憎しみで人が殺せたら、と何度思ったか。それが出来ないから、自らの手で行わねばならなかった。自分から全てを奪っていった男。ヤツに勝つには、力が要る。だから、力を求め、身に付けて来た。しかし、それだけでは足りなかった。力だけでは駄目だったのだ。ヤツは絆が大切だなどと嘯いていた。絆の力は何にも勝るとでも言いたいのだろう。そうだ、ヤツには絆がある。沢山ある。友達も多いようだ。古くからの友人もいれば、新たに友となる者もいるらしい。事あるごとに、絆、絆という言葉を発していれば、騙される愚物もいるだろう。駄目だ、ヤツの自慢に思えてきた。いや、自分にだって友はいる。友の数で、ヤツには勝てないはずはない。そうだ、その点で自分は勝っている。恐らくは……。

友の数を確認するべく三成は、己の指を折り始めた。数本折って数えた時点で、その動きを止める。そして、ぷるぷると怒りで小刻みに動き始めた。

先ほどの数はなかったことにして、三成は再び指を使って友の数を数え出した。今度は畳んだ指を立てて数える、という方法だ。そして、指を2・3本立てた時点で、感情を爆発させた。

「謀ったな、家康ううぅぅぅ!」



石田三成のともだち100人できるかな



周囲の木にとまっていた鳥たちが、突然の騒音に驚いて一斉に飛び立つ。凄まじい形相でひとしきり叫んだあと、三成は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

三成は気付いてしまったのだ。自分には、ほとんど友と呼べる人物がいないということに。

これも全て家康のせいに違いない。自らの友の多さを見せつけることで、友のいない三成に惨めな気分を味あわせるという陰謀だったのだろう。なんと卑怯な男だ、と三成は両手に力を込める。もしかしたら、三成に友達が出来ない呪いでも掛けているのかもしれない。

「許さんぞ、家康ううぅぅぅぅ!」

周囲の森に生息していた小動物たちが、突然の騒音に驚いて散り散りに逃げていく。海老反りになるほど体を傾けて、三成は怒りを天にぶつけた。

「朝から何を騒いでおるのだ」

三成が一人で叫んでいるのを聞きつけた大谷が、ふよふよとやってきた。大谷は近くに設置した野営地で休養をとっていた。しかし、あまりにも煩いので何が起きたのかと来てみたら、三成が家康憎しの発作を起こしていたのである。

「家康の姑息な計画のせいで、私の繊細な心が海よりも深く傷付いたのだ!」

「なに、それしきのことか。食中りでも起こして苦しんでいるのかと思ったわ」

全身を使って家康への怒りを表現する三成に、大谷は拍子抜けしたような声を出した。

それしき、と言われたが三成にとってはそれしきの問題ではなかった。些細なことであろうと、家康に負けるわけにはいかない。

「私よりも家康の方が、友の数が多いなど認めんぞ!」

「その勝負で考えるなら、圧倒的に不利よの」

三成の怒りなどお構いなしに、大谷はあっさりと厳しい現実を突き付ける。容赦ない一言に、おぉぉ、と三成はくずおれた。

「だが、家康とて精々7・80人いるかいないかぐらいであろう」

「なっ!ななじゅうにはちじゅうだと!?」

自分の何倍に当たるのか、考えるだけで目眩がする。膝立ち状態のまま、三成は脱力した。家康には勝てないのか。こんなことですら、勝てないのか。

「だが、これから本腰を入れて、友を100人作れば余裕で超えられる数字よ」

最後の最後に、大谷は三成に対する救済策を提示する。これから本格的に友達作りを始めれば、家康に勝てるかもしれない。その言葉は、水不足でしなびてしまった野菜のようになっていた三成を、見事とれたて新鮮野菜にまで復活させたのであった。

「そうか!私が友達を100人作れば、家康に勝てるのだな!」

三成は素早く立ち上がると、拳を握り締めて叫んだ。この立ち直りの早さだけは、家康に勝てるに違いない。

友達を100人作る。そのためには、まず友達になってくれそうな人間を探さなくてはならない。

しかし、友達になってくれ、と正面切って自分から言うのはどうにも気に入らない。どうせなら、相手から友達にしてくださいと、土下座でもしながら言ってもらった方が気分が良い。友達になれ、と刀を突き付けて迫れば、思わず言うことを聞いてくれるだろう。

くくく、と含み笑いをしながら、三成は刀を抜き出した。そして、ゆっくり歩き始めた。

ここに、石田三成の「ともだち100人できるかな?」計画が幕を開くこととなる。


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