その数十分後。フラフラと今にも倒れそうな足取りで部屋に入ってきたのは、毛利元就であった。

学生らしく研究発表の準備をしており、寝不足気味の日々が続いていた。本日ようやく発表本番を迎え、無事にその責務を果たすことが出来たのである。

しかし、今までの無理が一気に体に出てきたのか、大学から帰ってくる途中で体調が悪くなってしまった。激しい目眩に襲われながらも、なんとか無事に部屋まで辿り着くことが出来たという有り様だったのである。

自分が回っているのか、世界が回っているのか。グルグルと回る景色に、吐き気が催される。覚束ない歩みで部屋に上がると、目の前のちゃぶ台に載っている珍妙な物体を発見した。

一向に働かない頭で、毛利は考える。この謎の物体は何なのか。見た目はカボチャだが、何かおかしい。手足が生えて、顔まで描かれている。

目眩だけではなく、幻覚まで見始めているのだろうかと不安になった。実際に存在しているものか確認するために、毛利はちゃぶ台に近付いてソレに触れた。手に残るその感触から、この空間に実在するものだと分かる。

ならば、これは一体何なのだろう。ふざけた姿形をしてはいるが、そこから放たれる圧倒的な存在感。妙に気になる物体である。

その時、ふと毛利の頭に1つの案が浮かんだ。これを日輪同好会のマスコットキャラクターにするという、なんとも形容しがたい案であった。

最近は気味の悪さと可愛らしさという相反する2つの要素を併せ持った、『キモ可愛い』キャラクターも流行していると聞く。そのキャラクター性がうら若き女子に受ければ、日輪同好会の女性会員も増え、女性に釣られた男性会員も獲得出来るだろう。

とても一般的とは言えない会員増強計画を思い付いた毛利は、蒼白な顔に笑みを浮かべた。肉体的にも精神的にも限界に近い彼の脳は、暴走を始めているようだった。

マスコットキャラクターにするには、このカボチャの目立つ部分に日輪同好会の証を記さねばならない。ぼんやりとする頭を手で押さえ、しばらく考え込んでいた毛利は鞄の中からメモ帳を取り出した。

そのメモを長方形に切り取って、そこにマジックで『日輪』という文字と太陽のマークを書き込む。そして、それをカボチャの持っている武器のような部分に張り付けたのであった。

のぼり旗は出来た。あとは、日輪同好会と書かれた鉢巻きでもあれば完璧である。佐助が帰ってきたら、端切れを貰って作ろうか。

そんなことを考えている途中で、毛利はとうとう力尽きてしまったらしく、畳の上でコロンと横になった。そしてそのまま、夢の世界へと誘われていったのであった。



「――という感じのドミノプレーが原因だったみたいだねぇ」

そう言って、猿飛佐助は堪えきれないとばかりに腹を抱えて笑った。そんな佐助の反応に、政宗は頬を引きつらせている。

バイトから帰ってきた政宗は、我が目を疑った。煮付けにしようと考えていた小十郎のカボチャが、気色の悪い突然変異を起こしていたのだから。

怒り心頭の状態で誰の仕業かと聞き込み捜査してみれば、なんと住人のほとんどが犯人というわけだったのである。外出から帰ってきた慶次・元親・真田は悪びれることもなく、むしろ自慢するかのように犯行を自白した。

熟睡中の毛利からは話を聞くことは出来なかったが、他の連中から聞いた自白とカボチャの最終形態から考えて、その犯行内容を推察したのである。

「ったく、揃いも揃ってアホだろ。halloweenだからってカボチャにtrickするなんざ」

カボチャに悪戯をしたつもりはないだろうが、結果的に悪戯をしたような状態になってしまった。トリック・オア・トリートという言葉に変な所でリンクしている気がする。

ひとしきり笑い終えた佐助は、悪戯されたカボチャを指差して政宗に尋ねた。

「で、どーすんのさコレ?」

「煮付けるに決まってんだろ」

どうするも何も、カボチャなのだから料理する他にないはずである。割り箸が刺さっていても引き抜けば良いし、落書きされた部分は皮を落とせば良い。政宗としては、なんら問題はなかった。

