婚約…?

 


切株に座って木を切っているロス、シオンとその傍らに青年が立っていた

「今日からオレのことはロスと呼べ!」
「は?何いってんだ?」
「今日からオレは名前を捨てた孤高の戦士として生きるのさ!」
「なんだ、いつもの頭の病気か」
「知ってるか?シーたん、世界は広いんだぜ!
 オレはさいつかこの世界を隅々まで旅したいんだ…そして…結婚したい」
「終着点が庶民的だな。世界中旅する目的が結婚って」
「えーいーじゃん結婚幸せそーで。シーたんはそういうのあこがれない?
 冒険!愛!幸せ!」
「いやー別に。オレは今でも十分だからな、お前がいると楽しいし」
「!シ、シーたん!!」

喜びのあまりシオンに抱き着こうとした青年に容赦のないグーパンが入る

「あー楽し」
「…黒い……」









左半身を吹き飛ばされたはずのシオンが起き上がる

「あれ…?どうしたんだっけ…ロス…?父さん…?」

そうして左半身を飛ばされたことを思い出したのか自身の腕を確認すると
当たり前のようにそこに生えていたのだがその手の甲に謎のマークが浮き上がっていた

すると村の方から爆発音が聞こえてきたので、村へと急いで戻ると
壊滅状態になっていた
煙の向こうから現れたのはシオンと一緒に神殿に向かった、先ほどシオンがロスと呼んでいた青年と
シオンの父ルキメデスが倒れていた
シオンが彼の名前を呼ぶとこちらに気づいたのか顔を向けてきた

「よぉ…シオン…」

そう振り返った彼の目は記憶では空のように青かったのに、今はシオンと同じ、赤い目だった

「まさか関節接触だったのに魔法に目覚めるとはな…しかもすごい魔力だった


 オレよりな」
「ッ…お前…」
「しかし片手足がなくなってたからな、どうにかなったよ…
 あれ?そういえばお前はなんで吹っ飛ばした身体があるんだ?」

ロスと呼ばれた青年がシオンの左手の甲にマークを発見した

「お前も魔法に目覚めてるのかよーめんどくせーなー!
 身体のっとる魔法ってスゲーしんどかったんだよ
 今はカンベンしてくれねーかなー」
「黙れルキメデス
 お前はもう死ね」

左手を青年、ルキメデスに掲げるシオン
だがそんなシオンを見て不気味に口角をゆがませるルキメデス

「シーたん、裏山に植えたリンゴの木の世話、頼むぜ」

ルキメデスから吐き出された言葉にシオンの目が見開く

「なんでそれ、お前が…!」
「お前の友達クレア君はまだオレの中で生きてるからな!!」
「っどういう…!」
「アハハ!じゃあなサンキュベイベー!





 またな」

そこでぼくの目が覚める
今見たのが本当にこの村の、ロスの過去…?
それってことはつまり初代ルキメデスって…

(そうだよ、ロスが初代を倒せないのはクレアさんの体だから
 クレアさんがまだ初代の中で生きてるなら殺すわけにいかないから)
(アルバ…全部知ってたの?)
(…うん、ごめんでもニゲルが知る前に話すことはできなかったんだ
 この世界の歴史が変わってしまうから)
(この、世界?)
(そう…ところで、おじいさんに抱きしめられてるけどいいの?)
(へ?)

そういわれて顔を上げるとアルバの言った通り、おじいさんの腕に抱かれていた

「うわぁぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!!?????????」
「どうしたんだ?苦しそうにしてたから優しく抱きしめてたのに」
「そんな優しさ知りたくなかった!!
 と、とにかくロスの…」
「ニゲルさん、ロスさんの事諦めてその人に鞍替えしたんだね…」
「ルキちゃん!?何言ってるの!?してないよ!!」

何やら勘違いしているルキに今までの事情を説明すると、なんとか理解してくれた

「よかった!私二人とも大好きだから幸せになってほしいよ!」
「ルキちゃん…」
「子供は2人かな!」
「まって、今度は何の話してるの?」

今度はまた別の方向に話が飛んだようだ。なんで

「魔法でロスさんの過去を見たんだね…
 おじいちゃんとロスさんの関係、知れたんだね…」
「そっか、魔王の孫ならロスと魔王の関係を知ってんじゃないの…?
 なんで教えてくれなかったの?」

