しかし、体格の良い男2人が擦れ違うにはカウンター内は狭すぎる。

仕方なく政宗は壁にぴったりと体を張り付けた状態で、元親が通りすぎるのを待った。元親も体を横にしながら、カウンターと政宗の間を何とかすり抜けようと進んでいた。

早く通って欲しい。唯でさえ辛い体勢なのに、野郎同士でピッタリとくっついた状態なのが更に辛い。

今更ながら後ろを向いていた方が良かったと政宗は後悔する。顔の距離が近すぎるのだ。

ぐっ、と突然元親が小さく呻いた。不安に思った政宗が恐る恐る訊ねる。

「ど、どうしたんだよ?」

「なんかハマっちまった……!う、動けねぇ!」

元親の言葉に、政宗の顔から一気に血の気が引いていく。Jesus!と心の中で絶叫した。元親も心底嫌そうな表情をしている。

あろう事か、カウンターと壁の間に2人して嵌まってしまったらしい。

もぞもぞと体を動かして元親は何とか抜け出そうと試みている。しかし思うように動く事が出来ないようで、只の挙動不審者にしか見えない。

――更に。

「だあぁ!動くんじゃねぇ!足が挟まってんだよっ!」

政宗の足は元親の足と壁との間に挟まった状態だ。元親が動こうとする度に、ギリギリと締め付けられて相当痛い。

だが、この状況から脱け出すには元親が動かなければどうしようもない。動くなと言っても動かねば事態は好転しないのだ。

こんな時に店内に客がいないのは不幸中の幸いだった。こんな場面を見知らぬ人に見られたら、とんでもない勘違いをされかねない。更に噂にでもなったら、明日から街中を歩けなくなるだろう。

そんな事を考えていた政宗の耳に、あまり聞きたくない声が聞こえてきた。

「な、何をしているのだ、貴様ら!?」

売り場の方が何やら騒がしいという事で、かすがが見にきたのだ。政宗と元親の情けない、そして一歩間違えると危ない姿に驚いているらしい。

ほほほ本当に何をしている、と動揺を隠し切れていない声でかすがが2人に問い掛ける。少し目も泳いでいる。そんなかすがの反応に、政宗はガクリと肩を落としながら説明した。

「ここを通ろうとしたら挟まっちまったんだよ!無駄に図体のデケェこいつのせいで!」

「無駄にってどういう意味だ!?」

「な、成る程。単なる馬鹿のドジか……いやそれとも長曾我部のアレか」

政宗の説明にかすがは得心したらしい。口元に手を当て何事かを考えながら元親を眺めていた。

かすがが最後に呟いた言葉。先程のレジ故障も今の悲惨な状態もそれが原因に違いない、と政宗も考えている。そして、それこそが政宗を悩ませている問題の1つであった。

元親のアレ。この店で知らない者はいない。

長曾我部元親はどうやら不幸を呼び込む体質らしいのである。普通に只の不幸な人間ならば問題はないのだが、不幸を呼ぶ頻度が尋常ではない。しかも迷惑な事に、周りを巻き込むような不幸を呼び込むのだ。

元親と初めて一緒に仕事をした時、政宗はその失敗の多さに驚いた。パンは焦がす、火傷はする、商品をトレイごと落とす、等々その失敗は多岐に渡る。元親はそんな失敗を一々気にすることなく仕事を進めていた。

そそっかしいからmissが多いのか、と政宗は最初思っていた。しかし、どうにも様子が違う。棚の上から器材が落ちてくる、膨れ上がり過ぎたパンが目の前で爆発する、等々元親自身が関知しようのない失敗も多かった。

こうなるとそそっかしいドジッコというのが原因であるとは思えない。気になった政宗は、つい先日かすがに元親のことを訊ねたのだった。

「奴は不運というか不幸なんだ。何故かは知らんが究極的にな」

かすがから返ってきたのはこのような回答。不幸――言われてみれば当て嵌まっている。普段の会話でも、財布を落としただの、原付が盗まれただの、車にひかれそうになっただのという話を聞いていた。

運の悪い男だと思っていたがこれ程までとは、と逆に感心してしまう。もしかしたら、何かに呪われているのではないかとも思える。

しかし仕事中の彼の不幸っぷりは笑い事ではない。不幸のせいで元親が何かミスをした場合には、それをフォローしなくてはならないのだ。政宗を悩ませている問題の原因はそれである。

己の不幸など気にしていないのか、そもそも何も考えていないのか。目の前の元親はあっけらかんとした表情をしている。



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