戦士と夜

 

運よく旅立って1日目、無事に宿のある町につくことができた。
なのに運悪く宿の部屋がシングルの1室しか空いていないらしい。
せっかく町までたどり着いたのに野宿だなんてごめんだと思い勇者さんに相談もせずに受付の人から鍵を受け取り

オレと同じ部屋は嫌だと、同じ部屋に居るぐらいなら一人で野宿をすると言い出した彼女を無理やり部屋に押し込む

この人は何を考えているんだ
確かに初対面で胸を揉む男を警戒するなとは言わない。
むしろ警戒しなかったらしなかったで大問題だから、別にそれを理由に不機嫌になったわけではない

目の前でどうしたものかと焦っている彼女
女性というにはまだ少し幼さを残した顔
大きな目は不安を隠すことはなくおどおどと視線をさまよわせている

自分の趣味を把握してるわけでもないが、おそらくオレの趣味からは外れているのだろうと思っていた
なのに気になって仕方がない。

目で追ってしまうのは自分の担当勇者だから
思わず構ってしまうのは彼女の反応が面白いから
セクハラしてしまうのは彼女に危機感を持ってほしいから
傍に居なければと思うのは彼女が危なっかしいから
それだけだ

落ち着かない彼女を脱衣所に追いやり、装備を外す
ガチャガチャと静かな部屋に金属音が響いていたのだが
いきなり脱衣所の方から勇者さんの声が聞こえてきた
……あの人まだ入ってなかったのか

「勇者さん?何大きな独り言言ってるんですか」

声をかけながら脱衣所へと続く扉の前に立つ

「な、なんでもない!ごめんなさい!」
「別にかまいませんが…もしかして一人ではいるのが寂しいんですか?
 なら一緒に入りましょうか」

ドアノブに手をかけ開けようとドアノブを回すとかすかな衝撃がドアの向こうから与えられる

「ドアを開けようとしないで!!」
「はぁ、別に勇者さんの貧相な体が見たいわけじゃないですよ?」
「ひどいな!貧相じゃないよ!脱いだらそれなりに」
「すごいんですか?」

冗談に冗談で返したつもりだったが、相手に真剣に受け取られてしまったようでドアの向こうから
え、いやそ、ういうことじゃ
と焦った声が聞こえて思わず頬が緩む

「じゃあ早くしてくださいよ、明日も朝早いですから」

それだけ伝えるとドアから離れてベッドの上に座る。
勇者さんが寝る予定だが座るくらい構わないだろう。
そうしているとかすかにシャワーの音が聞こえてきた

壁が薄いのか、音がでかいだけなのか
思ったより鮮明に聞こえるその音に思わず耳を澄ます自分に気づく
思春期でもあるまいに
そう思いつつもその音に集中してしまう自分思わず部屋をでて扉を閉めるとずるずると座り込む

いったいなんなんだというか





しばらくそうしていると部屋の中で何かが動く音がした、勇者さんが風呂からでたのだろうか
タイミングが良すぎて怪しまれやしないかとも思うが
まぁ勇者さんだしな
と思うことにして扉を開ける

「あ、戦士お帰り、どこいってたの?」
「少し野暮用を…勇者さんその格好」

再びドアを閉めて鍵をかけ勇者さんの方を向くと
誰得だ
と言いたくなるような恰好をしていた勇者さんがいた

「え!?変、かな?」
「いえ、変ではないと思いますが…」

太腿の半ばまでぐらいの丈の男性モノのTシャツ。
ぱっとみそれしか着ていないように見える。

「子供じゃないんですから頭ぐらいちゃんと乾かしたらどうですか」

そんな恰好でのんきにベッドに腰掛けている勇者さんに近寄り肩にかけていたタオルで彼女の頭をがしがしと拭く

「ちょっ戦士!痛い!!」
「自分でやらないからこういうはめになるんです」

これくらいでいいかと彼女の頭からタオルを話すと
座っているのだから当たり前なのだが、こちらを見上げてふにゃりと笑う

「ありがとう戦士」
「っいえ、じゃあオレ入ってくるので、先に寝ててください」

ベッドの上に座って、少し前のめりで、頭をふいているときには頭とかタオルで隠れていた彼女の双丘が脳裏にちらつくのを意識しないようにしながら
脱衣所のドアを閉める

恐らく彼女はよくわからない。という顔をしていることだろう
















髪を乾かし脱衣所からでると、予想通りベッドの上ですこすこと寝ている彼女が視界に入る

「…アホ面」

宿に着いたときの不安などなかったかのように寝ている彼女の顔を覗き込む

目で追うのは彼女だから
思わず構ってしまうのは邪な想いがあるから
傍に居たいと思うのは彼女を

「勇者さん…ニゲル、を」

寝ている彼女の枕もとに寄りかかり顔を近づける
後数cmでお互いの唇が触れるというところで
彼女の口から

「ん…アル、バ」

オレの知らない男の名が紡がれる
別に彼女だけの知り合いがいても不思議はない
何せ自分たちはつい先ほどであったばかりなのだ

我に返り彼女から離れる
突如突きつけられた現実に失笑しかでない

「…付き合ってる方、いるんですね」

寝言でつぶやくということは夢にまで出てくる、大切な人なんだろう

「寝るか」

先ほど浮上してきた場違いな想いを、感情を
このまま沈めてしまおう
そうしたら自分は彼女の隣に居れる

そもそも、そういう人が現れても、想いを伝える気はないのだ
伝えてはいけないのだから

すこすこと寝ている勇者さんにおやすみなさいとつぶやき、荷物の近くに腰をおろし眠りについた







(限りある平穏なのに、多くを望むなんてきっと許されない)

 

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