会いたい

 

「あれ?アナタ写真で見たことありますよ、クレアシオンさんじゃないですか?」

まだ安全ピンで服を止めていたルキが、ロスにそう言葉を投げかける

「チッ…顔知ってるって事は本当にアイツの孫か…」
「なんでこんなトコにいるんですか?」
「知らねーよ、オレが聞きたいくらいだ
 気づいたらこの世界に戻ってたんだよ…状況探りに城に行ってみたら
 オレの子孫ってのがウジャウジャいやがるし
 とりあえずその中に紛れて旅してるわけだが…」
「さっき連行されていったのも子孫さんですか?」
「いやあの人は…」
「子孫だったら酷ですねぇ」
「あ…?」
「だって、好きなんでしょ?さっきの人のこと。顔とか態度見てたらだいたいわかります」











「ははっ!なんです?いい顔に戻りましたね!
 死なないと思ってました?ギャグマンガの世界にでもいたつもりですか?」

先ほどの事態を受けいられていないのか、呆然と岩に背中を預けているロス
そんな彼に迷わず少年、ユーリが巨大化した腕を振り落すが、間一髪のところで走りこんできたフォイフォイによって
それはかなわず岩だけを砕いた

「なに呆然しくさってんだよ、お前も死ぬ気分か?これだから戦争を知らない国の兵士さんは…
 お前はそこで夢気分してろ」

そういうとつかんでいたロスの襟首を手放す

「後はオレがやっといてやるよ
 オレの……残忍な刃-グラオザームクリンゲ-でな…」

そういいながら右腕を構えるフォイフォイだが
彼の装備は前に対峙したときに壊れているのだが、ここにきてそれに気づいたらしい
すると呆然としていたロスの左腕に付いていた機械が壊れる音がした
その衝撃で恐竜と化したユーリは倒され、フォイフォイも軽く尻もちをつく

帰ろうとしていたディツェンバーも何かを感じ取ったのかこちらを振り向き、ルキが思わず声を出す

「……あれ?」

全員の視線の先で、先ほどディツェンバーの影によって切断されたはずのニゲルが何事もなかったかのように起き上がっていた
それを確認した奴は口元をゆがめる

「使ったな!力を使ったなクレアシオン!」
「?」
「クレアシオン?」

途中から合流していきさつを知らない面々の頭上にはてなが現れる

「どうやら予想通り、貴方の魔法は時間操作みたいですね!」
「あれ?ぼく……?」

感覚は無かったものの、数俊前と同じ状態の自分の体を思わずさする

「ニゲルさん!」
「なッ!?確かに真っ二つに…?」

ルキが駆け寄ってくる、その後ろではルドルフさんが何が起こったかわからないという顔をしていた

「クレアシオン…?クレアシオンってお前…」
「そうさ!そいつこそが伝説の勇者クレアシオンなのさ!!
 そしてそいつが力を使ったということは・・・つまり魔王様の復活を意味する!!」

駆け寄ってきたルキに手を伸ばすと、衝撃の事実が黒幕の口から紡がれていた

「戦士が…アナタが…クレアシオン…?」

伝説の勇者、クレアシオン、つまりぼくは戦士の子孫として旅にでたっていうことで
頭を鈍器で殴られた感覚がする
つまり、あの人には、彼には、そうなった相手がすでにいたわけで
1000年前だからすでに生きてはいないだろうが、戦士の、ロスの

「勇者さん」

いつの間にか近くに来ていたようで、戦士の声が鼓膜に響く

「なんて顔してるんですか、襲いますよ」
「襲…そんなこというなよ!お前、その、奥さんとか…」
「いません、子供もいません。家族なんて、家庭なんて…作る余裕なんて…」

作る気なんて、そう近くにいるぼくに聞こえるかわからないぐらいの音量でつぶやく
顔を上げると同じタイミングで戦士が首元のスカーフと取りながら後ろを向く

「使いたくなかったんだがな…使っちまったもんはしょうがない
 さっさとお前倒して魔王封印するか」
「何を言ってるんですクレアシオン!!死ぬのはアナタの方ですよ!!
 あなたはもう!用済みなんですよ!」

こちらを攻撃してこようとしたディツェンバーの顔面に、戦士の魔法が直撃する。
その衝撃ではるか後方になった岩に叩きつけられていた

「バカな…この私が…まったく対応できないだと…」
(なんか目覚めたら戦士が勇者だとか言うし…
 黒幕が説明キャラになってる…!)