しかし、そんな政宗の一言に、真田が愕然とした表情になった。

「そ、そんな!カボ太郎を煮付けるだなんて、あまりにも無体な!」

「カボ太郎って、何時の間に名前なんて付けてやがったんだよ」

短い間ではあったが、真田は愛着が抱いてしまったようだ。煮付けにするという政宗の意見に、真剣な眼差しで抗議をする。

一方政宗としては、真田の抗議よりも、そのネーミングセンスにただただ呆れてしまっていた。安直だとか、そういう次元を超越しているネーミングセンスである。そんな2人の応酬を、佐助は苦笑しながら眺めていた。

「まぁまぁ、折角のハロウィンなんだし、しばらく置いとかない?」

「だよな!出来もそこそこ良いしよぉ。このまま料理すんのも勿体ねぇよな」

そんな中、慶次と元親が真田に助け舟を出した。この2人も、自分たちで作ったという贔屓目があるのだろう。

「No!オレは煮付けが食いてぇんだよ」

政宗としては譲れない。半分、意地になっているのもある。先ほどよりカボチャの煮付けに拘る気持ちも薄れてきていたが、ここで妥協したら負けたような気がして嫌なのだ。

民主主義に従って多数決で考えると、真田の主張が採用されることになるが、政宗が強硬に反対するため、話し合いはまとまらない。公平にじゃんけんで決めたとしても、互いに納得しないような雰囲気である。そんな2人を見て、ハァと佐助が軽く溜め息を吐いた。

「そんじゃさ、31日まで取っといてさ、その日過ぎたら煮付けにすれば良いっしょ」

政宗と真田の主張の間を取って、期間限定の妥協策を佐助は提示した。これならば、しばらく置いておくことも出来るし、最終的にカボチャの煮付けとして食べられる。

政宗としても、ここまで来ると意地を張っているのもバカらしくなってきていた。カボチャの煮付けは、別に今日でなくても構わない。

真田はしばらく思案したあと、納得いかぬというように、佐助に疑問をぶつけた。

「ぬうぅ、何故31日なのだ佐助えぇぇ?」

「その日過ぎてまで飾ってたら、婚期を逃しちゃうって言い伝えがあるのよ旦那」

出したままにしておいて婚期を逃すのは、ひな祭りである。何食わぬ顔をしてしれっと嘘を吐く佐助は、さすがに真田の扱いに手慣れている。そして、それで納得した真田も、さすが真田としか言い様がない。

こうして、2人が互いに納得することで、カボチャの行く末は決まった。しかし、31日までどのように扱うのか。政宗が疑問を提起すると、慶次がニコニコと笑いながら答えた。

「どっかに飾ってさ、お菓子かなんか供えりゃ良いんじゃない?」

「そうだな!そうすりゃきちんと成仏してくれるぜ、カボ太郎もよ」

続く元親の発言に、おぉと真田は目を輝かせる。成仏して良いのかよ、と政宗は心の中で思わず突っ込んでしまった。

しかし、図らずも悪戯をしたカボチャに、もう一方のトリート――もてなしをするというのは、ある意味でハロウィンにちなんでいるのかもしれない。

結局、可哀想なことになった小十郎のカボチャは、31日までテレビの上に奉られることとなった。こんな馬鹿馬鹿しいハロウィンというのも、自分たちらしくて良いのではないか。そんなことを考えながら、政宗は気味の悪いオブジェと化したカボ太郎に時々お菓子を捧げていた。



その後、寝ていたせいでこの話し合いの場に参加していなかった毛利が、11月1日に煮付けとして出されたカボチャを見て怒り狂ったのは言うまでもない。

毛利の日輪同好会会員増強計画は、ハロウィンの終わりとともに潰えたのであった。



―終―


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