ペタペタとサンダルを鳴らして歩き続ける5人組。山と山の間に作られた大きな一本道をゆっくりと進んでいく。

しばらく歩くと、目の前に真っ白な砂浜と広大な海が見えた。5人は一旦立ち止まって、それを眺めた。

砂浜は随分綺麗に整備されている。真新しい建物、遊具やベンチのある広場、白いプラスチック製のテーブルがたくさん並んでいる海の家などがあった。

しかし、そんな場所とは裏腹に、人はほとんどいなかった。時期が外れているから、当然と言えば当然である。2、3組の家族連れが砂浜で遊んでいるだけだ。

それはそれで都合が良いと政宗は思った。観光客で賑わっていて、人波に揉まれるような海では遊びたくないからだ。これだけ人の少ない場所であれば、誰かに迷惑を掛けることなく思い切り羽を伸ばすことができるだろう。

「海でござるぅあぁぁっ!」

真田が突然駆け出した。期待と興奮が最頂点に達したらしい。浮き輪を抱えた暴走超特急は走りながらサンダルを脱ぎ、海に突入するという荒業をやってのけた。

そんな真田の行動に海の男心を刺激されたのか、元親も奇声を発しながら海へと駆けていった。持っていた荷物をその場に残して。

「ちょっと、昼ごはんどーすんの!?……って、行っちゃった」

「ま、腹が減ったら各自で買って食うってのでいいんじゃねぇか?」

皆で一緒に食事をしなくてはならない、などという決まりがあるわけでもない。好きな時に好きなように食べれば良いと政宗は思う。こんなただれた集団の旅で、協調性もへったくれもないだろう。

元親が置いていった荷物を政宗は抱え上げた。ビーチパラソルは思ったより重い。政宗と佐助は砂浜で適当な場所を探してビーチパラソルを差す。荷物置き場兼休憩所を作ろうとしているのだ。

ビニールシートが敷かれ、四隅に重しを置いて完成した簡素な休憩所に、すかさず毛利が座った。あまりの早業に政宗も佐助も声が出なかった。お前は忍者か、と心の中で突っ込むので精一杯だった。

「我がここにいてやろうぞ。思う存分遊んでくるが良い」

珍しく毛利が親切なことを言う。しかし、それは政宗たちのことを考えてのことではなく、自分の体調の悪さを考えてのことなのだろう。先ほどよりは復活していると言っても、やはり顔色が悪い。

互いに利害が一致しているため、特に文句も言わず政宗と佐助は毛利の言葉に従った。

「旦那たち、もうあんなトコ行ってるよ」

佐助が呆れたような声を出す。政宗が見ると、真田も元親も随分と遠くまで泳いでいるようだった。競争でもしているのだろうか。

「お前はどうすんだ?真田たちんトコ行くのか?」

「まっさかぁ!あんなトコまで泳ぐほど体力バカじゃないっての。俺は鮫に乗ってそこらへん泳いでるよ」

佐助は鮫型エアーボートを砂浜に広げ、空気を入れ始めた。空気入れを使っているが、大きいので中々全体には行き渡らないようだ。

真田は元親と一緒にいるので、佐助はお守りの役目から解放されたのだ。表情が普段以上に生き生きとしているように感じる。

「伊達の旦那は?」

「Ah、俺は先にメシ食ってくるわ。腹減ってるし」

ヒラヒラと手を振って、政宗は海の家へと歩き始めた。海で遊ぶのは心の底から楽しみであるが、まず腹ごしらえをしなくては動けない。

政宗の背後から、かき氷メロン味、という毛利の声が聞こえてきた。ついでに買ってこいということだろうか。面倒なので幻聴の類いだと思うことにした。

日に焼けて裸足では歩くこともままならない砂浜を進むと、目的の店が見えてきた。

海の家というよりも、喫茶店が海に進出してきたというような佇まいである。近くまで行くと、魚や貝の焼ける匂いが空腹を刺激した。

「おっ、いらっしゃい!」

店のカウンターから威勢の良い声が聞こえてきた。店員らしい。長い髪を後ろで結んで、黄色いTシャツを着ている。

さて何を頼むか、と政宗は壁に直接書かれたメニューを見た。腹は減っているが、これから泳ぐという時に腹一杯食べるわけにはいかない。かき氷、という先ほどの毛利の言葉が頭に浮かぶ。

そんな風にメニューを選んでいると、店員がにこやかな笑顔で話しかけてきた。

「お客さんたち、もしかして人のいない時期見計らって来たのかい?」

「いや、そういうワケじゃねぇけど」

人なつっこい笑みを浮かべて言う店員に、政宗は訝しげに答える。この時期に来るのに、何か悪いことでもあるのだろうか。

「そっかー!じゃあ残念ってわけじゃないな。今の時期は人いないけど、クラゲだらけで泳いだりすんの大変だからさ」

「……really?」

その言葉通りだとしたら、普通に泳ぐことなど出来ないだろう。思い返してみれば、数少ない他の客は海に入っていなかった。しかし、真田や元親は普通に泳いでいる。

「ホントだよ。だから、あんたの連れは凄いよなぁ」

「凄いと言やぁ凄いが、常識が通じないって意味で凄いんだ、あいつらは」

政宗が呆れたように言うと、店員は声を立てて笑った。



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