船上の旅を終え、ようやく港に着いた。船の中から渡船場へと、人が出ていく。お盆はとっくに過ぎているので、客もまばらだ。見たところ、政宗たちのような若者はいない。

異様に元気の有り余っている真田は、ぴょんぴょんと飛び跳ねるように船の外へと出た。佐助がそれに続く。

「おい、あんた大丈夫か?」

政宗は毛利に声を掛けた。青白いというより土気色に近い顔色をして、毛利はよたよたと歩いている。船酔いをして、港に着くまでずっと船室に籠って寝ていたのだ。口元を押さえ、ふらふらとした足取りで船から出た毛利の後を政宗が続く。

元親はこれまた更にたくさんの荷物を抱えているので、最後に出てきた。荷物持ちをしているのは、彼が不幸を呼び寄せる体質だからというわけではない。ただ単に、体格が良くて力があるためだ。だから船に乗る前に、皆から荷物を押し付けられたのである。

「真田幸村、ただいま見参っ!」

真っ青な空に向かって、真田が叫んだ。元気な馬鹿だ、と政宗は肩を竦める。政宗と真田の年はあまり離れていないが、真田のようにはしゃぐ気にはなれない。そういうのは自分らしくないと思っているからだ。

自分らしい、らしくないというのを具体的に説明するのは難しい。しかし、はしゃいだり騒いだりするのは真田担当なのだと政宗は考えている。佐助が食事係を任されたように。

ならば、自分はこの中でどのような役割になるのか。ふと、そんな疑問が浮かんだ。しばらく考えてみたが、特に納得出来るような答は出てこなかった。

政宗が皆の方に視線を向けると、元親が人数確認をしていた。5人だけなので人数を確認するも何もないと思うが、気分的な問題なのだろう。元親はそういうことに拘るタイプらしい。

今にも倒れそうな毛利はさておき、皆無事に船から降りたことを確認すると、元親は荷物を抱え直して言った。

「こっから、ちょいとばかし歩くぜ」

元親の祖父母の家は、なだらかな坂の上の突き当たりに位置するという。島全体はそう広くない。2、3時間も歩いていればグルリと一周出来てしまうほどである。

島の中は大きく分けて4つの区域から構成されている。まず政宗たちが降り立った渡船場のある集落部。島の中では北に位置し、島民の大部分はここに住んでいるのだ。

次に、島の南部にある大きな海水浴場。数年前に大規模な整備が行われたばかりで、砂浜も真新しく、シャワーや休憩所を備えた施設も新築された。観光事業を推進し、観光客を呼び込むために海水浴場を綺麗に整えたのである。

この海水浴場の西端から、ちょっとした小島に繋がる橋が架けられている。橋と言ってもコンクリートを小島まで繋げただけで、柵などもないから夜にそこを歩くのはとても危険らしい。その小島にあるのは小さな神社と竹林で、人は住んでいなかった。

島の東西には小高い山がある。それぞれ西山、東山と島民から呼ばれており、各山の南側の斜面には段々畑が作られていた。山の中には遊歩道も通っている。

集落から海水浴場に向かうには西山と東山の間を通る大きな一本道か、それぞれの山の遊歩道を利用するしかない。遊歩道は砂利道なので大体は一本道を通っていくらしい。

このように、島のことについて元親から説明を受けながら、一行は目的地へと向かっていた。

緩やかな坂ではあるが、道も悪く距離も長いので、目的の家が見えた頃には息が少しだけ切れていた。足元の覚束ない毛利は、佐助に手を引かれてなんとかついて来ているようだった。

「あぁ、あの家だぜ」

「なんと!?……お、おばけが出そうでござるな」

元親が指差す先を見て、真田は身震いさせていた。失礼な台詞に聞こえるが、実は政宗も同じような感想だったので何も言えなかった。どうやら佐助も同じらしい。

木で作られたその家は、今にも崩れそうな佇まいをしていた。外壁は所々ひび割れ、酷いところは剥がれている。家の隣にある納屋は薄暗く、何が入っているのか分からなかった。

呆然と家を眺めている政宗たちに構うことなく、元親は意気揚々と家の戸を開いた。鍵はかけてないらしい。こんな小さな島では鍵も必要ないのだろう。盗られる物も、盗ろうとする者もいないに違いない。

「疲れたろ?少し休んでから海行こうぜ」

ニコニコと満面の笑みを浮かべて言う元親に、政宗はハッと我に返った。家の中から手招きしている。

「ぬぅうおぉぉっ!お邪魔致しまするぅあぁぁっ!」

真田は意を決したらしく、叫びながら家へと突撃していった。そんなお邪魔の仕方は見たことがない。真田に続いて佐助、次いでヨタヨタした足取りの毛利、最後に政宗が玄関に入った。

入る時に背後から視線を感じた政宗は、怪訝に思いながら振り向いた。そこには、遠くから政宗たちを見つめる黒猫がいた。政宗が見ていることに気付いた黒猫は、さっとどこかに駆けていってしまった。

何か不吉な感覚が、政宗の背筋に走った。



2/8
*prev  next#

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -