魔王と

 

お城から魔王討伐の為に旅立ってから早数日


「こんな人目のなさそうな森に連れ込むなんて勇者さん・・・」
「いや、人目のなさそうなもなにも普通に直進してるだけだからね」
「え?やる気じゃないですか?」
「もうそういう発言はスルーするからね!?」

今日も戦士のセクハラに耐えつつ道を進み草をかき分ける。

「この先にある漆黒の洞窟…そこに最近モンスターが出現して
 周辺の村を荒らしているらしい
 洞窟は深くてモンスターは凶暴らしいけど
 勇者として放っておけないよね」
「モンスター倒すと、村から懸賞金が出るらしいですしね」
「やっぱりお給料は出るって言っても、もっとうるおいほしいしね!」

森を進み、お目当ての洞窟を視界にとらえると
見えなくてもいいものまで見えてきた

「あれが漆黒の洞窟…え!めっちゃ並んでる!!!!」

洞窟の入り口には同じくモンスター退治の人の列ができており
最後尾という札まで用意されてる始末だ
少し並んでやっと中に入ると
先に入っていた人達のたいまつやら何やらでとても明るくてにぎやかだ

「勇者さん、漆黒まんじゅう売ってますよ」
「本当に村人は困ってるの?」
「困ってないんじゃないですか」
「だよね…」

周りの雰囲気に圧倒されながらふらふらと歩くと、戦士に腕を引かれる

「勇者さん、あまりふらふらするとチンピラに絡まれますよ」
「あ、ごめん…ってここにチンピラはいないと思うよ?」

人が多いので誰かにぶつかってもなんら不思議はない
なんだこの洞窟
洞窟なのにこの人口密度…と思っていると不意にお尻に何かが当たる
後ろに誰かいるのかと思い気にしていなかったが
それは意思をもって動いているような動きをしてぼくのお尻をなでまわしてくる

「!?」
「どうしました勇者さん」
「戦、し…」

隣に居る戦士に助けを求めようと顔を見ると平然とした顔で

「こんなに人が多いところで痴漢されて喜んでるとかマゾですか?」
「え」
「あぁ、触ってるのオレなんで安心してください」
「オレなんでじゃねーよ!」

スカートなんて穿いてこなくて正解だった、こいつ何をするかまったくわからない

(なんだか思ってたのと違う…)
「もう家に帰ろうかな」

ポツリと独り言のようにつぶやいたのだが、運悪く戦士の耳にはいってしまったようで

「諦めてどうするんです!困ってる人を見捨てるんですかっ!!?」
「なんでこんな時だけ!?」
「勇者さんに旅をやめられると暇つぶしが」
「人を暇つぶしにしないで!!」

モンスターもこんな調子だとでてこないだろうと、いったん洞窟の外に出ることにした
出るときも相変わらず隙あらばセクハラしてこようとする戦士
どうにかならないのかこの人。セクハラという事実ですべてを台無しにしてる気がする

「ううーもうやだー…何か出るとき誰かの剣が腰に刺さったし…」
「あ、それオレです」
「オレです。じゃないよ!!」
「お前短剣なんて持ってなかっただろ!どうしたのそれ!」
「別に勇者さんの為に買ったわけじゃないです、よ?」
「え?なに?ぼくを刺すために買ったの?」
「違いますってオレが勇者さんを傷つけるわけないじゃないですか」
「…説得力がない」
「決して傷物にしてオレが責任とります!って流れにしたいわけじゃないですよ」
「何か言った?」
「いえ、何も」
「…ならいいけど…というかそんな大剣もっててこんな短剣いらないでしょ!」

そういい戦士の手から短剣をはじくと、きれいに放物線を描いて飛んでいき

さく

たまたま歩いていた子供の脳天に突き刺さった

「!?」
「あーあ」
(あーあ)

脳内の親友までのんきなものいいなのはこの際きにしないことにするとして…

「わー!やっちゃったぁあああ!序盤にしてやっちゃったよおおお!!!!」
「勇者さん…あったかいスープ飲んでそれから一緒に警察に生きましょう?」
「優しくしないでえぇえ!!」
「そいつまだ子供みたいですね…
 オレ今はじめてあなたを尊敬しています。先輩マジパネー」
「やめてー!」

二人で漫才にも似たやり取りを繰り返すと…いや、ぼくはいたって真面目なんだけど
戦士が適当にはぐらかすから…
子供が小さくうめく
よかった、死んでない…!けどこれは時間の問題のような気もする

「え、えどうしよう…回復アイテムの持ち合わせないし…」
「…仕方ないですね」

一人でおろおろしていると後ろから戦士の腕が伸びてきて、子供に刺さっている短剣を無遠慮に引き抜き
回復魔法をかけ始めた

「戦士…回復できたの…?」
「まぁ傷をふさぐくらいなら」
「ボクも腰刺されてるんだけど…」
「知ってます」

じゃあ回復してくれてもいいのではないか。
すると腕に抱えていた子供が小さくうめく

「うう……ふぁ…」
「おぉ!だ、大丈夫!?」
「ふぁ…













 ふぁんぴーぐれーぷ…」












「ふー。いやー助かりましたー」
「こ、こちらこそ」

ダッシュでふぁんぴーぐれーぷを買ってくると
予想外に元気になったようで一安心である
声からして女の子だろうか?
彼女の視線がぼくの顔から胸元へと移り何かを捉えた

「あれ?その紋章は勇者の…」
「え…あぁ」

首から下げている勇者の証が気になったようだ
ぼく以外にも結構つけている人いるんだけどね。
すると少女は長いマント…ケープ?から右腕を出し

「わたしもほら、魔王なんですよ。なんか奇遇ですねー」

…え?ま、おう?

「それでは有難うございました」

ぺこりと頭を下げて少女は目的地へと歩いていく

「ま、待って―!」

そう叫び少女肩を掴む

はずだったのだがうっかり足元にあった小石に躓き倒れながら少女の服をつかむと
少女はどうやら布1枚しか着ておらず、いとも簡単にその合わせ目にある安全ピンが外れてしまって

「「!!!???」」

ガシャンッ

ぼくは幼女の身ぐるみを剥いだ罪で投獄されることになった。

「そんな馬鹿な…いったいどういうことなの…」
(ニゲル…そういう時もあるんだよ)
「なんで一人で悟り開いてるの…!
 うぅ…意気揚揚と勇者として旅立ったはずなのに…ロリの服を剥いで投獄なんて…
 お母さんも喜んでくれたのに…」

牢屋の隅で体育座りをして嘆いていると
ふいに少し高い…変な声がきこえてきた

「たすけにきたぞ」
「え?」

聞き覚えのない声だったが、聞こえた方に視線をやると
宙に浮いた穴から緑の胴体に黄緑の頭と手足をしたよくわからない生物がこちらを覗き込んでいた

「誰!?」
「声が大きい!」

その謎の生物は迷うことなく私の口をふさいできた
スパァン!!ゴンッ!!という音と共に。

「訳あってこんな格好をしているが……」

勢いよく手で口を押えられその衝撃で背後の壁に頭を打ち付けた。
手をはなしてもらえないので打ち付けたままの状態で痛みを耐えていると
不意によくわからない生物の顔が近づいてくる

「ふぁ、ふぁに」
「いや、絶好のシュチエーションかなと」

黄緑の両手がぼくの頭を固定するようにそえられる、が

「…それ被ったままだとかっこつかないと思うよ、戦士」
「チッ…よくオレとわかりましたね、愛ですか」
「違うよ」
「とにかくそこの穴から外に出ますよ」

やっと離れた戦士の背後を見やると、先ほど彼が通ってきた穴

「え、これ外に通じてるの?これ何」
「いいから入ってください」
「え?うわっ」

穴に入る前からわかっていたことだが、すごく暗い
自分がどこにいるのかもわからないくらいだ
不思議な感覚に襲われながら暗闇を抜けると
土臭い地面にべしゃっと落とされる

「あ、れ…外?」

どういうことだろうか、先ほどまで自分は牢屋に居たはずなのに
辺りを見回すと大きな袋を背景に先ほどの少女が立っていた
魔王?
そう聞くと、びっくりさせてしまっただろうか、少し彼女の肩が揺れた気がした

「そうこれが、魔王の能力空間移動です」
「!」
「好きなところに通じる穴を空中に作ることができる」

先ほどの穴からにゅるっと出ながらなぜか戦士が魔王の能力の説明を始めた

「ただし」
「…ただし?」
「人間がこのスーツを着ないで生身で通るとアバラ骨に亀裂が走る」

ぷえーという謎の笑い声と共に説明されたのは衝撃の事実だった

「おぉおい!!って本当に痛い!何これ!!」
「すみません。それしか方法がなかったもので」
「その子が被害届取り下げれば、普通に釈放されたんじゃないの!?」
「バカですね、それだと勇者さんに前科がつかないじゃないですか!
 前科が無いと
 前科者の勇者さんなんてほかにもらいてないでしょう?オレが貰ってあげますよ
 って台詞が言えないじゃないですか!」
「そんな理由で嫁にもらってほしくないよ!!
 つかなんで魔王と一緒にいるの、世界滅亡させようとしてる子だよ!?」
「あ、あの…」

それまでびくびくと静観していた少女がおずおずと口をはさむ

「別にわたし、世界滅亡とかたくらんでません…
 たしかにジーちゃん……初代ルキメデスは世界征服とか狙ってて
 ちょっと厨二病でしたが、パパの代からはキチンと人間界と魔界を区別化して
 秩序ある政治をおこなっていました。
 もちろんわたしが継いでからもです。」
「……じゃあ今世界に起きてる異変はいったい誰が…」

目の前にいる魔王が原因じゃないとすれば、もしかして魔王より強い敵がいるのか
魔王の座を狙ってる輩の仕業か…そう考えていると少女が続けざまに

「ポップコーンです」



「わたしがポップコーンを食べようと思い、間違って魔物償還用の鍋で
 ポップコーンを作ってしまい、それはもうポップコーンのように
 魔物が人間界に飛び出して…」
「結局君のせいじゃないか!!」
「魔王を責めるのはやめてください勇者さん!
 たしかにコイツのせいかもしれない…でもこいつは
 自分の行為の責任をとるためにたった一人で魔物を封じる旅をしているところなんです」

確かに、そういわれればそうだ、こんなに小さいのに自分のしりぬぐいを自分で
なのになぜかぼくの心が落ち着かない、違う魔王のしたことじゃなくて
そんなことじゃなくて戦士が…

「なのに貴方はそんな子の頭を刺した上に服を剥ぎやがって!」
「それはいわないでー!!」
「オレは魔王に協力することにしました。世界平和のため」

そう、そう。だね世界平和の為…うん。

「わかったよ、ぼくも協力








 って後ろドル袋どうしたー!!?」

魔王と戦士の背景をよく見ると戦士の装備とぼくの装備
そして$のマークの入った袋が大量においてある

「お前!魔王の能力をおおお!何が世界平和だ!!」
「あっはーぷえーぷえー」
「なんだそのぷえーっての!笑い声!?
 魔王も何気に新しい服買ってるし!!」

ドル袋の事で言及しようにも戦士は話してくれそうもないし
魔王に聞くのは…たぶん筋違いだろう。

戦士が魔王をかばった時に感じた違和感の正体には、まだ気づきたくない



(気づきたくないって時点で気づいてるようなものだよね)


 

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