ロスアル




「オレ子供いないよ」


ロスの口からその一言がでてきて
安心した自分に驚いた









1000年前の伝説の勇者、クレアシオンの子孫として選ばれた
たくさんの勇者のうちの1人

それが自分に与えられた設定だった

そうして戦士とパーティを組んで旅にでた
自分が思い描いていた旅とは全然違ったけど
(なんせ戦士がすごくドSのうえにパーティに魔王がいるし)

きつく当たられたり、バカにされたりもしたけど
それは全部
ダメダメで、一人では何もできないボクの為にしてくれていたことだと思って(多分)
そんな戦士に心が惹かれていたんだ。と思う


ボク自身も自分の気持ちなのによくわかっていないわけなんだけど
戦士が本当はクレアシオンだって知って、ショックを受けた


だって、戦士が伝説の勇者ってことは
子孫がいるってことはつまり
少なくとも1000年前に戦士とそういう関係になった人がいるということで


男であるボクがはるか昔の 女の人 に勝てるわけがないじゃないか


それだからだろうか
戦士の口から真相を知って、無意識のうちに安心したのだろうか


自分の父親と、親友と、一緒にボクの手には届かない場所へ行ってしまった彼
確認するすべはもうない


「ロスがまだ笑ってない」


そう口実を作らないとボクはあいつのもとに行けない




――――――――――



「勇者さん、どうかしたんですか?」

1人みんなの輪から外れた場所で1年前のことを思い出していたら
いつ近づいてきたのか、ロスがすぐそばに居た

(あ)

「そんなアホ面世間に晒してて楽しいですか?」
「アホ面!?別に晒してないよ!?ただ…」

ただ、今の距離が懐かしいなって

「ただなんですか?自分ではあの顔かっこいいと思ってたんですか?」
「思ってないよ!」

ロスにとっては数時間、そう言っていたけど
ボクにとっては1年ぶりの この距離

あの時はこんなに近くに居たのに、結局ボクはこいつのこと何も知らなかったんだ
シオンの気持ちも
クレアシオンの覚悟も
戦士の想いも

ロスの使命も

(ボクは、まだ何一つわかっていないんだろうか)
「この一年で成長したのは背丈だけですか?
 貴方がオレの過去を見て何をおもったのか微塵も興味ありませんが
 正直そういうの重いですよ」
「っ!」

「1000年前にあいつを封印したときから、オレの気持ちは変わっていないのは確かです
 でもあなたまでそれを背負う義理はないでしょう
 これはオレの問題ですから」

確かにボクはただの部外者だ

「それでもボクは、この1年後悔してたんだ
 一緒に旅をしてきたのにボクはお前のこと、何一つ知らなかった」
「それはオレが話さなかったから」
「ボク自身も、知ろうと知らなかったから、だよね
 でももう知っちゃったから手を貸したい
 その為にこの1年がんばってきたんだ」
「本当に重いですよ、そういうの」
「なんとでもいえよ、自分の意思でそう決めたから」

そういうとロスは心底あきれたような顔でため息をつく
ボクはクレアさんと違って、表面に出てきてるロスしか知らない
それだけしか知らないのにボクはこの人に恋をしてしまったから

「なぁロス、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんですか?」
「ロスってさ、1000年前に、その」

