別に隠し立てすることでもないので、政宗はこれまでの出会いや経緯を簡単に説明し始めた。
勘当同然で家を出たこと。真田や佐助との奇妙な出会いのこと。毛利の詐欺行為に近い勧誘についてのこと。元親とバイト先のパン屋についてのこと。そして、いつの間にか一緒にいるようになっていた彼らについて、政宗自身が考えている人物像というのを交えて紹介してみた。
「猿飛は面倒見が良くて手先も器用で、まるでmam……オカンみたいな奴だな。何かあれば頼りになるけど、生活面に関しちゃ結構口うるさいトコもあるし。色々相談にも乗ってくれるしな」
縁の下の力持ち、という言葉がこれほど似合う人物もいないと政宗は思う。自ら進んで表に出るわけではないが、佐助がいなければこの生活は成り立たないに違いない。
「真田は無駄に熱くてウルサイ馬鹿だな。良く言えば宴会部長みたいなもんか。悪く言やぁ、trable makerだ。突然何しだすか分かんねぇし。でも、アイツがいなきゃいないで寂しい……のか?」
熱血暴走少年・真田に関しては、取り敢えずバカという一言で済む気がする。ただ、真田が騒いだり、おかしな騒動を起こすお陰で、くよくよと考える暇がなくなるため、少しだけ救われている時もあるのだ。
「毛利は変人って言葉以外思いつかねぇ。でも、頭は良いんだよな。問題起きた時に解決策考えてくれたりするし、参謀って感じか。言動がまともなら凄いヤツだと思うぜ」
天は二物を与えず、という言葉がまさに当てはまる人物である。出会いからして尋常ではなかった。しかし、元親の言うように根は悪い人間ではない、と政宗は思っていたりする。
「元親はunlucky man。この中じゃ色々と引っ張ってく牽引役っつうのか?結構気の良いヤツだと思うんだけど、人を巻き込む運の悪さなんだよな」
佐助が母親ならば、元親は父親に近いのだろう。毛利にいびられ、その不幸っぷりを皆からいじられながらも元親は頼もしい存在感を持っている。政宗にしてみれば兄貴分的なバイトの先輩でもある。
悪口ともつかない紹介を並べ立てながら、政宗は彼らの変人度合いを再確認した。それと同時に、迷惑ではあるけれども、一緒にいてくれると有難い存在になりつつあるとも感じていた。そんな自分の心境の変化に、政宗は少々戸惑っていた。
一通り話終えると、慶次は何故かさらに好奇に満ちたような目を向けてきた。
「なんかホントに面白い集団だねぇ。でさ、あんたはどうなの?」
「俺?」
「そう。個性的なヤツばっかだから、あんたも同じ感じなのかと思ってね」
唐突に問われて、政宗は返答に窮してしまった。自分は一体どうなんだろう。真田たちのことはポンポンと、それこそマシンガンのように思い付いたことを話せるが、いざ己のことを聞かれるとどう答えて良いのか分からない。
周りから見た自分は、どのような人間なのだろうか。しばらく考えたあと、政宗はぽつりぽつりと答え始めた。
「……俺は極普通の健全な大学生で、この中じゃ突っ込み役だな。一斉にボケられると手が足りなくなるっつうの」
取り敢えず、無難な回答で政宗はお茶を濁す。それに突っ込み担当というのは事実である。政宗はあの中では結構な常識人だと胸を張って言えるのだ。
ニヤリと不敵な笑みを湛えて言い終えた後、政宗は少し黙り込んでしまった。
客観的に見て、自分はどんな存在なのか。この中ではどのような役割を持っているのか。それを考えれば考えるほど、渡船場で感じた一種の不安のようなものが、自分の中で大きくなっていく。
政宗の心中の機微を感じたのか、慶次は満面の笑顔でバシバシと肩を叩いてきた。
「へへへっ、あんたもなかなか大変みたいだねぇ!」
「あぁ、大変だぜ。心の底から大変だ。いつも振り回されっぱなしだからな」
「ま、そういう時は恋でもすりゃいいさ!恋に夢中になってりゃ、大変じゃなくなるよ」
慶次に言われて、政宗はハッと気付いた。全く色恋沙汰とは関係のない生活を送っていることに。
青春がしたい、夏らしい思い出を作りたい、と思っていたのに、考えてみれば野郎ばかりで華がない。それよりも何よりも、身近で親しい女性と言えばバイト先のかすがしかいない。しかも親しいと言えるような間柄でもない。時々殺気を政宗に放ってくる。
こんな青春で良いのか、と頭を抱えて自問自答する政宗を見て、慶次はげらげらと笑っていた。
「っと、こんなトコで一人漫才してる場合じゃないよ」
一人漫才と言われて政宗は一瞬ムッとするが、慶次の言う通りこんなことをしている場合ではない。冷蔵庫から缶ビールを数本引っ張り出すと、慶次と分担して外に持って行った。
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