その数十分後。ヨタヨタと額を押さえながら部屋に入ってきたのは、長曾我部元親であった。

政宗とは入れ違いで、バイトを終えて帰って来たところである。若干ふらついているのは、意味もなく階段を3段飛ばしで駆け上り、その途中でつまずいて額を強打したのが原因だった。

ううぅ、と唸りながら元親は顔を上げる。その視線の先には、ちゃぶ台に載ったカボチャがあった。殺風景な部屋の中で、妙に存在感を誇示しているその物体に、元親は大いに興味を示した。

何故か、カボチャに足がある。何となくお盆に飾るナスやキュウリを思い出す姿だ。もしかしたら、真田が学校の宿題だか工作だかで作ったのかもしれない。

しかし、そうならコレはないだろう、と元親は呆れた目付きで眺めた。単にカボチャに四つ足をつけただけなのだ。あまりバランスが良くないし、華やかさに欠けるし、こんなのを提出しても評価などされないに違いない。

こうなったら、少し改造して格好良さを上げる手伝いをしてやろうか。そう考えた元親はニヤリと笑った。手先の器用さでは、この部屋の住人の中で負けない自信がある。

傍に放置されていた割り箸を使って、両腕を作ればそれなりの格好もつきそうだ。更にその腕部分に武器でも持たせれば、様にはなるだろう。

早速、元親は作成に取りかかった。棚にしまわれていたハサミを取り出して、器用に割り箸を削っていく。腕にあたる部分の割り箸を2本、そして剣の形に整形された割り箸を2本完成させた元親は、手際よくカボチャにそれを付けていった。

よっしゃ、一丁上がりだぜ。嬉しそうな笑顔で、元親は改造されたカボチャを見つめた。四本の足で立つカボチャには、細かく造り込まれた得物が持たされていた。

四本足が六本足になったため、少々気味悪さが増した気がするが、先ほどよりはかなり目立つ姿となっていた。これならば課題として提出しても、なんとかイケるはずである。

オマケで顔を描いてやるか。そう思ってマジックを探していると、不意に携帯電話が鳴り出した。見つけたマジックを片手に持って電話に出ると、バイク屋に出していた原付が点検を終えたという連絡だった。

元親の原付は月に何度か、原因不明の故障を起こす。機械自体を調べても特に問題はなく、霊障か持ち合わせる不幸体質のせいだと皆に言われているが、本人としてはあまり気にしていない。故障には慣れてしまったし、買い換える金もないので、元親はずっと同じ原付を使っている。

とにかく、愛車がようやく戻って来るのだ。急いで引き取って来なくてはならない。手にしていたマジックをカボチャの近くに放り投げ、元親は慌ただしく部屋を出ていった。



その数十分後。ガタガタと大きな音を立てて部屋に入ってきたのは、真田幸村であった。

1日の授業を終えて、学校から帰って来たところである。特に急いで帰ってくる必要はないのだが、有り余る体力と気力によって意味もなく走ってきたのだ。

靴を脱ぎ捨て、部屋に入った真田の動きがピタリと止まった。その視線の先には、ちゃぶ台の上に鎮座しているカボチャがあった。その瞳がキラキラと輝き始めた。

両手に割り箸で出来た剣を持ち、四本の足で威風堂々と立っているカボチャ。彼の感性でいうところの、とても格好良い物が目の前に置いてある。真田がそれに心奪われないわけがない。

満面の笑みを浮かべて、真田はカボチャを手に取った。誰かが作ったものだろうか、と首を傾げる。ふと傍に置かれていたマジックを見て、ソレはまだ完成していないのだと思い至った。

ならば、自分の手でこの素晴らしい作品を完成させよう。こんな素敵な物を作った人物の助けになりたい。そう決意した真田はマジックを手に取り、顔を描き始めたのであった。

無論、モデルは敬愛するあの御方である。脳をフル回転して武田信玄の顔を正確に思い出し、その記憶に従ってカボチャにマジックを走らせ始めた。

凛々しい目と鼻と口。そして、漢らしさに溢れる眉毛と髭。脳裏に浮かんだそのパーツを、真田は懸命にカボチャへと描いていく。しばらくして、それは完成した。そしてその結果、カボチャの気味の悪さが5割ほど増したのであった。

確かに真田の記憶は正確であったが、如何せんその絵心に大きな問題があった。小学生が図工の時間に描く、リアルなものを目指して失敗した人物画のような顔になってしまっていたのである。

しかし、本人はその出来にかなり満足していた。この見た目ならば、これを作った人物も喜んでくれるに違いない。ひたすらポジティブな真田は、ちゃぶ台に置かれた妙な顔のカボチャを嬉々として眺めていた。

名前は何にするべきか。カボチャだからカボ太郎が相応しいか。力強い風貌と愛らしい名前のギャップが良い。口元に笑みを浮かべ、腕を組みながら真田は考えていた。

ちょうどその時、とても大切なことを思い出した。明日までに提出しなくてはならない学校の宿題。それを教室の机の中に、入れっぱなしにしていたことである。

提出し損ねれば、通知表が確実に下がる。今日持ち帰って、毛利に教えてもらうつもりだった。その肝心の宿題自体を忘れてきてしまったというのは、由々しき事態である。

ぐおぉ、と唸って一瞬頭を抱えた真田は、直ぐ様立ち上がった。なんとしても、学校へ取りに戻らなくてはならない。勢いよく通学用鞄を引っ掴むと、駆け足で部屋を出ていったのである。




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