焼きそばだとか焼きアサリだとかメニューは色々あったが、かき氷メロン味という毛利の言葉が、彼の意地の悪そうな笑顔と共に頭の中をグルグル駆け巡っていた。何故か気になって、食べたくなっているのだ。まるで呪いをかけられたように。

結局、かき氷のメロン味を頼んだ。とにかく夕食は凄いよ、と食事担当大臣から聞いているので、昼食を少しぐらい減らしても困ることはないだろう。

店員から山盛りサービスされたかき氷を受け取ると、政宗は店の前にいくつか置かれている白いプラスチックテーブルに向かった。先ほど設置したビニールシートの場所まで戻るのは面倒である。また、かき氷を持っていけば、毛利に催促されるに違いない。

夏の暑い空気に触れて、早くも溶け始めているかき氷を政宗は口に入れる。かき氷を食べるのは久しぶりだ。

夏の最初に喫茶・本能寺の特製かき氷『第六天魔王』を食べて、腹を壊してから全く口にしていなかった。その名にある通り、味も量も魔王というべきものであった。

ぼんやりと海で泳いでいる仲間たちを眺めていると、突然肩を叩かれた。先ほどの店員だ。

「あんたら、今日は民宿にでも泊まるのかい?」

馴れ馴れしいとも思える口調だが、特に気になることはなかった。自然過ぎて違和感がないのだ。

店員はさも当然というように、政宗のテーブルにつく。店の営業を放棄して良いのだろうか、などと一瞬考えたが、よく見れば海に来ている客はほとんどいない。従って、店に来る客もそうそう来ないので、暇を持て余しているのだろう。

「いや、連れがこの島に住んでる人の身内で、そこの家を借りてる、つーか……多分そんな感じだ」

「へぇ、珍しいねぇ。どこにあるんだい、その家?」

「Ah……確か渡船場出て坂上りきったところだったかな」

家に行くときはアヒルの子よろしく元親の後についていったので、正確な場所は覚えていない。しかし、何故海の家の店員からこうも質問をされなければならないのだろうか。

怪訝な表情をしている政宗に気付いたのか、今度はベラベラと自身の身の上話を始めた。

「俺、慶次って言うんだ。夏場だけのバイトでさ」

夏に繁盛する海の家は、その時期だけ臨時にバイトを雇うらしい。その時期が終わっても、慶次はしばらく残っていたのだという。

「俺は働きながら色んなところ回ってんだ。根無し草ってヤツかな」

「風来坊のfreeterか」

「ぶっちゃけ言えばそうなんだけどさ」

根無し草というと時代がかってなんとなく格好良く感じるが、簡単に言うならフラフラしているフリーターなのだ。政宗が苦笑しながらそう突っ込むと、慶次は心外だと言わんばかりの表情をした。

住み込みのバイトをして金を貯めながら、日本中を西から東へ北から南へ旅しているのだと慶次は続けて説明する。夏は大体涼しい地域で働いているのだが、今年は何故か海で働こうと思って、ここに来たらしい。

夏の海って青春だよねぇ、と意味の分からないことを慶次は遠い目をしながら呟く。政宗自身も若者らしい青春を期待してここに来たので、即座に突っ込むことが出来なかった。

「でさ、俺以外に他にもここでバイトしてた奴らはいたんだけど、シーズン過ぎたってことで帰っちまったんだ。今は俺1人ぼっちでやってるわけよ」

「でも、相当暇なんだろ?こんなとこで油売ってるんだからよ」

「そう、暇なんだよねぇ。俺と同い年ぐらいの奴なんて島にゃほとんどいないし」

そこまで言って、慶次は視線を上にずらした。なんだ、と思って政宗が顔を上げようとした時、頭部にベチャッと半液状のものが落ちてきたのだ。

「ぎゃああぁぁぁっ!?」
気持ち悪い感触に政宗が思わず悲鳴を上げて立ち上がると、半液状のものはそのまま砂浜の上に落ちた。

クラゲだった。多分死んでいるものだろう。半分溶けているそれは、砂の上に広がっていた。

なんでこんなものが、と思っていると、背後からヤケに機嫌の良さそうな声が聞こえてきた。

「うまそーなモン食ってんじゃねぇか。クラゲと交換しねぇか?」

元親がニヤニヤと笑っていた。こいつが犯人か。そう思うや否や、政宗は元親に回し蹴りを喰らわせた。

臀部に政宗の蹴りを受けた元親は、前のめって顔から砂浜に突っ込んでいった。政宗から反撃がくるとは考えていなかったのだろう。

慶次は2人のやり取りを見て、腹を抱えて笑っている。

「今の時期はクラゲばっかだな」

砂だらけになった顔を両手で叩きながら、元親は起き上がった。なかなか打たれ強い男である。

元親を思い切り蹴り飛ばしたことで機嫌を直した政宗は、再び椅子に座ってかき氷を食べ始めた。

「で、避難してきたってワケか」

「いや、クラゲのせいじゃねぇ。あんま海にいると日焼けしちまうだろ」

元親の一言に、政宗は吹き出してしまった。お前が日焼けなんか気にするタマかよ、と全力で突っ込みたかったが、食べていたかき氷が気管に入ったらしく、むせて出来ない。

政宗の反応に憤慨したらしい、元親は口を尖らせて反論した。

「これでも、日焼けにゃ気をつけてんだぜ」

「どこの女子高生だ、お前ー!」

その言葉に追い打ちをかけられ、政宗は堪らず声を出して笑い始めた。それにつられて、慶次も笑っている。



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