暴れる真田を庭に連れ出してはみたものの、さてどうするかということまでは考えていなかった。

真田は目を離すとすぐさま家の中に入っていこうとする。政宗はそれを懸命に阻止する。どうやら何かモノでも与えて気を逸らすしかないようだ。

政宗は近くに生えている猫じゃらしを見つけた。生物的退行をしているというならこんなのでも良いだろうと、それを真田の目の前で揺らしてみた。

顔の前で動く猫じゃらしに早速興味を示した真田は、手を上げてそれを掴もうとする。まるで猫のような反応だ。

これがなかなか面白い。右に動かせば右に、左に動かせば左に追いかけてくる。素早く動かせば、それに合わせて反応する。暇潰しにはちょうど良い遊びだと政宗は思った。

しかし実は、目の前の男は猫ではなく、腹を空かせた虎だった。何を思ったのか、突然真田は政宗の右手にがぷりと噛みついたのだ。

「ぎゃああぁぁぁっ!おまっ!食うんじゃねえぇぇ!」

真田はがぶがぶと政宗の右手に歯を立てる。政宗は右腕を思い切り振り回して、食らい付く真田を振りほどいた。

右手を見ると、手のひらと甲に歯形がついていた。何よりも痛い。

容赦なく噛みついてきた真田にどう仕返しをしようかと考えていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「たっだいまー!遅くなって悪かったな」

「伊達よ、我を崇め奉るが良い!」

寄り道をしていた元親と毛利である。開口一番、毛利はワケの分からないことをのたまった。普段から毛利は理解の範疇を越えたような言動をしているが、これほど突き抜けているのも珍しい。

よく見ると、元親はその手に見覚えのない袋を提げている。本当にどこへ行っていたのだろうか。懲りずに噛みつこうとする真田を羽交い締めにしながら、政宗は元親と毛利に尋ねた。

「アンタら、どこ行ってたんだ?」

「それがよォ、コレ見てくれよ!」

嬉しそうな声で元親は、持っていた袋を政宗に差し出した。袋の中身を見ると、そこにはトウモロコシやトマトなどの野菜が入っていた。

「どうしたんだ、コレ?」

「あちこち歩いてたらよ、知り合いのばーさんに会ってコレもらったんだ」

「全ては我が策の内よ」

元親に続いて、毛利が誇らしげに言う。どうやら船酔いからは完全復活しているようだ。いつも通りの立ち振舞いに戻っている。

「此奴が幼い頃からこの島に来ているというのを聞いておってな。それなら親しい者もおるだろう、上手くいけば何かもらえるだろうと思って連れていったのだ」

なるほど、と政宗は心の中で感心した。食材が足りないかもしれないという佐助の言葉を聞いて、それならば調達してくれば良いと思って策を考えたらしい。

相変わらず頭の回転が早く、抜け目のない男だと政宗は思った。これで言動がまともだったら言うことなしだ。

ただ素直に誉めると、日輪がどうのと増長しかねないので、敢えて言わないことにした。

「な、スゲーだろ!このトウモロコシなんか、ついさっき獲ってきたばっからしいぜ」

元親が袋の中から一本のトウモロコシを取り出した。その言葉通り、綺麗な緑色をしていて瑞々しい。粒もぎっしりと詰まっているようだ。

そこで、政宗ははたと気付いた。ここで食べ物を出すのはマズイ、と。奴が再び暴れ出すに違いない、と。

袋を持って早く家の中に行け、と政宗は元親に言おうとしたが、一瞬遅かった。

「ぎゃああぁぁぁっ!何すんだああぁぁ!?」

「だああぁぁ!真田、落ち着けっ!」

真田が元親に飛びかかった。元親の持つトウモロコシを奪い取ろうしたのだ。政宗は慌てて真田を押さえようとする。しかし、その馬鹿力には敵わず、押さえることが出来なかった。

すると突然、毛利が元親の持っていたトウモロコシをひょいと取り上げた。そして、そのまま遠くへと放り投げたのだ。

大きく弧を描いて地に落ちたトウモロコシは、ごろごろと坂道を転がっていく。真田は全速力でそれを追い掛けていった。

「しばらくは戻らぬ筈だ。長曾我部、早う準備するのだぞ」

何事もなかったかのようにそう言い放つと、毛利は元親から野菜の入った袋を受け取って家の中へと入っていった。

2人ともしばし呆然と立ち尽くしていたが、元親は何かを思い出したかのように動き始めた。

「そうだ、手あいてんだったら手伝ってくれよ」

「なにすんだ?」

「今日はバーベキューやるんだってよ。その準備だ」

今日の夕食はとんでもなく凄い、と佐助が言っていたのはそれだったらしい。普段の食生活から考えると、かなり豪華だと言える。

時間はあるのに金はない――そんな連中ばかり集まっているから、その食生活は推して知るべし。

「こんなの持ってたのか、お前のgrandparents」

「ぐ、ぐら?……まぁ、昔みんなで集まった時によくやってたんだ」

政宗は元親と共に納屋の中から、バーベキュー用のグリルや炭などの必要なものを運び出す。

準備をしている時点で、夕飯に対する期待が高まってきた。これぞ若者の青春という気がして、政宗は上機嫌だった。



―続―


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