「毛利いぃぃ!何だありゃ!?なに、人の部屋のdoorに訳分かんねぇモンつけてんだよっ!?」

開口一番、政宗は部屋の中でまったりと寛ぎモードに入っていた毛利に向かって怒鳴り始めた。

夕食を終えたばかりなのか、ちゃぶ台に載った皿などを片付けていた佐助が政宗の剣幕に驚いて手を止める。その近くでは、満腹になって夢の世界へと誘われてしまった真田が大の字で寝ていた。未だに学ラン姿なのは何故だろうか。

ちゃぶ台の前で正座をして温かい緑茶を啜っていた毛利は、煩げに政宗の方を見遣った。

「大声を出すでない。近所迷惑だ」

「人の話を聞けえぇぇ!」

招かれざる客の横柄な物言いに、政宗は血管が切れそうなほど叫ぶ。近所への迷惑を考える以前にもっと配慮すべき事があるだろう。政宗のそんな訴えなど聞く耳持たず、毛利はのんびりと茶を啜っている。

政宗と毛利のやり取りを暫く眺めていた佐助は、やれやれと肩を竦めて片付け作業を再開する。彼らの漫才のような口論は挨拶代わりになっていた。止めてもムダだと彼は思っている。

ふと政宗は考えた。文句を言うのは後にして怪しげな表札を先に外すべきだ、と。下手をすれば怪しい宗教団体の本拠地だと思われてしまうかもしれない。

扉の外に向かうため踵を返そうとした政宗の背後から、快活な元親の声が聞こえた。

「邪魔するぜ、っとと!?」

ゆっくりと玄関から入ってきた元親は床と玄関の段差に躓いてしまった。そのまま前へつんのめって、目の前にいた政宗を突き飛ばす。

「だあぁぁっ!?」

元親に突き飛ばされた政宗はバランスを崩して真正面へと倒れ込んだ。そこにはムニャムニャと夢の中を彷徨っている真田がいた。

「ぐへぇっ!?」

大の字で寝ていた真田を政宗が押し潰す。互いの腹部が十字に交差する形でぶつかり合い、奇妙な悲鳴が部屋に響いた。

まるで最短の人間ドミノをしているかのような光景だった。

突然の出来事に佐助も毛利も唖然としている。惨事を起こした張本人はバツが悪そうに頬を掻いていた。

そんな元親に気付いた毛利が目を大きく見開く。そして指を差して鋭く叫んだ。

「貴様は長曾我部っ!?」

「おぉやっぱお前だったんだな、元就!日輪同好会なんてやってんのお前しかいねぇと思ったぜ」

元親は毛利の姿を見て嬉しそうに笑った。二人は旧知の仲だったのだ。

類は友を呼ぶ。そんな諺を政宗はぼんやりと思い出していた。かなりのダメージを受けた腹を押さえて蹲りながら。

政宗と同様に元親の不幸に巻き込まれた真田はうつ伏せになってピクピクと痙攣している。

そんな真田を介抱しながら、野次馬根性丸出しの台詞で佐助は2人に問い掛けた。

「なになに、お二人さん知り合いなの?」

「小学校から高校まで一緒でよォ。ある意味幼馴染みみたいなモン……」

「ただの腐れ縁だっ!」

旧友の言葉を毛利は力一杯否定する。どうやら彼は元親の事が気に入らないらしい。そもそも何故貴様がここにいる、と毛利は元親を指差して尋問し始めた。

そんな腐れ縁2人のやり取りを政宗は疲れた表情で眺めていた。突然彼の腹がグゥと鳴る。そう言えば、昼から何も食べていなかった。

「取り敢えず夕飯食べる?」

母親のような佐助の言葉に政宗は力なく頷いたのだった。



暫くして、二人分の夕食がちゃぶ台に並んだ。客人である元親の分も佐助は急いで作ってくれたのだ。

狭い部屋に大の男が5人もいる状態なので、自然と互いの距離が近くなる。なんだか暑苦しい。政宗はベランダに通じる窓を少し開けた。

家主の客がいるということで普段以上に騒がしい201号室。その中で毛利は一人激昂していた。元親が近くにいるせいだ。

「えぇい、近寄るでない!不幸が感染る!」

毛利も元親の不幸っぷりを知っていた。昔から不幸だったらしい。生まれつきなのか、何かが原因でこうなったのかこっそり訊いてみたいと政宗は密かに思った。

毛利の悪口には慣れているのか、それを軽く受け流した元親は簡単な自己紹介を始めた。

「オレは長曾我部元親ってんだ」

「ちょ、ちょう、も……ち……殿?」

真田は余り長い文章が得意ではない。元親の名前が長過ぎて理解できなかったようだ。

暫く悩んだ後、何かを思い付いたらしい真田は嬉しそうに元親に話し掛けた。

「もち殿でよろしいか!?」

「よろしくねぇよ!もちじゃなくて元親だ!元親って呼んでくれ」

元親は真田から餅呼ばわりされて憤慨する。貴様の渾名など餅で十分、などと毛利も横から口を挟む。

元親からの紹介を受けて、初対面である真田と佐助が順に名乗り始めた。

「某は真田幸村!職業は高校生でござるっ!尊敬するお方は、ぅうおやかたさむわあぁぁ!」

「この暑苦しい人はウチの居候でね。で、俺様は猿飛佐助って言うの。隣に住んでんだけど、そこの穴から行き来してココで一緒にごはん食べたりしてんだよね」

相変わらず真田は無駄に元気に、佐助は軽いノリで自己紹介をする。政宗は彼らと初めて出会った時の事をふと思い出していた。



いつも以上に馬鹿馬鹿しく、そして騒がしい201号室の夜は更けていった。



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