富も権力も持つ国王が、あとひとつ自分に足りないものを欲しがった

名誉だ

数百年以上、戦争も天変地異もなかった平和な国の王は
人々からお飾りと笑われていた
そこで王は千年前、この世界で脅威をふるった魔王ルキメデスを復活させ
それを討伐させることで「魔王を倒した時代の王」と
歴史に名を残し、王としての威厳を手に入れようとした

しかしその計画は失敗におわった
ぼくはその後始末のため、王直属の勇者として再び旅に出ることになった
王は自らの罪を反省しているとかいっていたが、ぼくがなにか成果をだせば
自分の手柄にするつもりだろう

まぁそんなことはどうでもいいんだ、ぼくは旅を続けられれば…
ぼくの目的はあいつを…ロスを――

ヒメンダムで城まで輸送してもらっていた
相変わらずぼくの定位置は筒の中だ。
すると目的地である城の一部がいきなり爆発した

城に着くと、案の定兵士達がばたばたと忙しそうにあっちへこっちへ走っている

「何があったの!?」
「宝物庫付近で爆発があったんだ…」
「アレスさん!」

一足先にと城内の様子を見に行っていたアレスさんが、脇腹から血を流して戻ってきた
そのけがはどうしたのかと聞くと、科学者エックスだ!と名乗ったばっかりに兵士に不審者として刺されたのだという
自業自得すぎて言葉もでない

そんなアレスさんは別々に城に入っていったヒメちゃんを探すと再び城内に消えて行った
ぼくもルキを探して城内をうろついていると、見慣れたピンク髪は意外と早く見つかった

「ルキ!ルドルフさんとミーちゃんどうしたの!?」
「ニゲルさん…えっと、フォイフォイさんにやられたみたい…」
「え!?フォイフォイさんに!?」

いったい何がどうなっているのだろう
とりあえずルドルフさんの事はルキに任せ、布で拘束されているミーちゃんを助けようと短剣を手に取る

「ちょっ…こらミーちゃん!動いたら手も切っちゃうよ!?」
「傷つけておくれよぉ!!」
「今それどころじゃないの!!!」

このドMネコは本当に仕方がない…
それでも動くミーちゃんを何とか固定して拘束を解くと、ルドルフさんが事のあらましを教えてくれる
今城内で騒がれている爆発騒動も、二人を倒したのもフォイフォイさんなのだという
話を聞いていると、とある人物が脳内をかすめる

「そうだ!そのフォイフォイさんはホントに本人だった!?」
「どういうこと?」
「変身できる魔法ってのをみたことがあるんだ…
 そいつかはわからないけど、同じような魔法で誰かが――」
「いや、あれはフォイフォイくん自身だった…」
「ルドルフさん!」
「左手に包帯が見えた…」
「そうか…最近の怪我までは変身で表現しないか…」
「いや、ケガではないんだ」
「?」

怪我ではないのに包帯を…?いったいどういうことなのだろうか





その後、ルドルフさんとルキ、ぼくとミーちゃんとで別れて消えたフォイフォイさんの行方を捜していると
再び爆発音が聞こえてきた

「何、今の音」
「角の部屋からだ!」
「角の部屋…?」
「ディツェンバー、魔族たちが使ってたって部屋が…」

するとすぐ近くの壁がいきなり破壊され、アレスさんが飛び出してきた

「え?」
「悪いな、二人とも…こっから先にはいかせない」
「アレスさん、なんで!」
「ニゲルさん…落ち着くんだワン…」
「ワン!?」
「焦る気持ちはわか…わかる…でもこういう時こそ冷静が大切…
 いや…ニゲルくんの焦る気持ちも解る!!I think you!」
「ミーちゃんどした?」
「アレスさんが…アレスさんが…!」

おもむろにミーちゃんの視線の先をたどると、アレスさんの足元だった

「アレスさんが珍しくヒールを履いてる!!
 踏んでほしいんだろ?君も!」
「何いってんの!?違うよ!」
「いまの私はヒール-悪役-だからな!」
「あんたも何いってんだ!?
 っアレスさん!とにかくそこをどいてよ…まさかアナタもフォイフォイさんと一緒に?」
「ちがうよ、この奥にヒメちゃんもいるんだ」
「じゃあなおさら助けに行かないと!」
「私も最初はヒメちゃんを助けるつもりでここにきたさ
 でも、助けるわけにはいかなくなった」
「なんで?ヒメちゃんがフォイフォイさんと戦って勝てるわけ…っ!」