会えない年月を重ねても
過去を知って
覚悟を知って
1年前よりも
過去を知る前よりも
ずっとずっと君に惹かれている

「なんですか、早くしてくださいよ気持ち悪い」
「気、持ち悪いってなんだよ…
 その、1000年前に、付き合ってた人、とかいるの?」

自分から聞いておいて正直答えを聞くのが怖い
居たのかもしれない
居なかったのかもしれない
どっちだとしてもボクには関係ないことなのはわかってる

ボクは男で、ロスも男だから
どう転がってもボクが望んでる結末はやってこないだろう

「…なんでそんなこと聞くんですか」
「え、いや…ただなんとなく、気になっただけ、です…けど」

怖い怖い怖い怖い怖い怖い
もうロスの顔を直接見えないくらい怖い
一度出てしまった言葉は戻らないのが本当に怖い

でもボクはこの雰囲気の中で

「な~んちゃって☆」

なんていえるほど鋼の精神を持ち合わせているわけでもない

「それを聞いて、勇者さんはどうするんです?」
「…どう、って別に」

ただ、気になるだけ、とはいえ、なんでこうも威圧的なんだろう



「いましたよ、彼女」


やばい、泣きそうだ

















「とでもいえば彼女の代わりにでもなってくれるんですか?
 そんな泣きそうな顔してあなた本当にわかりやすいですね」

「は」

「父とクレアと一緒に居た時はただそれだけで充実はしていましたし
 異性への興味とか特になかったんで
 しかもルキメデスが魔王になってからはそれどころでもなかったですし」
「…旅の途中で出会った現地妻的なものは?」
「そこまでろくでなしに見えますか?」

どうやら本当にいないらしく、胸に詰っていた何かがとれたような感覚がした

「そう、か」
「はい。でどうなんですか?」





「…どう、とは」
「勇者さんが彼女の代わりになってくれるんですか?」
「彼女いたの!?」
「いませんってば」
「は!?え?ん!?」

あいかわらず頭の回転くっそ遅いですね
その言葉を聞きながらも実は頭の回転はフルスロットルだ
え、つまり…どういうことだってばよ

オレ、あんまりこういうの得意じゃないんですけど
そういいながらロスに手を引かれやってきたのはみんなが集まっている場所からは死角になっている場所だった
というかなんでみんな気づかないの…
なんかロス怖いし誰か気づいて助けてくれないかな

他力本願な本心がばれたのかどうかは定かではないけど
足が止まったと思ったら、案外ロスとの距離が近い

「え、と…あの、ロスさん?」
「なんですか」
「なんですかはボクのセリフなんですけど
 彼女の、かわり?」
「はい」
「でも彼女いなかったんでしょ?」
「いなかったですよ」
「彼女じゃなくて妻だったとかいうオチ?」
「ではないです」
「彼女予定だった女の子っていう」
「ことでもないです」

どういうことだってばよ

混乱からなかなか抜け出せずにいると
いつの間にかロスの眉間にしわが寄っていた
なにかやばい事でも言ってしまっただろうか
そう考えていると腰にロスの手が回っていることに気が付いた
そのことでさらに頭が回らなくなっていると腰に回った手によって
ロスに密着する形にされる

1年前は見上げていた、その顔が背が伸びたことによって近くなっていたのだが
それがさらに近くなっている
いつもでは見えないぐらいの距離で
ロスの赤い目がまっすぐボクのことを見てきていて、羞恥から顔をそらす

「勇者さん本当に鈍感ですよね」
「は!?っていうかお前の言ってることがよくわからないだけだよ!
 曲げずに!まっすぐ!ストレートに物事は言うべきだと思うよ!!」
「はぁ、そうですか
 なら勇者さんもオレの事まっすぐ見てくださいよ」

じゃあ腰の手離せよ
そういうと今まで見たことがあるかどうかわからないぐらいのさわやかな笑顔で

「いやです」

一刀両断されてしまった
至近距離の笑顔で余計にロスの顔が見えなくなっていると
かすかなため息がボクの首筋にかかる

「っ!?」
「…なんですか勇者さんこの程度のことで感じてるんですか?」
「か!?」
「鈍感なのに敏感とか誰得なんですか
 それとも首が弱いだけですか?」
「そんなこと知らないよ!」

いい加減にしろ!
そう言おうとロスの方へ顔を戻すと
ボクの口から声が出なかった
その代わりに何か温かいモノがあたっている

「……ナイスアホ面」
「……………………は」
「鈍感なのか敏感なのかどっちかにしてくれませんか勇者さん」



まぁそんなところに惚れたんですけど


一人事のようにつぶやいた言葉が脳に届くまで
軽く数分を要したのは仕方ない事だと思う




 

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