通じる

 




「見せていうただけで、腕飛ばされるとはねーぶっそうな世の中やねー」

何事もなかったように飛ばされた腕を緩やかにグルグルと回す少年
どうする…なんだかこいつはヤバイ気がする…封印魔法を一度とめるか?しかし…
いやそれよりこいつ今…

「ふふ、まぁええよ。みられんの嫌やったら…オレは…帰るわ」

何処からともなく白い布を手に取り、それで自信を覆う少年
いくら周りが白いといってもわかるだろ。なんだこいつバカか?

しばらく何がしたいのかわからず見ていると
勢いよく立ち上がる少年

「じゃーん!実はここにいましたー!」
「いや…わかってるよ。なんだよお前?邪魔する気ないならどっかいってくれないか?」
「あぁ、もういいよ。見終わったから、もう帰るよ。
 しかし魔王ルキメデス、お前おもろいね。お前の中に2人いるやろ
 オレもね、いろんな人間になれるけど、魂は一つだからね、めっずらしー

 でもこれ、だれ?」

そういって少年の首から上が見おぼえるある青年の顔に変わる

「!?」
「!…どーしたシーたん。ひさしぶりにクレア君みて動揺したか?」
「黙れ」
「アイツは見たものに変身する魔法使いなのかなー
 彼はあの顔を何歳か老けさす事とかもできるのかなー?
 そしたら今のシーたんと同い年のクレア君を見られるよねー
 オレと混じらずクレア君があのまま生きてたら…こんな顔だったのかーとか想像してみたりして」
「黙れって言ってるだろ」

ルキメデスを睨みつけると、いつの間に体制を立て直していたのか奴の左腕で捕まれた

「お前はオレの魔力を奪い封印した、封印しないとオレは魔の感情を餌に
 魔力を回復しちまうからなぁ…いい感情だったぜ、シーたん
 封印魔法で弱ってるお前、魔の感情で魔力を回復したオレ


 さぁ、立場逆転だ」

ヒマやなぁと少年が思ったからどうかは知らないが。
いきなり唐突な話題をふっかけてきた

「そういえばあんたがニゲルさんが言ってた戦士さん?」
「…だったらなんだ、なんであの人を知ってるんだ」
「さっき言うたやーん。あ、言うてないか。まぁどっちでもええわ…
 オレニゲルさんと一緒に牢屋に入った中なんよ」

そのぐらいなんだ。と思ったが話を長引かせるつもりはない。

「いやなー。オレ最初はニゲルさんが女の子とは思わなかったんでな
 あんなことしちゃったし、責任取らないかんよなーって言うたら
 戦士みたいなこと言わないでよ!
 って言われてなー。あんたも同じような事したんかなーって思て」
「…責任?」

あの人はいろいろなセクハラだってしてきたのだから、その延長線でそういう発言も何度かしたことがあるが
問題なのはなぜこいつもそういう発言をするに至ったかだ
顔をつかんでいた魔王の手首を握ると痛すぎて悲鳴を上げている。
その隙に顔から手をはずし少年を睨みつける

「お前、あの人に何をしたんだ」
「おーこわ!そんな怒らんといてーあれは事故やったんやって!役得やったけど!!」
「あ゛?」
「ホンマ柄悪いな…ニゲルさんも可哀想やわーこんなのが相手なんて
 ただ事故でニゲルさんのおっぱい見ちゃっただけやで!」

…は?こいつはいったい何を言ってるんだ

「オレもまさか女の子とはおもっとらんかったんよーぺたーんってしとったしなー」
(確かに一見男なのかどうか疑うレベルではある)
「女子だとしてもやで?普通なんてゆーの?キャミソール?とか着てるもんやろ?」
(確かにあの人そういうことに無頓着そう、というか無頓着だな)


「まぁそういうことや」
「ちょっと記憶消せよお前」
「だが断る!」

この隙を狙って魔王がこっちに攻撃してこようとしたので仕方なく封印魔法(物理)で沈める
するとオレは今までいた空間ではなく、まったく見知らぬ森の中にいた

「っどこだここは…さっきの関西弁の奴の記憶も消してないっていうのに…
 次元のはざまから外に飛ばされたのか…?まさかまた外に出られるとは…
 だがあそこは時間の流れがむちゃくちゃだからな…」