子供も、奥さんもいないのだというし…
戦士が伝説の勇者というだけで落ち込んでしまった気分がそれによって一気に上昇した
我ながら単純だなと思う。

「あ、クセでギリギリ死なない攻撃しちゃった」

戦士のその台詞に思わず背筋が凍る。
く、クセって…!

「それに、なんだ今の魔法…お前の魔法は時間をあやつる魔法ではないのか?
 そしてなぜ世界に何の影響もない?」
「お?なんだディツェンバー…いい顔だなぁ?」
(で、伝説の…勇者?)

いつものように他人を見下した笑みはどう見ても勇者には見えない。

「オレの魔法が時間操作なんて誰が言った?
 オレの魔法はなぁ――なんでもあり、なんだよ
 攻撃魔法をうった後、世界の影響を消す魔法を使うこともできるし…
 指パッチんでお前をアフロにもできる」

有言実行と言わんばかりにディツェンバーの頭部が見事なアフロになった
しばらくなにか考えていたようだが
何かをひらめいたのか意気揚々と

「そうか!魔王様か!そんなにアナタが恐れるほどの存在なのだな、初代魔王ルキメデス様は!」
(なんかホントあの人テンション高い…)
「魔王?あぁ――――こいつね」

また指パッチんでみたこともない人が戦士の隣に現れた。
銀色に黒メッシュ…?の髪に頭部にはルキと同じ羽根
服はエメラルドグリーン、なのだろうか、あまり目によくない配色の服を着ていた
いきなり呼び出され現状を把握できてないその人、話の流れからして初代魔王、ルキメデスだろう
隣に居る戦士を視界にとらえると明らかにうろたえた
戦士が魔王の方へ手をさしだし、おそらく魔法だろう、それによって攻撃を受けた魔王は大げさともとれるぐらいの悲鳴を上げている

「ギャー!痛い!痛いよ!!やめてえええええ!!!!!!」
「な……魔王、様…?」
「さて黒幕のお前をやっつけて、このバカをもう一回封印すればハッピーエンドだな」
「私の力も…魔王様の存在も…魔法を使う影響も……お前にはなにも怖くなかったのか?
 じゃあなぜ…お前は…」
「そうだな、最初から迷う権利なんてなかったんだ」

ディツェンバーの怒りに触れたのか、再び影で攻撃しようとするが、戦士の魔法によってそれもさえぎられる

「もう終わりだよ、お前の計画も、オレの…」
「うわああああああオレも殺されるんだあああ!!!もうおしまいだぁあ!!!!!」
「うるさいなぁ」

いきなり絶望を叫びだしたかと思うと、何もない空中を指さす魔王。
いまどきそんな簡単な陽動に引っかかる人なんていないと思うが…
根がやさしい戦士は素直にそれに引っかかる

「バカめ!!かかったな!未来予言-ウィライユヤン-!」

技名叫ぶの好きなんだな魔族…
左手を顔の高さまで持っていき、ピースしている指の間からこちらを覗いている。
予言、つまりこちらの行動が読めるのだろうか、どうしたらと思っていると
なんてことなさげに戦士は魔王の顔にグーパンを入れる

「お前ホント能力使うの下手だな」

まるで駄々をこねる子供の用に地面に転がりじたばたしている魔王。踏んでやろうかこいつ…とすら思う

「いやだー!殺されたくないー!!
 あ!そうだ!そうだった!!」

何かを思い出したのか喜々として上半身を起こし戦士を見る魔王

「そういえばお前、オレのこと殺せないんだったな!
 ハハハハ!いつまでもあんな過去にしがみついて!だからお前は所詮人間なんだよ!!」

高笑いいている魔王の頭をつかんだかと思うとドスの聞いた声で脅しだした
ぼくの戦士がただの悪者なんだがどうしたら…

「殺さなくても封印できんだよ」
「そうだった!うわあああああああああゆるしてぇええええええ!!!!!!!!!!!」
「戦っ……クレアシオン、さん」

思い切ってそんな戦士に声をかける
倒せない、とはいったいどういうことなのだろうかそれに

「封印ってそれじゃ…おま…アナタ、も」
「なんです?オレがいないと夜1人でトイレにいけませんか?」
「いけるよ!?っその、まだ12人の魔族も封印しないといけないし…」
「そんなもんやっといてくださいよ、勇者さんが」
「そんな!ぼくは勇者なんかじゃ…アナタの子孫じゃないんでしょう!?
 勇者の血もついでない!」
「ついでたら困りますよ…」
「え?」
「そんなんだからトイレマンってあだ名付けられるんですよ」
「つけられてませんけどぉ!?」
「誰かの何かじゃなきゃ、何にもなれないんですか?
 自分で勝手に勇者になってくださいよ、大丈夫できますって」

