堂々とした声が路地に響いた。

「そなたの大事なものは某が頂いた!」

宣教師の真横を滑りながら、真田は青い鞄を頭上に掲げる。一瞬の内に事態を理解したらしい宣教師は慌てて踵を返した。

「オーゥ、今度はアナタと追いかけっこデスカー?待ってヨー!」

風のように疾駆していく真田の後を、宣教師はズドドドと追い掛けていった。

宣教師に関しては、これでひとまず大丈夫だろう。残る問題は手元にある時限爆弾だけだ。

「おっし、今の内にさっさと行くぜ、猿飛!」

「りょーかい!……でもなんか心配なんだよなぁ」

ブツブツと呟きながら、佐助は自転車の後ろに跨がる。肩にしっかり掴まったことを確認して、政宗はゆっくりと自転車を漕ぎ始めた。

先ほど全力疾走した時に体力を結構使ってしまったので、勢いよく自転車を進めることは出来ない。佐助に道を教えてもらいながら、政宗はよろよろと危なっかしい動きで自転車を濃いでいた。

しばらく進むと、政宗の目の前に長い上り坂が現れた。自転車を漕ぐ足を止める。佐助はひょいと自転車から降りた。この坂を自転車で上りきる体力は政宗にも佐助にも残っていなかった。時間は惜しいが歩いていくしかない。

この時、見知った男の乗った原付が坂を下りてきた。

「なにしてんだオメェら?」

元親だ。政宗たちに気付いて、原付を止めながら話しかけてきた。

本日2度目の地獄で仏だ、と政宗は心の底から感じていた。原付という便利なものに乗っている元親に協力してもらわない手はない。

「チカちゃん、原付戻って来たの?」

「おうよ、やっと戻ってきたんだぜ!祝杯あげねぇと」

佐助の問いに、心底嬉しそうな表情で元親は答える。しばらく前に盗まれた原付が、運良く発見され戻ってきたらしい。普段の不幸っぷりからは考えられない運の良さである。

政宗と佐助は互いに顔を見合わすと、一斉に元親に向かって手を合わせた。

「ワリィ、元親!頼みたいことがあるんだ」

「今ね、ちょっとした緊急事態なのよ」

突然2人から拝まれて、元親はキョトンとした表情をする。一体どうしたんだ、と尋ねてきた。

政宗が事情を掻い摘んで説明をすると、彼は怪訝そうな顔で眉を顰めた。信じられないのも無理はない。

「あぁ、ドッキリでもしてんのかァ?後で元就あたりが大成功とか言いながら出てくるんだろ?」

「ドッキリじゃねえっての!元親、コイツを見やがれ!」

百聞は一見に如かず。政宗はスーパーの袋に入っている時限爆弾をその目の前に突き付けた。その中身を認識して、元親の顔がサァッと青ざめる。

「おいこれ本物じゃねぇか!じゃあ今の話もホントのことなのか!?てか、お前も大概不幸だよなぁ」

「テメェに言われたかねえぇぇ!」

微妙にピントのズレた感想を元親が述べる。こんな切迫した状況でも己のペースを崩さないのは流石だ。

そんな元親に苦笑しながら、佐助がこれからの作戦を告げた。

「取り敢えず先に警察署までそれ持ってってくんない?俺たちも急いで後を追うからさ」

「おう、任せときな!」

政宗からスーパーの袋を受け取ると、元親は原付のハンドルにそれをかけた。

原付ならば早く警察署まで行くことが出来る。そして、真田の元へ警察官を連れていけば、あのテロリストも逮捕出来る。これで何もかも解決する筈だ。

しかし、一つ気に掛かることがあった。こういう時にその不幸体質を発揮されでもしたら、ということだ。

「んじゃ、先行ってるぜ」

「頼んだぜ、元親!」

「気をつけてねー!」

政宗と佐助の声を背に聞きながら、元親はその愛車を発進させる。

数メートル進んだところで、前方から物凄いスピードで坂を下ってくるものが見えた。

「ちょっと何でコッチ来てんの、旦那あぁぁっ!?」

囮になっている筈の真田だった。ローラースケートの勢いがつきすぎて進路を変えることが出来ないらしく、一直線に元親の方へと向かってくる。

元親は急いで原付の進行方向を変えようとする。しかし、思っていた以上に真田のスピードが早く、間に合わなかった。

「ぬぎゃあぁぁぁ!?」

「でええぇぇっ!?」

けたたましい音を立ててローラースケートと原付が衝突した。

元親は横倒しになった原付から放り出され、路上に転がった。真田は顔から地面へとダイブする羽目になった。

「ちょっと大丈夫2人とも!?」

慌てて政宗と佐助が駆け寄る。元親は腰を押さえながら、ヨタヨタと自力で立ち上がった。未だ路上に突っ伏したままの真田を、佐助が起こそうとする。



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