?悲しくなるくらいそんなのないねぇ。ホント皆して縁がないんだよね。でもさ、野郎同士のバカ騒ぎってのも面白いもんだよ」

ビールを一口飲んだあと、佐助はいつもの困ったような笑みを浮かべて答えた。人生の酸いも甘いも知っているかのような返答に、政宗は思わずビールを吹き出しそうになってしまった。

政宗の反応に、失礼だなぁと佐助は笑顔のままでぼやいた。

「ハナと言えば、花火持ってくんの忘れちゃったねぇ」

夏と言えば海、そして忘れてならないのが花火である。そんな重要なものを持ってくるのを忘れていた。すっかり頭の中から抜けていたのだ。

「あぁ、忘れてたぜ。ホント持ってくりゃ良かったな」

「花火って言えば、ザビーさん思い出すねぇ」

佐助の困ったような笑顔は、いつの間にか引きつった笑顔に変わっていた。ザビーさん――夏の初めにワケの分からない騒動を起こす原因となった人物は、現在佐助の部屋の真下に住んでいる。

政宗も時々出くわしたりするのでご近所さんとして挨拶をしたりするが、当のザビーは相変わらず誰彼構わず勧誘しようと声を掛けてくるのだ。

それにしても、今夏の新たな出会いと言えば、このザビーか今日会ったばかりの慶次のみである。あまりにも寂しすぎる、と政宗は再び頭を抱えたのだった。

一人で悩み始めてしまった政宗に再び苦笑しながら、佐助は一気にビールを煽る。

「花火の代わりに肝試しってのも良いと思うけどね」

「肝試しかぁ……面白そうだけどよ、勝手に墓うろつくのも気が引けるしな」

元親はこの島のことに詳しいが、他の者はよく知らない。そんな土地の墓地を遊びに利用するのは良くないだろう。

食べるだけ食べ終わってこのまま寝るだけ、というのも何か寂しい気がする。もっと夏の夜をエンジョイ出来るようなことはないか。政宗だけではなく佐助や元親もそう思うらしく、何やら考え込んでしまった。

――その時。

「肝試し?なら、良いトコ知ってるよ!」

真田と貝殻を投げ合って遊んでいた慶次が突然声を上げた。先ほどの肝試しという言葉に盛大に遅れて反応したらしい。

「なんかあそこで変なコトやってるって噂なんだ。行ってみないかい?」

「あそこってどこだ?」

「へへっ、着くまでのヒミツ」

物凄く嬉しそうな表情で誘う慶次に、5人の反応は面白いほどに分かれた。

元親と佐助、そして政宗はその話に文句なく賛成した。孤島での胆試し――きちんと準備したものではなく、手を施されていない自然そのままの恐怖を体験出来るというのは滅多にないだろう。

もしかしたら、の自身の望むような華のある出会いもあるかもしれない。そんなことを、政宗は考えていた。

真田は顔を引きつらせていたが、怖がりだと思われるのが嫌なのか、反対はしなかった。

毛利は全く乗り気ではないらしい。心底不機嫌そうな表情をしている。

「胆試しなどという幼稚な遊びに、付き合うつもりはないぞ」

「じゃあ、ここに一人で残るってのか?」

ニヤニヤとした笑みを浮かべて訊く元親に、毛利はビクッと肩を震わせた。胆試しに興味がないというように毛利は言っているが、それは強がっているだけでただ単に怖いのが嫌なだけである。付き合いの長い元親は、それを見抜いていたのだ。

毛利はしばらく逡巡した後、彼らに渋々同行することを決めた。皆が行く肝試しについていくか、それとも一人でこの古い大きな家に残っているか。どちらの方が感じる恐怖を軽減出来るか考えた結果、皆と一緒にいることを選んだのである。

こうして、6人で食後の運動を兼ねた肝試し大会に向かうことになった。

「おっしゃ!これから夏の終わりの胆試しツアーってコトで、早速準備して行こうぜ!」

俄然張り切り出した元親は、懐中電灯などを取りに家の中に入っていった。蚊取り線香も欲しいね、と言って佐助も元親の後に続く。

ふとどこからか視線を感じた政宗は、背後を振り返った。そこには先ほどの黒猫がいた。金色の目をジッとこちらに向けている。一瞬悪寒を感じた政宗は、ゾクッと身を震わせたのだった。



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