そう誰にというわけではなく、自分に向けたつぶやき、そこでふと彼女の姿が脳裏をよぎる
あの関西弁に裸を見られたということか、あの人の性格上自分から見せたということはないだろうが
オレですらまともに見たことないのにと思わず歯ぎしりをする

「…今は前回から何年後だ」

もうあの人が生きてない可能性だって、誰かと結婚して幸せな家庭を築いてたって
おかしくない時間がたっているのかもしれない
いっそ彼女が死んでしまってるぐらいの時間なら、オレじゃない男の隣で幸せそうに笑ってる彼女を見るぐらいなら

「人類が絶滅でもしてくれてたら、オレはもうあいつと戦わなくていいのかな」

あぁあの人に会いたい、こんな気持ちになるぐらいなら、無理にでもモノにしておけば
いやでも無理やりはいくらなんでも
そう考えなら地面に腰を下ろす少し休んでからでも、このあたりを散策するのは遅くないだろう










全魔界一決定トーナメントが行われている村の片隅で
ぼくとルキは地面に木の棒で落書きをしながら現在の状況を整理する

「ロスを救いたい、でもロスを救うには、封印魔法を解かないといけない
 けど封印魔法を解くと初代魔王が復活する。
 初代魔王は世界をめちゃくちゃにしようとしてるから、倒さないといけない
 しかし初代魔王は、ロスの友人の体を奪っているから魂を追い出して、体を取り戻したい
 それ以前に、初代魔王を復活させようとしているやつらもいるから、こいつらもどうにかしないといけない
 そして、ルキのパパさんがそいつらの1人に捕まってるから、助け出したい
 という現状…」

ううんこれは…これは…ううん…

「なんかめんどくさいね」
「それ言っちゃダメ!!」

木の棒を投げ捨てて立ち上がる

「とにかく、ヤヌアさんとこいこう」
「鮫島さんの友達に、魂取り出す魔法使う人いないかなー」
「あの人友好関係広いのかな…あ。ルキ、こっち出口だよ、戻ろう」

ヤヌアさんを探して決して広くはない村の中を歩き回っていると、ヤヌアさんの驚く声が聞こえる

「ロスさん!?」
「え?」
「じゃなかった!だれ!?」
「ヤヌアさんどうしたんですか?さわいで」
「ニゲルさん!いや、なんでも!」
「あ、鮫島さん」

ヤヌアさんの隣にいる鮫島さんに、そういえばお礼を言っていなかったと思い声をかけるが
ヤヌアさんは鮫島なら帰ったよ。という

「え?」
「なんか偶然古い友人に会って、懐かしいから一緒にご飯食べてくるって」
「いや…鮫島さんならここに…」
「あーこれは残留思念みたいなものだよ」

こんなにはっきりとした残留思念とか聞いたことないんですけど…!

「ほら、友人ってのは離れてても心はそばにいるもんだろ!」
「こんな具体的にはいねーよ!!」
「あ!鮫島が消える!?」

するとだんだん薄くなる鮫島さん(残留思念)
そしてぼくの後ろから声がかけられた

「あれ?勇者さん」

ずっと待ちわびていた
ずっと会いたかった聞きたかった声が

そう認識してぼくは

「「「あ」」」

全力で逃げた。







いや、だって待って待って待って!なんで!?
なんでいきなり背後から現れるの!?どういうことなの!

無我夢中に村の近くの森の中を走り抜ける

どのぐらい走ったはわからない、少しなのかもう森を抜けてしまうのか
走って走って、振り向いてもやっぱりあの人は居なくて
ホッとすると同時にそれがなぜかさびしい

別に追いかけてきてほしくて逃げたわけじゃないけど、というかむしろどうしよう。

「嫌われた、かな」
「誰にですか」

誰もいないと思ってつぶやいた言葉に返答が帰ってきた。
声のした方に顔を向けると、息を切らせて木に手を付いていた彼が居た

「っ…ろ、す」
「はい、そうですよ…まったくなんでいきなり逃げるんですか」
「なんでってそれは…」

恥ずかしいというか気まずいというか…

「…もしあの事気にしてるんだったら、忘れてください」
「へ?」
「オレが、最後にいった事です」


―貴方の事好きでしたよ―


「あんなの、気にしなくていいですから。貴方にそんな態度取られると」
「気にしなくてって何」

あぁ、どうしよう、すごくつらい、泣いてしまいたい
忘れろって、それってやっぱりあれはいつもの冗談だったっていうこと?