いくらヒメちゃんがヒメンダムを操縦できるといっても、相手はあのフォイフォイさんだ
彼の実力なら、この一年手合せしてもらってきたぼくが一番よく知ってる
あの人は本当に強い

「ちがうね、もう勝ち負けなんてどうでもいいんだ
 ヒメちゃんは今戦ってんじゃない、失恋してんのさ
 だから邪魔させるわけにはいかないんだ」
「失、恋?」

するとまたもや爆発音が城内に響き渡り、地面を揺らす

「…よし、これはアレだな…ニゲルくん!」
「え、はい?」
「明日の早朝から ヒメちゃん失恋に負けずにガンバレサッカー大会 をやるから
 城内の人間に庭に集合だと伝えてくれないか!」
「あ、はい…え?ちょっとまってそれってどういう…」
「じゃあ私は準備があるからこれで!!!」

軽い挨拶と共に自身が崩した壁からどこかへとさっていくアレスさんを見守ることしかできませんでした

(それって…ただ傷をえぐるだけじゃ…)
(アレスさんなりに励まそうとしてるんだよ…たぶん)

そう、なのだろうか…





アレスさんの言いつけ通り、城内の人々に触れ回って次の日。
サッカーボールに片足をのせながらアレスさんが高々に宣言する

「第一回!チキチキ!ヒメちゃん失恋に負けずにガンバレサッカー大会ー!!」
「「「「「「「「「「「イエーイ!」」」」」」」」」」」
「何してんだぁぁぁああああああ!!!!!!!」

ピンクのパジャマ姿でヒメちゃんが飛び出してきた
猛スピードでアレスさんのもとへと近づいていく
するとアレスさんは左手に拳をつくり頭上に掲げた

「みんな!主役の登場だ!!」

その発言に集まっていた兵士たちもノリよくいえーい!と言っている
ヒメさま元気だしてー
だの
新しい恋みつけよー
だの聞こえてくる

「やめろ!やめろぉおお!!!!!!」

あまりに不憫だ
一年前に慰めてもらったこともあり、ヒメちゃんに近づきぽんっと肩を叩く

「ヒメちゃん、みんなヒメちゃんに元気になってもらおうとしてるんだよ」
「ニゲルさん…うん、それはわかってるんだけど…」
「それにフォイフォイさんにだっていろいろ事情があったのかも、ね?」
「ニゲルさん…!」
「そんなヒメちゃんの恋の相手、フォイフォイですが…写真が無かったので
 ヒメちゃんが描いたイラストをパネルにしました」
「うああああああああああああああ!!!!!!!!」
「アレスさんんんんん!?」
「それに今ヒメちゃん慰めてるニゲルさんはなんだかんだと両想いだったしねー
 ヒメちゃんだけ振られちゃったもんねー」
「い、今はぼくのことはいいじゃないですか!!」

なぜかこちらに飛び火した矛先に対処しているぼくの背後でヒメちゃんが舌を噛み切りそうになっていた

「ヒメちゃんまって!早まらないで!!!!!!」
「というわけでお前らー!ヒメちゃんのために盛り上げようぜー!!」
「ヒメちゃん死にそうだよ!?」
「サッカーか、腕…いや足がなるでござるな」

そういって現れたのは魔界に戻ったはずのヤヌアさんだった

「ヤヌアさんサッカー得意っていうから来てもらった!」
「いやいや!魔族がこっちきたら世界異変おきるんじゃ!?」
「少しくらい大丈夫だよー」
「そうでやんすよー」
「すでにミーちゃんおかしい!!」

ルキより小さいはずのミーちゃんが憧れの八頭身になっている。
正直に言おう、気持ち悪い





「よーしじゃあチーム分けするか、なるべく均等にしないとな…
 えっと、お前得意なんだっけ?」

アレスさんがヤヌアさんに声をかけると得意そうにボールを操りだすヤヌアさん

「なに!?地面に置いた状態からつま先でボールを上げてリフティングだと!?
 はは…まさかそこまでの実力者とは…
 しかし、これはどうかな?」

ヤヌアさんの実力に驚いていたアレスさんだったか、ヤヌアさんからボールを奪う

「ばかな!サッカー得意な奴がよくやる足でボールはさんで上にあげるやつだと!?」
「名称わからないんですか」
「なかなかやるでござるな…」
「ふふふ…オフサイドの意味も理解してるぞ」
「これは面白い試合になりそうでござるな!」
「受けて立つぜ!」

こうしてヒメちゃんを元気づけようサッカー大会は幕を開けた
ぼくたちはこんなことをしていていいのだろうか…

白熱した試合のさなか、兵士が蹴ったボールが大きく場外へと出てしまった
それをとりにルキが茂みに入っていき試合は一時中断

その間にぼくはというと、ヤヌアさん相手に適当に…というわけではないが
状況と作戦を地面に木の棒で描きながら説明する


1、逃げたディツェンバーの仲間はまだ魔王復活をたくらんでいるようなので、あえて魔王を復活させる

2、するとロスも復活する

3、そこに颯爽とぼくが登場し魔族と魔王を倒す。

「ふぅー!ハッピーエンド!ふぅ!ふぅーっ!」





「か、完璧な計画でござる…」
「どこがだよ
 自分で考えといてなんだけど、魔族や魔王にどうやって勝てばいいのか…」

そういうとヤヌアさんは拳を作り意気揚揚と

「大丈夫!当たって砕けろでござるよ!」

という。砕けたらダメだよ!

「砕けたときは世界の終わりだよ
 世界の事を考えるなら…再び魔王を復活させる前に残りの魔族を倒してしまうのが一番だけど…
 ぼくは…もう一度あいつに…」
「罵ってほしいんでごわすね」
「違う!ミーちゃんいきなり入ってくるのやめて!」

唐突なドMの介入に思わず突っ込んでしまった。

「魔王を復活させた時に、ロスさんに魔王を倒してもらうってのは無理なんでござりまするか?」
「わかんないんだけど、何かロスは魔王を倒せない理由があるらしいの」
「理由?」
「たしかそんな話をしているのを聞いた…
 その理由がわかれば何か対策もできるかと思って、千年前の出来事について調べてみたんだけど
 この一年収穫なしだよ…ロスの生まれ故郷とかなら何か手がかりがあるかとも思ったけど
 その情報すらなかったよ」
「ロスさんの故郷?それなら魔界にあるでござるよ」

あっけらかんとした口調でヤヌアさん言う
ま、かい?

「初代魔王が何かの実験の為に魔界に人間の村1つもってきて
 材料として使ったと聞いたことがあるでござる…ますよ」
「それがロスの村…」
「そうです、クレアシオンはその復讐のため、魔王討伐にいったという話もあります
 しかしこの話…魔界だと有名なのでルキさんも知ってるはず…」

ルキが知ってる?でもこの一年そんな話は一度も…
今一度今までの事を振り返っていると少年の叫び声が聞こえてきた
なんだなんだ!と思いそちらを振り返ると、見覚えのある青年が一人

「おぅヤヌア」
「あれ?鮫島?何してるのこんなとこで?あれ誰?」
「ん?ああ…まぁ一言でいえば、オレの出番だったんだよ」ドーン
「そっかーなるほどなー」

何がなんだろうか。この人は相変わらず訳が分からない
そういえば鮫島さんがでてきた茂みにルキが居たんじゃ…と思い草をかき分けて見慣れたピンクの髪を発見した

「ルキ!大丈夫?何があったの?」

理由も言わずに泣いているルキの頭をなでようと手を伸ばすとそれに気づいたのかルキの方から抱き着いてきた

「ルキ…?」
「ノイン・ゼプテンバー…あいつが…あいつが…っ」

するといきなり感じたことのない威圧感を感じて悪寒が走る
ヤヌアさんたちの方を見ると、見たこともない相手と交戦していた
いつの間にか回復していた、先ほど悲鳴を上げていた少年と
黒い服、色白い肌に尖った耳、逆立った髪とこめかみから角が生えた男性

「鮫島!」
「さぁいくぜ…僕の魔法、マリオネット・ドール」

「あいつが…パパを、殺した…っ」
「パパ…?じゃああれが…2代目ルキメデス?」
「ハハッ!そうさ2代目ルキメデス本人さ!!どうだ三代目!!
 感動の再会、だろ?」





 

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