納得出来なかった。伊達はどうしても納得出来なかった。
何故、毛利が一緒に夕食を食べているのか。
「なぁにムクれてんのさ、伊達の旦那ぁ?」
ムスッとした表情で夕飯を食べている伊達に、佐助が心配そうに尋ねる。
今日の夕飯が、オクラばかりなのも気に入らない。
「なぁ、何でアイツを部屋に上げたんだ?明らかに不審者だろーが」
「えっ?あの人、伊達の旦那の友達だって言ってたけど違うの?」
佐助に因れば、伊達の部屋を訪ねてきた時に、毛利は友人だと名乗ったのだという。嘘八百も良いとこである。
「でも悪い人じゃないんじゃない?お土産にオクラくれたしさ」
この佐助の言葉で、どうして夕飯がオクラばかりなのか、ようやく伊達は理解出来た。
毛利の実家はオクラ農家なのだそうである。
もしかしたら、この食材に釣られただけなのかもしれないな、と伊達は疑わしそうな目付きで佐助を見た。
そんな伊達の様子にも気付かず、佐助はぐーぴー寝ている真田に伊達の布団を掛けていた。夕飯をペロリと平らげた真田は、満腹になって夢の世界へと旅立ってしまったようだ。
「夕食まで頂けるとは、世話を掛けたな」
夕飯を食べて終えたらしい毛利が、空の食器に合掌しながら佐助に礼を述べる。
そんな毛利に、良いよ良いよと手をパタパタ振りながら、佐助は照れ臭そうに答えた。
「コッチは食材貰っちゃったんだしねぇ!気にしないでよ!」
確かに食材を貰えるのは有り難いのだ。伊達も佐助も、食費を切り詰めなければ生活が成り立たない、所謂ビンボーなのだから。
「ふむ、そうか……あぁ、忘れぬ内にこれを渡しておかねばな」
そう言って、毛利は徐に己の鞄からプリントを取り出す。
それは最初の講義のプリントだった。
「コピーしておいてやったぞ」
「……あ、ああ」
差し出されたプリントのコピーを前に、伊達は暫く呆然としてしまった。この男が本当にプリントを、しかもコピーまでしてくれるなどとは考えていなかったから。
――だから、少しは良い所もあるんじゃねぇか、なんて思ってしまったりして。
「それと、一つ言い忘れていたが」
コピーを受け取った伊達に、毛利は真剣な表情を見せる。
「この部屋を、我が日輪同好会の本拠地とする!」
「ちょっと待てえぇぇぇぇい!?何だよ、本拠地って!?」
毛利の突然且つ爆弾的な発言に、伊達は思わずちゃぶ台を引っ繰り返してしまう所だった。
前言撤回、良い所など無い。
「この部屋は南向きで、しかも前にビルなどの障害物もない!日輪を全身で感じるには絶好の場所なのだ!」
「知るかあぁぁぁぁぁ!?テメェの部屋でやりやがれぇっ!」
伊達の突っ込みを無視して立ち上がった毛利は、部屋の中を徘徊しながら説明する。
毛利の部屋は北向きで、しかも前にビルが立っているため、日輪が全く射さない最悪な場所なのだ、と。
「我の部屋は日輪を全く寄せ付けぬ、言わば鬼門なのだ!しかし、そなたの部屋は正に日輪同好会に相応しい!よって、この部屋を日輪同好会本部に……」
「認めねぇぞ!!俺は絶対に認めねえぇぇぇっ!!」
部屋の中をヒョロヒョロとうろつき回っている毛利に、伊達が全力で拒否する。
そんな伊達など構いもせずに、毛利はベランダの窓の前に立ち。
「此処から見える日輪は、きっと素晴らしいぞ!」
と、嬉しそうに呟いた。
そして窓を開けてベランダに出ようとする毛利を見て、慌てて佐助が声を掛けようとするが、その口を伊達が咄嗟に塞いでしまった。
毛利はそのままベランダへと足を踏み出し。
「明日の朝、昇るであろう日輪は……」
パキョ!
と、発泡スチロールが割れる音と共に絶叫を残して、201号室から姿を消した。
先日、伊達が落ちたベランダの穴は、未だ直されずに応急処置の発泡スチロールが施されただけだったのだ。
「おーい、大丈夫かぁ?」
落下した毛利に、心配そうに声を掛ける伊達の表情は、如何にもザマァ見ろ!といった感じで。
そんな伊達の耳に。
「……落日は迎えまいぞ!」
という、毛利の悔しそうな声が聞こえてきたのだった。
これに懲りず、毛利がこれから201号室に入り浸り続ける事を、伊達はまだ知らない。
―終―
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