「1年たってるから、もうそんなつもりないってこと?うれしかったのに
 ぼくがどれだけ、あの言葉に励まされていままでっがんばってきたと…っ!」
「1年…?待ってください勇者さん、オレは」
「聞きたくないよ!」

裏切られた気分だった
抑えようと思ってたのに目から涙はこぼれるし、それをふきたくても、それよりロスの言葉を聞きたくなくて耳をふさぐ

「聞いてください勇者さん」
「やだ、よ…お前は冗談のつもりだったのかもしれない、けどっうれしかったんだよ!
 なのにっ忘れろだなんて…ひどいよぉ…」

号泣してるはずなのに、どこか冷静な自分がいて、なんで好きな人の前でこんな醜態晒してるんだろうとか
顔ぐちゃぐちゃでひどいんだろうな、なんて考えてる自分がいる。
このままほおっておいてくれたらいいのに、なぜか自分とは違う暖かい体温に包まれた
耳をふさいだ手の向こうから、ロスの声が聞こえる

「じゃあ、そのままでいいんで聞いてください、オレだって本当は忘れて欲しくないです
 でも、それがあなたの不安になるんだったら…」
「不安…?」
「だから逃げたんじゃないんですか?」

顔を上げると、思ったより近い位置にロスの整った顔があり、頬に熱が集まる
彼の唇が弧を描いたかと思うと、目じりをぬるりと舐められた

「!?」
「しょっぱいですね。涙だから当たり前ですか」

そして、何か思い出したのか、いきなり眉間にしわを寄せたロス。

「そういえば勇者さん、お聞きしたいことがあるんですが」
「い、いけど…その…離して、くれない?」
「いやです。勇者さん褐色の変な言葉を使う少年、知ってますか?」

そう聞かれ、エルフの顔が出てきた。
今まで忘れていたのだが、そういえばそんなやつもいたなぁと
そのまま伝えると、さらにロスの眉間が険しくなる

「いたなぁって…あいつ勇者さんの胸みたでって自慢してきたんですが」
「…!?」
「……本当なんですね」
「いや、だってあれは」

そういえばそんな黒歴史もありました。でもあれは不可抗力というか別にぼくは悪くないと…!
弁解しようと口を開くが、それより先にロスが離れる。
触れ合っていて暖かかった部分に風が吹き抜けて寒い
恐る恐るロスの顔をうかがうが、何を考えてるのかよくわからない
声をかけようかと手を伸ばすと、その手が捕まれて背後にあった木にそのまま押し付けられる

「いた…」
「本当、なんですか?」
「ロス…?なんで、怒ってるの?」
「当たり前でしょう。好きな女の胸見られて怒らない男なんていませんよ」

好きな!?その単語に反応してしまい、現金な奴だなぁと思っていると、ロスの唇がぼくのそれに押し付けられる
その後も何度もなんども触れるだけのくちづけが繰り返されてどんどん体が熱くなっていくのがわかる

「っろ、す?」
「…はい」
「その、ぼくが好きなの、はロスだけだよ…?」

そう伝えると信じられないというように目を見開きこちらを凝視してくる
失礼な…!!

「その、エルフにされたことは不可抗力、だし、見られただけで何かされたわけじゃないし
 されかけたりはした、けど…キス、したりしたいなって思うのはロスだけだよ?
 ロスと会えなくてこの1年、ずっとお前の事だけ考えてたんだよ」

好きだよ。
と、そう伝えると、ロスは泣きそうな顔をした
いや、だっただろうかと思っていると再びぎゅっと抱きしめられる

「オレも、好きです。あなたが好きです。」
「うん、ぼくも好き、だよ」

するとロスの手がスカートの中に入ってきた
ビクリと肩を揺らすと耳元で

「嫌、ですか…オレもう我慢できないんですけど」
「っ…いや、じゃないよ?」

すると今までなきそうだった顔が少しだけ笑顔になった
それで思い出したのは彼の故郷で見たあの記憶

親友の、親の前ではもっと無邪気に笑っていたのにと思うと
仕方ないことなのに嫉妬してしまう。




 

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