なんでそんな他人事みたいに…いや戦士からしてみたら他人事なのかもしれないけど
1000年前、己の体ごと魔王を封印したクレアシオン
それぐらいぼくだって知ってる話だ、つまり戦士はまた魔王と共に1000年近く眠り続けるということだろうか

「勇者さん、オレ…いつもからかってましたが、貴方の事好きでしたよ本気で」
「…へ?」
「だからどうか、幸せになってください」
「っ!待って、戦士!!」

消えそうになっている戦士に腕を伸ばすが、彼に触ることはかなわず、手元に残ったのは彼がいつも愛用していた赤いスカーフだけだった

「なんで、なんで今そんなウソ言うんだよ…戦士」
「ニゲルさん…」

そのまま膝から地面に崩れ落ちた
ぼくたちのやり取りを見守ってきたヒメちゃんが、そっとそばに腰を下ろしたかと思うと抱きしめられた

「我慢しなくても大丈夫ですよ、泣きたい時は泣いていいんですよ?」
「ヒメ、ちゃん…っ」

優しくて暖かくて、思わずすべてを吐き出してしまいそうな彼女の雰囲気に涙腺が崩壊した
年甲斐もなくヒメちゃんに泣きついているとフォイフォイさんが現状を整理しようとしだした

「どうなんだこれ?親玉倒して…魔王封印したぞ…
 ハッピーちゃんちゃんか?真の勇者の称号と莫大な富はどうなる?」
「今そんなこと…!」
「オレにとっては一番大事なんだよ!ぶん殴りまわすっぞ!」
「え?…いいの?」
「メンドれぇええ!!」

ミーちゃんはいつでもドMでした

「たぶん、賞金はもらえないと思うよ…あのオッサンがほしかったのは平和じゃなくて名誉だから
 人知れず魔王を封印したって、国民は尊敬してくれないからね」

ヒメちゃんの鎧に凭れながらアレスがそう告げる

「しかしとなると今回の企画は終了か…魔王はもう復活しないし
 残りの12人を倒したって金にならんしな…」






「魔王は、ぼくが復活させるよ」

そのぼくの言葉に、慰めてくれていたヒメちゃんが驚く
少し遠くで尻もちをついていたフォイフォイさんもそれは同じなようで――

「なに言ってんだ?せっかく平和になりくさったのに」
「平和になんて、なってないよ…これじゃあ…」
「その通りだ!少年よ!」
「!」

いきなりぼくたちの会話を割って陽気な声が響く
そちらを見ると、王様が走ってきていた、配下もつけずに

「この世界はまだ平和になんかなっていない!魔王はまだ生きている!封印されただけだ!」
「王様…!?」
「またいつ復活するかもしれない!その可能性に人々は恐怖しなければならない!
 それを平和と呼べるか!?否!!いくのじゃ少年!平和のために!世界を救うために!!
 さすればお前に勇者の称号と莫大な富を与えよう!!」
「そんなこと、どうでもいいです」

姫ちゃんから離れて王様を睨みつける。不敬罪だとか言われようとも関係ない
別に少年少年連呼されて怒ってるわけでもないけど…

「魔王とか勇者とか、称号とか富とか、そんなもの関係ない
 世界を救いに行くんじゃない、彼を…友達、を迎えに行くだけ」

魔王を封印して、戦士も、また何百年も何千年も誰もいない空間に閉じ込められるということ

「世界は平和になってなってない、彼が、苦しそうだった、辛そうだった、それに――」

アルバの言うように、みんなの言うように、もっと早く素直になっておくべきだったんだ
いまのぼくにはもうそれ以外なんて考えられないくらい、彼でいっぱいなのに

「もう一度あって、ちゃんと伝えたい…」
「ニゲルさん…」
「簡単に言うけどな、そんな方法あるのかすらわからねーだろ、本気か?」

フォイフォイさんの言うことはもっともだ、ぼくが生きてるうちに見つからないかもしれない
それに、彼だってそれを望んでるとは限らないのだから、完全に僕の自己満足だ

「本気だよ、どんなに時間がかかっても…会いたいから」
「私も!手伝うよ、ニゲルさん!」
「ルキ…」
「またロスさんにあって、一緒に殴ろうね!」
「なんで!?」






1章完結

 

[ 14/24 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



 
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -