日輪に関する話を佐助に止められて毛利は少し不機嫌になっていたが、政宗たちの方に向き直って準備が出来ていると知るとニンマリと気味の悪い笑みを浮かべた。

「ふむ、準備は出来たようだな。ではこれから日輪同好会夏期がっ」

「いよおぉぉし!ガンガン焼くぜえぇぇ!」

「まず最初は野菜からね!文句言う奴は俺権限で肉ナシだからね!」

元親に台詞を遮られた毛利の顔が、みるみる内に険しくなった。かなり怒っているに違いない。後からどのような報復が元親になされるのだろうか。政宗は期待と憐憫の情の籠った視線を元親に向けた。

そんな毛利の怒りに気付いていない当事者は、次々と魚をひっくり返していった。その隣では、佐助が手早く網の上に野菜を並べている。食事係からの肉なしという脅し文句に、抗議をする勇気のある者はいなかった。

野菜が十分焼けるまでには時間が掛かりそうだ。

魚の焼ける香ばしい匂いが政宗の鼻腔をくすぐる。昼にかき氷を食べてから、何も口にしてなかった政宗の胃はそろそろ限界に達していた。

「おい、魚焼けたみてぇだから食っていいぞ!」

元親が嬉しそうに伝えるや否や、網の上に箸が飛び交った。政宗と真田と毛利の箸だ。

真田が腹を減らしていることは先刻から承知しているが、毛利が箸を伸ばすとは思ってもいなかった。考えてみれば、気分が悪い時には何も口にしていなかったので、腹が減るのは当然と言えば当然だ。

3人はお互いに視線を交わして牽制し合う。誰かの箸が魚に近づくと、他の2人がそれを阻止する。そんな攻防を繰り返して、しばらく膠着状態が続いた。

再び3人が睨み合った瞬間。

「食わねーんだったらもらうぜ。焦げちまうしな」

「なっ!?元親殿おぉぉぉ!」

元親が魚を自分の皿に載せて食べ始めてしまった。真田の驚愕に満ちた叫びが庭に響く。三つ巴の争奪戦に、あっさり幕が引かれたのであった。

政宗と毛利は箸を握ったまま、険しい顔をして視線を交わしていた。言葉はなくとも、互いに何が言いたいのかはよく分かる。ここに2人の対元親共同戦線が張られることとなったのである。

「まーまー、他にも焼けたみたいだからさ。この貝ももう食べれるよ、旦那」

今にも泣き出しそうな顔をしていた真田を、佐助が苦笑いしながら宥める。その隣で慶次も笑っていた。やっぱコントみてぇだ、と聞き捨てならない台詞を吐いている。

野菜も程よく焼けて、皆が待ちかねていた肉が投入された。金のない貧乏学生やらの集団としては、肉など値の張る食材を思う存分食べられることなどほとんどない。こんな滅多にない機会に、質素倹約生活を営んでいた政宗たちは心を踊らせていた。

肉は野菜などとは異なり、網に載せればすぐ焼き上がる。焦げてしまう前に、と皆それぞれ素早く箸で肉をかっさらっていく。

「牛ならば少しぐらい生焼けでも大丈夫だとよく聞くでござる!」

「いや、それ焼いてもいないただの生だから!」

まだ網に置かれていない肉に箸を伸ばす真田に、慶次が突っ込みを入れる。なんだかんだで意気投合しているようだ。

「……なぁ、なんでオメェら俺の皿にオクラばっか載せてんだ?」

「なに、肉ばかり食べておっては将来メタボリック症候群とやらにかかるやもしれぬからな」

「そうそう、テメェが将来fattyにならねーよう気遣ってやってんだぜ?」

政宗と毛利は、焼けたオクラを元親の皿に次から次へと載せていっている。どんどん積み上げられるその所々焦げたその緑色の物体は、元親の皿の上で山を作っていた。そのせいで、元親は肉を皿の上に載せられなくなっていた。

元親の苦情に毛利も政宗もしらっとした表情で答えるが、これは対元親共同戦線としての作戦行動である。元親に肉を食わせず、オクラ地獄に陥れる。これが彼らの復讐であった。

「あんまり魚とか貝とか食べる機会がないから、一杯食べとかないとねぇ」

佐助は真田とは異なり肉ではなく魚や貝を皿いっぱいに載せて、ひたすら口に運んでいる。それらを素早く口に放り込みながらも、合間に慣れた手付き肉を引っくり返すという主婦顔負けの凄技を見せていた。

肉やら魚やら野菜やらを心行くまで食べ終え、政宗は冷やしていた缶ビールを取りにいこうと家の中へと入っていった。その後を、何故か慶次が追ってきていた。

「外から見たらすんげーボロいかと思ったけど、中は案外普通なんだねぇ。いやさ、幸村がね、あんたンとこの方がボロいって言っててさ、どんな感じなのかと思ってね」

「HAHAHA!……あのアホ後で絶対シメる!」

余計なことを言いやがって、と政宗は眉間に皺を寄せた。ただ、ボロいのは本当のことなので、慶次に対してそれは違うと言えないのが悲しい。

政宗の部屋は古い狭い汚いと三拍子揃った上に、壁に穴があいているという救いようのない住居環境なのだ。しかし、壁の穴は真田が原因であり、ボロいなどと言われる筋合いはない。そう思うと、あの熱血阿呆に対する怒りが更に募った。真田を後でどうシメようかと考えていると、慶次が顔を覗き込んで尋ねてきた。

「そういやさ、あんたらってどういう関係なんだい?」

「関係?」

「うん。見た感じでは友達同士っぽいんだけど、なんか凄く所帯染みてるっていうか、家族みたいな感じするっていうか、なんだか気になってさ」

慶次の洞察力に、政宗は少しだけ驚いた。友達同士――とは一概に言えない関係なのは事実である。政宗が望んだわけではないのだが何故か一緒に暮らしているという、言葉で説明するのは物凄く難しい彼らと自身との関係を、一緒にわいわい騒いでいるだけで慶次は感じ取っていたようだ。



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