政宗は両手で酒瓶を持って毛利の口元に近付けた。絶対に飲むまいと毛利は口を閉じている。

この時、背後にいた佐助が毛利の脇腹をくすぐった。一瞬開いてしまった毛利の口。その隙を見計らって、政宗は一気に瓶を突っ込んだ。

「……!?……!!」

容赦なく注ぎ込まれる酒。毛利は目を白黒させながらも、口から噴き出さぬよう懸命に飲み下している。その顔がみるみる内に赤くなっていった。まるで茹でられているタコを見ているようだ。

調子に乗ってガボガボと飲ませていたが、あまり無茶をするのはマズイ。ふと思い浮かんだのは急性アルコール中毒という言葉。これになってしまったら更にマズイ。こんぐらいで良いか、と政宗は毛利の口から酒瓶を引っこ抜いた。

毛利はしばらくボンヤリと虚ろな目を宙に彷徨わせていた。が、突然右手をぐっと握り締めて、その拳を元親目掛けて力一杯放った。

毛利のストレートパンチは上手い具合に顔の中心に決まった。かなり痛かったらしく、元親は顔を押さえて呻いている。自分に来なくて良かった、と政宗は本気で思っていた。

「きあまらでったいにゆるさう……」

呂律が全く回っていないが何となく言いたいことは分かる。ビシッと指を差して宣言しているその姿は酔っ払いとはいえ様になっているが、指が差している方向には誰もいない。相当酔いが回っているのだろう。

元親以外の連中にも報復するべく立ち上がろうと膝を上げかけたが、そこまでが限界だったようだ。膝立ちの状態のまま、上半身だけを前へ倒して床に突っ伏してしまった。額を打ったようだが、酩酊しているせいでそれに気付かずに寝息を立て始めた。

床に頭をつけて寝ている毛利。土下座をしているようなその姿は滅多に見ることの出来ないものだ。物珍しげに見ていた佐助は携帯電話で写真を撮り始めていた。毛利の右ストレートに撃沈していた筈の元親もいつの間にやら立ち直って一緒に笑っていた。

それ以降の記憶はあまりない。途中で寝てしまったのだろう。朝方、体に違和感を感じて目を覚ましたら、真田と元親が政宗の上に載って寝ていた。何かの嫌がらせだろうか。政宗は勢いよく立ち上がって2人を振り落とした。結構な衝撃だったにも関わらず、彼らはイビキを立てて眠り続けている。happyな奴らだ、と思う。

ふと時計を見て気付いた。昨夜の馬鹿騒ぎの時には失念していたが、本日は平日。普段通り大学では講義がある。政宗は急いで準備に取り掛かり始めた。

遅刻はしないだろうが、ゆっくりしている余裕もない。少しダルさを感じる体に気合いを入れようと大きく伸びをする。その時、妙に掠れた声が聞こえてきた。

「だて……責任をとれ……しね」

声のした方を向くと、そこには布団でグルグル巻きにされた毛利の姿。彼は布団の中から青白い顔を覗かせていた。

そういえば、巨大イモムシ襲来でござる!と真田が叫びながら毛利を布団に巻いていた記憶がある。

芋虫状になっていた毛利はモゾモゾと体を動かして布団の中から出てきた。まるで脱皮をしたかのように布団はその形状を保っていた。

毛利はヨロヨロと立ち上がって流し台へと向かった。墓から這い出てきたゾンビのような動きをしている。顔色などまさにそのもの。そんな瀕死の状態でありながらも、元親を踏みつけていくことだけは忘れない。

見るに見かねた政宗が毛利の傍に行くと物凄い形相で睨まれた。そして呪詛の言葉でも紡いでいるかのような声で文句を言われた。

「せ、責任を取れ……」

「Ah、責任っつったってどうすりゃいいんだ?」

自分をこのような状態にしてしまった責任を取れと毛利は主張する。事実、調子に乗って無理矢理飲ませていた政宗にも責任の端はあるのだ。

それに、このまま放っておけば後々別の場面で報復を受けるかもしれない。今は大人しく毛利の言うことを聞いておくべきだろう。

「我を、大学に、連れてゆ、け」

政宗の問いに、息も絶え絶えに毛利は答える。要するに、自分を介抱しながら大学に連れて行けということなのだろう。

こんな状態では自分一人で大学に行くことも儘ならない。ならば休めば良いとも思うが、それを言ったら鼻で笑われた。

どうやら毛利は皆勤賞を狙っているらしい。大学に皆勤賞などなかったような覚えがあるが、多分気持ち的な問題なのだろう。学生の本分を弁えよ、と口を押さえながら言う様ははっきり言ってカッコ悪い。

取り敢えず、政宗は毛利の要求に従うことにした。そう無茶難題というわけではないし、最初の講義は毛利と一緒に受けているものなのだ。

のたのたとした動きで準備を終えた毛利と共に、政宗は部屋を出た。

大学までの道中は特に問題もなく進むことが出来た。フラフラとした毛利の怪しい動きのせいで道行く学生から密かに笑われたことを除けば。



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