窮地

 

青く炎のように揺らめく物質を親指と人差し指でつまむ人影があった

「いやーあの黒い化け物、素晴らしかったな。すごい憎悪だった…もう憎悪の塊だったな
 あいつ一匹調理するだけで1000年前の時以上の魔力が生成できたぞ」

しばらく眺めていたそれを満足そうに頭上に掲げ、大きく口をあける
まるで小さい子が食事をするかのように、口内にそれを入れ口を閉じる
満足のいく味だったのだろうか、ご満悦そうに口をゆがませ
視線の先には数時間前、惜しくも手に入れることのできなかった威厳を感じさせる建物

「1000年前は、シーたんに邪魔されて失敗さいたけど……
 今回は邪魔する奴もいないだろう…
 よーし!いくぞー!!世界征服!!」

先ほどまでのシリアスなど関係ないとばかりに両手を振り上げるのは
初代魔王ルキメデスだった










「――というわけなんだ、協力してほしい」

自分の親友を助けたいこと、彼の体の事
必要だと判断した情報を目の前に座り込んでいる魂の魔法使いに伝えるロス
頼まれている相手と言えば真顔でしばらく沈黙している
彼にしては辛抱強く返事を待っていたのだが流石にしびれをきらし
再びトイフェルさんに尋ねる

「で、どうなんだ?」

そんなロスの気迫に驚いたのかおののいたのかイマイチ把握できないが

「ふぇ?でゅへへ……」

意味をなさない言葉を紡ぐが、ものすごい量の汗をかいているのは事実だった
回答をせかすようにいま一度ロスが尋ねる

「いや…あの……でゅふふキャタッ肩が、ですね」

なぞの単語が入ってくるが、明らかに先ほどより顔色の悪いトイフェルさんが少し心配になってきた

「あ、あのさ…ロス?その人一応けが人?なんだし、そんなに急かせたら悪いんじゃない、かなぁ?」
「……はぁ、勇者さんはこいつの肩を持つんですか?」
「へ?いや違うよ?一般論だと思うよ?」

なぜか標的をこちらに変更したロスがずいっと距離を詰めてくる
何か気に障ることでもしただろうかと思っているといつもより少し焦っているようなヤヌアさんの声が届いた

「大変でござる!どうやら拙者たちすれ違いになったみたいでござるよ!」
「どういうことだ?」
「魔王は今城近辺に居るみたいなんでござる…ワープしている間にうまい具合に入れ違いに…」
「魔力探知ができたということは魔力が戻った魔王が?」
「ござる。」
「急いで戻らないと!!」
「で、でも!魔力のもどったおじいちゃんは、すごい強いよ?」
「大丈夫だよルキ、今度はこっちにも強力な助っ人が居るもの
 魂の魔法使いが!」

その発言に一番驚いていたのが本人だというのは誰も知らない。










全身肌色の人、モルトモーメントさんと別れ、城へと急ぐ

「…ロス、それ大丈夫なの?」

隣を走る彼の背後を見ると、ずるずると引きずられているトイフェルさんが居る。

「大丈夫でしょう。人間結構タフですよ」
「いや、そういうことじゃなくって…」

どこかすっきりしたようにも見えるロス
彼と入れ違いにヒメちゃんが近づいてきた

「ニゲルさん!」
「ヒメちゃん、元気そうでよかった…」
「ニゲルさんこそ、あの…聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

なんだろう。この嫌な感じ。前にも感じたことがあるような気がする
そうおもいつつも断る理由もないので何?と聞くと
少し興奮したように話出す

「いつの間に戦士さんをお付き合いすることになってるんですか!」

思わず顔面から地面とこんにちはするところだった。

「は!?な、なん…え!?」
「わかりますよー。で、いつなんですか?」
「い、いつって…えぇ…」

完全に修学旅行の夜とか、女子だけの家庭科実習とかのノリである。
正直あまりしたことのない会話に戸惑いが隠せない
それに気づいたのかルキが助け船を出してくれた

「えっとね、ヒメちゃんたちと会うちょっと前だよ!再会した後からラブラブなんだもん!」
「ルキちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」
「わぁ!おめでとうニゲルさん!」
「いや、え…えっと…あり、がとう?」
「あんたら緊張感ないな」
「アレスさんに言われたくないですよ…」










そこまで遠いわけでもなく、案外早くにルキメデスの姿が見えてきた

「おぉ、きたなぞろぞろ」

するとルキメデスをはさんで反対側に見慣れたゲートが現れ
中からはディツェンバー達が出てきた
ジャスティスさんは相変わらずディツエンバーに抱き着いている。

「おいおい、なんか豪華だな…ワクワクするな、まるでアレだな





 ラストバトルだ」














「いや、ホントスミマセン
 でも別にできるともやるとも言ってませんし……
 むしろ肩が痛すぎて断ろうと思ってたのに無理やりつれてこられたというか…」

ロスの目の前で正座させられてぽつぽつと反省の言葉なのか微妙に判断つかない言葉を吐き出す魂の魔法使い、トイフェルさん。

「ロス!その件は後回しだ!!今はこの状況…何とかしないと」

ノインの操る二代目ルキメデスとユーリとかいう少年によって
ぼくとルキ・ヒメちゃん、ロスとトイフェルさん以外が全滅してしまった

ロスが考えた対初代にむけた作戦はこうだった


1、攻撃組(ルドルフ・ヤヌア・鮫島・アレス)で魔族どもにつっこむ

2、そのスキをついて魔王からジジイの魂を取り出す

3、すると魔族のリーダー、影男がテンパるから、そのスキに殲滅する

「オレは魔力ほとんど次元の狭間に置いてきてしまっているので、いかない!
 そして勇者さんもなぜか剣を持ってきてないので、いかない!」
「ご、めん…来てから気づいたけど、ぼく最近ずっと剣持ってなかった…」
「魂の魔法使い、あとはお前にかかってるぜ」

各自の作戦を最終確認していると初代が声をかけてきた

「まだー?」
「あぁ、もういいぞ」

「魔王様…律儀に待たずとも…」
「何を言う、勇者たちのコマンド入力は待つのがマナーだろ
 それに全力で来てくれた方がおもしろいだろ?どうせ勝つのはオレだしね!」

「よし、いくぞ…作戦開始!」





そして今に至る

「ろ、ロスの残ってる魔力で回復、は?」
「無理です。正直今のオレにはライホリズどころか、ストライトボールすら無理です」
「うーんわかんないっ!」
「あのレイオット村での一件でオレは魔力を作る力を失ったので
 魔王みたいに魔力回復できませんし、クライルソウルのレオパードスを
 マタイントするためにはもう一度魔力自体にアタッチモートするしか」
「わからん!わからん!!」
「まぁ勇者さんさえ押し倒せればどうということないんですが」
「何言ってるのか全然わからん。どうしてそうなった」





「つまらん。どうやらオレは強くなりすぎたようだ…
 さーてと、シーたん。そろそろ長年の決着、つけようか」
「ヤバイ!魔王がやる気まんまんだ!
 ルキ、ゲートでルドルフさんの剣とれない!?剣さえあれば!」
「ダメ!ギリギリ届かない!」

あっちでわたわたこっちでわたわたしていると
この場に似合わないのんびりとした声が聞こえてきた

「いやーほらほら。どーだい?オレだって別に遠出が嫌で
 城の周りグルグルしてたんじゃないんだよ。
 こーやって魔王が城近くに現れると予感しててね!」
「はいはい。そうですか、えらいですね。
 しかし魔王…本物ですよ」
「そりゃそうだよ」

遠くから見える小さい影と長身の影

「ぜったいムリです。勝てないですよ」
「まぁたぶんムリだろうな。それでもオレはいくよ。だってさ…
 たとべっ」

どこかで見たことがある漫才のように、かっこつけた台詞を言おうとした瞬間
頭上からの圧力によって地面に埋まる長身の男性。ライマンさん

「誰だお前!」

そう小さい影、トリュウ君に聞いているが正直彼からしたらお前こそ誰だ
といったところだろうか。
だがユーリがライマンさんを攻撃して良かったのかわかるかったのか。
ルキのゲートが届く範囲に武器が放り込まれた
ゲートを通してそれをとり、柄の感覚を握りしめて確かめる

「敵か?お前らも敵なんだよなぁ?」

なおもそうトリュウくんに突っかかっているユーリの体を剣で薙ぎ払う

「大丈夫?えっと…トリュウくん?」
「レッドフォックス師匠!!!!」

安心したのか会えたことに喜んでもらえてるのか。
ギュッと抱き着いてくるあたり王宮兵士と言えどまだまだ子供なようでなんだか可愛い。





後ろから感じるちょっと怖いオーラは気にしない事にした





「ロスさん?どうしたの?」
「…誰だあのチビ」
「あー最近ね、ニゲルさんが助けたんだよ。ファンなんだって」
「………そうか」
「ロスさん?」
「なんだ」
「嫉妬深い男って見苦しいと思うよ?」
「……………」




 

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