俺は自由を得た。

漸く家族から解放されたんだ。

夢の新生活がこれから始まる。

そう、ココで。

……って、誰だテメェはあぁぁぁぁ!?



叶う、されど前途多難



カツンカツンと、夕日に照らされながら金属製の古びた階段を上がる。

漸く着いた2階の廊下の一番奥に見える部屋。

その部屋こそが、これから生活をする場所であると共に、何物にも代え難い自由を獲得したという象徴だった。



その部屋の主になる、いや既に契約はしたのだから、主になった男は、足早に部屋の扉まで近付いた。

この男の名は、伊達政宗。

黒い髪に中肉中背と、普通の青年然としている。右目にしている黒い眼帯が唯一の特徴であった。

眼帯をしていない左目で、伊達は扉に書かれている部屋番号を確認する。『201』と書かれているのを見た彼は、フゥと小さく溜め息を吐いた。

ようやくここまで来れたな。一悶着どころか百悶着ぐらいあったが、んな事ァもう関係ねぇ。俺は自由を手に入れた。奴らから、家族から解放されたんだ!

自由――それを得たいが為に、遠くの大学を受験した。

家族――それを捨てたいが為に、家を出た。

伊達の父親は、会社を経営している。長男である政宗を後継者にしたいと考えていたらしい。

父の後を継ぐ。昔は当然の事だと思っていた。父に認めて貰う為に、誉めて貰う為に、彼は父の望む息子になろうとした。

その為には、成績は常に上位におらねばならず、他の子供のように自由に遊ぶ事も許されなかった。それでも彼は耐えて、我慢して、父の理想に近付こうとしたのだ。

しかし、そんな彼の努力にも関わらず、父は認めてくれなかった。否、後継者としては認めていたかもしれないが、彼を一個の個人としては認めていなかった。

その事に気付いた時、彼は父の作ったレールから降りたのだった。

伊達の母親は、彼を愛していない。寧ろ憎んでいるのではないかと思える程であった。

母は昔から彼の事など眼中になかったようだ。流石に生まれて間もない頃は気に掛けてくれてはいただろうが。弟が生まれてからは、笑顔すら向けてもらえなかったように思う。長じてからは口もまともに聞いていない。

弟は、そんな母親に感化されたのか、彼を兄と見なして接そうとはしなかった。

このような家族に囲まれて、伊達は18年間暮らしていた。15歳の時、高校を卒業したら家を出ようと決心した。

父は会社を継がせる為に大学に進学して経営学を専攻するよう彼に命じたが、最早父の言う事を聞く気のなかった彼は、自分のやりたい事が出来る大学を勝手に選んで、勝手に受験した。

そんな彼の行動に、ここから出ていけ、と父親は命じた。この言葉こそ彼が待ち望んでいたものである。

もう俺はこの家族の一員じゃない。

家から出ていくよう言われた彼は、大人しくその言葉に従った。それまでに貯金などはしていたので、大学の入学で必要な費用は何とか工面出来た。

入学手続きやアパートを借りる際に必要な保証人は、父の部下で、昔から個人的に懇意にしている片倉小十郎という男に頼み込んだ。家賃や生活費などはバイトを探して稼げば良いのだ。


こうして、父親から勘当されて、伊達は漸く自分の人生を手に入れた。その人生を始める第一歩が、この201号室なのだ。



伊達は、感慨深げにその色褪せた扉を見る。長年風雨に晒されていたせいか、それとも単に古いだけなのか、その扉は相当色が落ちており、所々傷もある。

このアパートの名は『おだわら荘』という。ここを選んだ理由は、家賃の安さ以外にない。その家賃の安さに比例して、古さもボロさも相当なものだが。

そう言えば、大家のジイサン、北条氏政つったか?『先祖の代より受け継ぎしぃぃ』とか何とか言ってたよな。どんだけ古いんだよ、ココは?

この『おだわら荘』の大家、北条氏政の顔を思い浮かべながら、伊達はジーンズのポケットから鍵を取り出す。

そして、酸化してザラザラしているドアノブに手を掛けて、取り出した鍵を鍵穴に差し込んだ。




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