そう聞くとルキは少し話しづらそうにしゃべりだした

「だって、そういうのって他人から聞くより、本人から聞いた方が愛が深まると思うの」
「…はい?」
「ニゲルさんだって、どうせ聞くならロスさんから直接聞きたいでしょ?
 そういう大事な話は」
「まぁ、それが一番だとは思うけど…」
「それかこうやって苦労して自分で調べた方が愛しさが募るでしょ?」
「う、うん?」
「後補足をするとね、魔王の魔力をほとんど奪ったりしたんだけど
 それでも魂を取り返す方法はわからなくて、仕方なく封印することにしたんだよ
 なんで封印したかっていうと、魔王は世界中の負の感情で魔力を回復できるからなの」
「そう、なんだ…ねぇルキ、よければその辺りもう少し詳しく話してくれる?
 魔界のこととか、ルキとロスの関係とか…」
「いいよー私の知ってることだけだよ?」
「うん、有難う」

じゃあまず2代目と初代の関係から…
そうルキが話だすと小屋の外から叫び声が聞こえてきた

「ヤヌアさんの声だ!」

一緒に来たのかな、と思い外に出るとまるで囚われてや焼かれている豚のような格好で捕まっていた
その周りをドコドコドンドンというBGMと共にハセガワラくんが回っている

「おじいちゃんは魔界をつくったあとその世界の住人をつくった」
「え!?この状況で話続けるの!?」
「魔王の魔力から産まれた第一世代
 特にパパは魔界の管理とかもさせるために生み出されたから魔力が高いんだよ
 ちなみに第一世代はみんな耳が尖ってるんだよ、その子供や孫は丸い人も多いけど…」

ルキが説明してくれているが正直ヤヌアさんが気になって全然会話に集中できない

「助けてでござるー!助けてでござるー!」
「だからおじいちゃんって呼んでるけど血はつながってないんだよ
 あれ…?でも生成で血使ってるらしいし…つながってるのかな……
 でも血が繋がってても愛が繋がってなきゃ家族じゃないよね
 だから躊躇なくやれるよ!」
(こいつ時々すごく魔王っぽいこというな…)

するとおじいさんが小屋から出てくる

「おいおい、妄想してたら誰もいなくなってて泣きそうになったぞ、何を騒いで…
 なっ!あれは!婚約の儀式!!」

おじいさんがヤヌアさんとハセガワラくんを視界にとらえるとそう叫ぶ
婚約の儀…?

「は、ハセガワラ君って女の子だったの?」
「は?男の子だよ」
「ハセガワラ!?いまハセガワラって言った!?」

いきなりルキがハセガワラ君の名前に食いついてきた

「まさか!全魔界一最強決定トーナメント3年連続優勝者
 ハセガワラ龍星!?」
「えぇ!?」
「そうだ、オレこそ前魔界一最強決定トーナメント覇者ハセガワラ龍星」
「流暢にしゃべりだした!」
「オレはコイツに惚れただから結婚する」
「えええー!?」
「もし邪魔したいなら今度行われる全魔界一決定トーナメンチョ……
 トーナメントでオレと勝負しろ」

トーナメントの名前長いもんね…

「オレに勝つことができたら結婚はあきらめてやろう、グンマラダの神に誓おう」
「グランマダの戦士が神に誓ったよ…本気だよ…」
「へぇ、そうなの全然わからん」
「どうする…相手は生きてる特上カルビの異名をもつハセガワラ龍星だよ…」
「その異名から強さが想像できないし
 正直ヤヌアさんの将来よりヒメちゃんやルドルフさんが無事かが気になる!!!!」
「グンマダラの戦士が神に誓ってるのに無視するの!?」
「それがわからないんだよ!ぼくも会話に混ぜてよ!!」
「ちなみにルドルフさんたちは無事だけど、ヒメちゃんは依然行方不明だよ」
「じゃあヒメちゃん探しに行こうよ!!!!」

いったいどういうことなの!?まったく意味が解らないよ…

「どうした?やはりオレとやるのは怖いか?」

ハセガワラくんがそういうと、どこかで聞いた声が聞こえてきた

「なるほどな、話はきかせてもらった」
「しゃめじまー!!!!!!!!!たすけてー!!!」

たき火の上につるされているヤヌアさんが鮫島さんに助けを求めるが
そんな鮫島さんは一言
断る!
とだけ告げてくる

「最初はお前のピンチと思って駆けつけたが、どうやら話が違うようだ
 悪りぃがオレは人の恋路に口出すほど野暮じゃねぇんでな」
「恋路って!拙者は嫌なんでござるよ!!助けてくださござる!」
「うるせぇバカ野郎!!」

