「それではこれで。これから更に暑くなってきますので、お体など壊しませぬよう」

「あぁ小十郎、お前もな」

店を出て足早に駆けていく小十郎を政宗は眺めていた。

忙しい中、時間を割いて自分と会ってくれた。更に、食生活を心配して野菜も持ってきてくれたのだ。これで感謝しなければ罰が当たるだろう。

そんなことを考えながら、政宗も歩き始めた。いつまでも店の前でぼうっと突っ立っているわけにはいかない。

「さぁて、どうすっかな」

小十郎から渡された野菜入りの鞄を肩に下げ、政宗は当てもなく歩いていた。今日はバイトもない。講義も全て終えた後だ。夕飯までに帰れば良いのだから、微妙に時間が空いてしまった。

本屋にでも行くか、と思って商店街の一画にある店へと向かったが、運悪く定休日だった。最近、元親の不幸が本格的に移ったのではないかと政宗は思っていたりする。ちょっとした不運に見舞われることが多いのだ。

仕方なしにブラブラと公園までやってきた。取り敢えず近くのベンチに腰を下ろす。野菜の入っている青い鞄を左に置いて。

平日の夕方とはいえ公園は多くの親子連れで賑わっていた。噴水の周りではしゃいでいる子供たち。それを見守る母親。なんとも平和な光景だった。

ベンチに座ってただぼんやりと景色を眺めるだけというのも中々悪くないと思う。忙しない日常の中で、こういう時間を持つというのは難しい。だから、この貴重な時間を今精一杯満喫しておこうと政宗は考えていた。

不意に、ドサリ、という重々しい音が聞こえてきた。

右隣に怪しげな外国人が腰掛けたのだ。政宗が持っているのと同じような青い鞄を自身の左に置いて。

「ザビザビザビザ〜」

気持ち良さそうに妙な歌を口ずさんでいる。コイツは関わってはいけないタイプだと直感的に政宗は思った。

気付かれないように少しずつ距離をとる。顔を合わせないように、下を向きながら。

そんな政宗の努力は実ることなく。

「アナタは愛を信じマスカー?」

胡散臭い笑顔で外国人が話し掛けてきた。その言動と服装からして、何処ぞの宣教師であるらしい。

宗教に興味のない政宗は露骨に嫌な顔をして、いやまぁ、などと生返事で応える。変な宗教などに勧誘でもされたら堪ったものではない。こういう手合いは相手にしないのが一番だ。

しかし、謎の外国人は政宗の態度に気を留めるどころか、悦に入ったように語り始めたのである。

「愛があればオールオッケー。愛は地球を救うのデース。デモ、この街には愛が足りないノ!なんで、なんでナノ!?」

「いや、あの、あんま興味ないんで」

「愛に飢えた若者はカワイソかわいそなのデース。みんな心が荒んでマース。アナタもワタシも同じセキツイ動物デース。ドカンと一発、一緒に愛を打ち上げマセンカー?」

「いや、あの、意味分かんないんで」

じりじりと次第に距離を狭めてくる怪しい宣教師。マシンガンのように次々と発される言葉は全く理解することが出来ない。

その顔が僅か20cmの距離まで近付いた時が我慢の限界だった。政宗は右隣に置いてあった青い鞄を引ったくるように抱えると、その場から逃げるようにして走り去った。

公園を出て、商店街の方まで一気に駆け抜けてきた政宗は、一旦立ち止まって電柱に背を預けた。これなら大丈夫だろう。余程危険な人物でない限り追いかけては来ない筈だ。

弾む息を抑えながら、小十郎の野菜が入っている鞄を持ち直す。ふと、そこで違和感を感じた。

鞄の中からガチャガチャという機械的な音がするのだ。野菜ではまず有り得ない音である。

間違えてあの外国人の荷物を持ってきてしまったのだろうか。取り敢えず確認のために、政宗は鞄を開けて中を覗いてみた。

「Ah、なんだコ……レ?」

デジタル時計がくっついている球形の物体が3つほど入っていた。

まるで時限爆弾だ。そう思って、再び中を確認した政宗の頬を一筋の汗が伝った。

まるで、どころか、まさしく時限爆弾だった。球形の物体に絡み付いている赤や青の導線。そして『00:00』と赤く表示されているデジタル時計のようなもの。

「いやいやいや、オモチャに決まってんだろ、haha……」

自身を落ち着かせるために政宗は呟く。ドラマでもあるまいし本物の爆弾がホイホイと転がっていることなど有り得ない。そう自分に言い聞かせるが、あの異様な怪しさを醸し出していた宣教師ならばもしかしたら、という嫌な予感が胸中をかすめる。

深呼吸を何回か繰り返して、政宗はようやく冷静さを取り戻した。これを持ち主に返さなくてはならない。あの男も今頃小十郎の野菜を持って困り果てているだろう。

こうして結論を出した政宗は、来た道を戻ろうと振り返った。すると、その目に件の人物が走って近付いてきてるのが見えたのだった。



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