201号室と202号室を繋ぐ穴に興味を持った元親がそこを通り抜けようとしてハマったり。

穴から抜け出せない状態の元親の背中を毛利が勢いよく踏みつけたり。

元親をなんとか救出しようと政宗と佐助と真田で力を合わせて引っ張った結果、壁の穴が広がっていたり。

いつでもどこでも元親は不幸を呼んで撒き散らす。その事を嫌というほど痛感した政宗であった。



そろそろ夜も遅いから帰るわ、と元親が言い出した。彼と気が合ったのか、一緒に騒いでいた真田が残念そうな声を上げる。

「うぅ、寂しいでござる……そうだ!元親殿もここに泊まっていかれぬか!?」

「勝手になに言ってんだ!?ココは俺の部屋だ!」

家主の意向を無視した発言に、政宗は真田の頭にチョップをかましながら突っ込んだ。

大体こんな狭い部屋にこれ以上誰かを泊める事は出来ない。何故かいつも政宗の部屋で寝ている真田と、気付いたらお泊まりセットを持ち込んでいる毛利だけでこの部屋の人口密度は限界に達している。

「いや、明日も早ぇからココにゃ泊まれねぇ。メシまでもらっちまって悪かったな!」

カラカラと笑いながら玄関へと向かっていく元親に政宗も続いていく。アパートを出るところまで見送るつもりなのだ。

また来たら塩を撒いてやる、という毛利の不穏な言葉を背に聞きながら政宗は玄関を閉めた。薄ぼんやりとした電気に照らされた階段をゆっくり降りていく。

栄光門に来たところで、前を歩いていた元親が振り返った。

「お前んとこって面白ぇな!また遊びに来るぜ」

ヒラヒラと手を振りながら元親は再び政宗に背を向ける。歩き始めようと足を一歩踏み出したところで止まった。

「あとよォ、アイツ変なとこあるけど根はワリィ奴じゃねぇんだ」

アイツというのは多分毛利の事だろう。じゃあな、と言って元親は街の中へと消えていった。

んなコト分かってるよ、と心の中で呟いて、政宗は二階へと上がっていく。

自室の扉につけられたままの表札を見た時、その言葉は撤回せざるを得なかったが。



* * * * *



午前2時。俗に言う、草木も眠る丑三つ時。

政宗は不意に目が覚めた。いつの間に寝てしまったのか。相当疲れていたので、元親を見送ってからそのまま眠ってしまったのだろう。風呂は明日の朝起きてから入る事にした。

周りを見回すと毛利の姿がなかった。知らぬ間に毛利も自宅へと帰っていったらしい。本当に神出鬼没な男だ。

真田は布団にくるまって、相変わらず幸せそうに寝ている。ふと自分にも布団が被せられている事に気付いた。面倒見の良い佐助が被せてくれたに違いない。

急に喉の渇きを感じた。この部屋には水道水以外の飲み物はない。冷蔵庫が古すぎて使い物にならないので、飲み物などの冷蔵物は佐助の部屋の冷蔵庫に置かせてもらっているのだ。

隣の部屋に向かおうと政宗は立ち上がった。壁の穴から光が差し込んでいる。佐助はまだ起きているらしい。

「なにしてんだ?」

「うわっ、ビックリした!突然どうしたのさ?」

隣の部屋からの侵入者に、佐助はビクリと肩を震わせて振り向いた。

彼の目の前にある小さなテーブルの上にはノートやら参考書が散らばっている。その周囲の畳の上では分厚い辞書が山を作っていた。どうやら司法試験の勉強をしているようだった。

バイトや家事で日中は忙しいので勉強が出来るのは夜中しかないのだろう。そう考えると、政宗は何だか申し訳ない気持ちになってくる。

ぼうっとしている政宗を不思議に思ったのか、佐助が心配そうに訊ねてきた。

「どしたの?なんかあった?」

「いや、忙しいのに家事やら何やらやってもらって……その、すまねぇなって思って」

政宗の発言に佐助は目を瞬かせた。そんな事を政宗から言われるとは微塵も思っていなかったらしい。

シュルシュルと手に持ったペンを回しながら、佐助は軽い笑みを浮かべて答えた。

「まぁ大変だけど辛いワケじゃないし、食費も貰えて助かってる部分もあるしね」

「そうか……」

要は気にするなと言いたいのだろう。自身に気を使わせまいとする佐助の言葉に感謝しつつ、政宗は冷蔵庫へと向かおうとした。

政宗を眺めていた佐助は回していたペンを止める。そして、政宗の方にそのペンを向けながら口を開いた。

「実はグダグダと色んなこと悩んじゃうタイプでしょ?」

自身の性格をピタリと言い当てられ、今度は政宗が驚く番だった。

佐助の言う通り、政宗は悩みを抱えてしまう性格である。一人でいると家の事や学校の事、そして自分の将来の事など意味もなく考えてしまうのだ。

だから最近、真田や佐助・毛利などの存在を有難いと思う時がある。馬鹿な連中と馬鹿騒ぎをしていると余計な事まで考えずに済むからだ。勿論迷惑な事には代わりないが。

「んなコトねぇよ」

人に自分の事をあれやこれやと詮索されるのは苦手なので、適当に答えを濁す。

人の心の奥底まで見透かすような佐助の視線が嫌で、政宗は足早に冷蔵庫へと向かった。

「なんだか放っとけないんだよねぇ」

佐助がぼそりと呟いた。その声は小さすぎて政宗に届く事はなかった。



ふと政宗は自身の部屋の扉がドンドンと叩かれている事に気付いた。

こんな時間に何事だろうか。毛利ならば忍の如く侵入しているので、扉を叩く事などない。

急いで自分の部屋に戻る。気になるのか、佐助も後に続いてきた。

扉を開けると、そこにいたのは長曾我部元親。

「よォ、遅くに済まねぇな!オレのアパートが火事になっちまったもんで、しばらくココに泊めさせてくんねぇか?」

夜中に焼け出されたというのに、元親は爽やかな笑顔を浮かべている。やっぱりコイツはドン底に不幸だ、と政宗は頭を抱えて座り込んだ。



毛利に続いて、元親までもが政宗の部屋に入り浸ることとなった。

変人ばかりがどんどん増殖していく201号室。

これから始まる5人の奇妙な共同生活――これが政宗の人生を大きく変える切っ掛けになるとは思ってもいなかった。



―続―


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