そう叫びながらヤヌアさんの顔を殴る鮫島さん

「助けて助けてってテメェ!人に押し付けてんじゃねぇ!!
 事情や状況はどうにしろ!テメェは愛を告白されてんだよ!!
 その対処を人におしつけんな!お前にとっては迷惑な事でも向こうは人生かかってんだ!!
 テメェ、まさか自分が傷つく勇気もないくせに、人を傷つけようとしてんじゃねぇだろうな?
 振るときだって誠心誠意、心をこめて振れ!」

鮫島さん…でもその会話ハセガワラ君も聞いているはずなんですが…
さっきのヤヌアさんの言葉では返事にならないんだろうか。
するとヤヌアさんが自力で縛られていた手首の紐をちぎる

「ありがとう鮫島…オレが間違っていた…その大会にはオレが出る
 そして正々堂々、結婚をお断りさせていただくよ」

そう決意をしたヤヌアさん、だがきっと彼も周りも忘れていたことだと思うのだが
彼は今たき火の上で宙吊りにされているわけで。
たき火の上に落ちたヤヌアさんはごろごろと悲鳴を上げながら地面を転がる
近くの民家の壁にぶつかり、火もようやく収まったようだ

「残像だ!」

絶対違う。

こうして、ヤヌアさんとの婚約権を賭けて
第476回 全魔界一最強決定トーナメントが開催された
全魔界から72人の自称強豪が参加し激闘のすえ
見事モルトモーメ2世が優勝した
ちなみにハセガワラ君は3回戦でヤヌア・アインに負けた

「あー楽しかったね!トーナメント!いろんな魔法見ることができたし、屋台あったし!
 私は、卵を割らずに黄身だけ外に出す魔法の人応援してたけど、2回戦で負けちゃったよ」
「その人どうやって1回戦勝ったの?それにしても変な魔法多かったね」
「うん。第二世代以降の人の魔法は変なのが多いよ。
 第一世代はおじいちゃんが作ったから常識的なの多いけど、その子供はいろいろ混ざって
 変な魔法になるんだよ、たとえばー
 お父さんが火の魔法、お母さんが土の魔法を使う人だと
 その子供は火+土でトーストをおいしくする魔法って具合だよ」
「なんで火と土でトーストなの?」
「さぁ?」
「まぁ、でもそうなんだふーん……
 ルキは魔界中の魔法全部知ってるの?」
「ううん。さすがにムリだよ」
「それなら…卵の黄身だけを外に出す魔法があるなら――」











どこまでも真っ白い空間にその人たちは居た

「うあぁあいやだよおおお!!!!!!」
「もうあきらめろよ…あと少しでオレもお前も意識すらなくなるんだから…」

1年前のあの日に消えたロスと初代魔王だった
二人しかいなかったその空間に突如人が落下してきた

「うわーいってー!!なにこれ!?こんなに痛いの!?」
「な…ヤヌア?」
「もーなにこの能力…いてー肩はずれてるよ〜
 ん?おおいたいた、勇者と魔王!」
「なんで、お前…」
「なんで?んーなんやろなー」

ゴキンという音と共に自身で肩をはめるヤヌア
その口からはっせられたのはいつものあべこべなござるという語尾ではなく
独特な口調だった

「変装バレちゃったから、オレもニゲルさんのあと追ってみたらさ、いろいろおもろいもん見れて
 どうせやったら勇者と魔王もじっくり見たろ思ってな」
「お前…」

ヤヌアかと思っていた人物はロスにはなじみのない人だった

「ええよええよ、オレは気にせんとつづけてつづけて
 どうせその魔法止められんのでしょ?
 むしろその力、じっくり見せてよ」

そう告げる少年に容赦なく魔法を放ち左腕をブッ飛ばす

「まだ、時間はある」
「ハッ!いちびりが…オレはただ見せていうただけやん?
 けちけちすんなや」









「他のものを抜き取る魔法も、あるんじゃないかな?」






 

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