死別

 

褐色の少年、エルフの助けで無事に牢屋から脱出できたぼくは
運よく自分の私服を発見し、それに着替えて街をうろつく

街の外ではぐれた面々と合流したいがどこにいるのか見当もつかなかったのだが…

(…前方に言い争ってる見覚えのある人が)
(ヒメちゃんにアレスさんだね…)

二人の間に割り込み、とりあえず口論をやめさせようとしたのだが
服がわかっているせいで誰だか気づいてもらえない










「千年前…ルキメデス様は勇者クレアシオンにより封印された
 勇者の力で次元の狭間に結界を作り、永眠の魔法をかけ
 そして自身の姿を剣に変え、ルキメデス様の胸に突き刺しているという
 もしいつの時代かルキメデス様が復活した時、自分自身も一緒に復活するようにと…」

荒野の真ん中で、牢屋で消えた5人と見知らぬ青年が一人の少年と対峙している
白いシャツに黒のコートに金髪の
急になんだとヤヌアが問うと、その言葉を待っていたのかのように説明を続ける

「魔王様の復活のためにディツェンバーは12人の魔族をこっちの世界に呼んだ
 たとえばヤヌア、お前なら次元の狭間に行く交通手段として
 ツヴァイは逆らうヤツを洗脳するために」










「私はここに残ります!」

一方タートルではルドルフが街に残るのだと言い出していた

「はぁ?何言ってんだよ
 王宮兵士だろアンタ。いま国がブッ侵略されてんだぞ?
 国を守る仕事なんじゃないのかよ?」

フォイフォイが尋ねると悔しそうにうめくルドルフ
だったのだが

「しかし…!しかし……!!
 明後日この街の幼稚園で運動会があるんですよ!!」

フォイフォイの右ストレートがルドルフの左頬に綺麗に決まる

「そういうのは世界が平和になりくさってからな。ほらヒメさんと合流すっぞ」
「ちくしょー!!ディツェンバー!許さん!絶対に許さんぞぉぉおおおおお!!!!!」
「さて…でアイツらはどこにいる――」

ヒメとアレスを探そうと歩き出したフォイフォイの目の前の建物から
もうスピードでカーブを曲がって現れたのは今ちょうど探そうとしていた人たちだった
比較的近くにいたフォイフォイは見事に轢かれる
そんな彼の後ろにいたルドルフはちゃっかりよけている

弧を描いて飛んでいくフォイフォイに向い、釣り針のような針が付いた紐を投げるアレス
上手い事彼のフードに引っかかり、そのままもうスピードで引きずられる。

「え!?おい!止まれよ!!」

大事故である

「今なにかにぶつかりませんでした?視界悪くて前が見えないんですけど」
「大丈夫大丈夫。じいさんとフォイフォイ君と合流しただけだから」

機体として前方、しかも鎧の微かな隙間からしか見えないヒメちゃんの問いに
なんてことはないと答えるアレス
その後方ではフードを引っ張られながら必死に走るフォイフォイがいた

「お…おい…まてテメェ…」
「うわっ!すごい走ってる!キモイ!!」
「ブッ殺がすぞ!!」
「ごめんねー。設計ミスって席足りないんだよ、そこで我慢してね」
「予定通りの定位置かよここがオレの!!」
「よーし!このまま城まで突っ走るわよー!」

とんだカオス。
ぼくはというと、機体となっているヒメちゃん。
その上にアレスさん。その横にルドルフさんがおり、そのルドルフさんの頭上にある筒の中に居る。
フォイフォイさんみたいに走るよりはいいのだろうか…





しばらく城に向かって走っていると地面から微かな衝撃が伝わる

「いま地震ありませんでした?」

そう問うヒメちゃんにルドルフさんが聞き返す

「そうですか?」
「うん…地面がスライドした感じがした…」
「フォイフォイく〜ん。揺れました〜?」

自分たちはヒメちゃんに乗っているので、自力で走っているフォイフォイにいけんを仰ごうと背後を向くルドルフ

「いや、特に感じなかったな」
「そうですか」
「うん。というか何も感じなくなっているんだが…」

(フォイフォイさんが幽体離脱してる…)
(え!?だ、大丈夫なの!?)

筒に入っているせいで前方した見えないのになぜか後ろの様子がわかるらしいアルバがフォイフォイさんの状況を教えてくれているが
へんに彼に気遣って走らされるのもごめんだ…

「揺れたかはわからないが…なんだか凄く嫌な感じがした…」
「嫌な感じ?」
「もしかしたらこれはアレかもしれない…
 世界に影響を出すほどの魔力ってヤツ……」
「誰かが魔法を使ったってことですか?」
「わからん。とにかく急ぐぞ

 ヒメちゃん号ブーストスイッチ!!」

そういいながらアレスさんはヒメちゃんの後頭部を開けると、そこには赤いボタンが設置されていた
オンッ!
という以下越えと共にスイッチを押したのだが
なぜかぼくが筒から発射される羽目になった

「あ。間違えた」

間違って押されたスイッチによって一直線にどこかに向かって飛んでいくぼく
……これ、着地大丈夫なのかな…

しばらく飛んでいると、前方に緑の恐竜みたいな生物が見えた
まさかあれに突っ込む!?
と思っているとただ飛んでいるだけなので回避なんてできず
勢いよくぶつかった

生物ごと倒れ、あたりに土煙が広がる

「ぐわー!嘘でしょあの人!!撃ったよ!本当痛い死んじゃうとこだった!!
 もー…どこなのここ…城の近くかなぁ…」

徐々に土煙もはれていき、あたりを見回すと懐かしい彼の姿を見つけ、思わず頬が緩む

「戦士、久しぶり」

驚きすぎて声が出ないのか、今までの彼からは想像もつかない顔をしている。
そんな戦士をまじまじと見ていると、背後から少年が飛び上がりこちらに巨大化した手を振り下ろす

「なんだよお前はぁ!?邪魔、すんな!!!」

突然の背後からの攻撃に振り向くことしかできずにいると
学ランを着た赤髪の青年が少年の巨大な緑の腕とぼくの間にいつの間にかあらわれていた
というかこの少年はなんなのだろうか…恐竜みたいな生き物の正体…?
攻撃を防がれるとは思っていなかったのか、少年が驚きの声を上げる

「ツリ目君…回復有難う、だいぶ楽になったよ」

ツリ目、とは戦士のことだろうか。何があったかは想像もつかないが
ずっとこの少年と戦っていたようだ

「オレの一撃を受けて無傷だとっ!?
 なんなんだよお前!服に防御呪文でも仕込んでるのか!?」
「なんも歯根じゃいねーよ…けどな

 オレは背中に、どんな鎧よりもかてぇもん背負ってんだよ」

「しまったぁぁぁあああああなるほどぉおおおお!!!!」
「いや!理由になってないよ!」

衝撃的な展開の往来に思わずつっこんでしまった
すると学ランの青年が燃え尽きたように真っ白になってまでショックを受けている

「ほ……ホントだ…理由になってな…い……」

挙句に膝から崩れ落ちてしまった
え…ぼ、ぼくのせい、なのかな…

「……勇者、さん?」
「反応おせぇ!!え?気づいてなかったの!?」
「…すいません、普段と服が違うのでわかりませんでした」
「こっちが普段着だよ!」

数日前と変わらぬ態度にホッとする。
暴言を吐かれる前に戦士が笑ったような気がしたが、気のせいだろうか…
気のせいだろうな…だからとりあえず心臓落ち着け…!

「ほら、戦士の服とか装備も持ってきたよ」

何処に持っていたのかは聞かないでもらいたい装備を彼の前に差し出す

嫌なオーラに惹かれるように背後を振り返るとまたもや新顔が居た

「しかし何なのこの状況?あいつら何?めっちゃ睨んでるよ」
「まったく…楽しい雰囲気だったのに台無しですよ
 もう少し楽しもうと思ってましたが…これはもう…」
「!あ…ディツェンバー…」

金髪の少年がなんかこう…全体的に黒い人に声をかける
ディツェンバー、つまり彼が今回の騒動の黒幕…

すると遅れてやってきたヒメちゃん号?がフォイフォイさんのときのようにキレイにディツェンバーを轢いた

「あれ?また何かにぶつかりました?」
「ヒメちゃん止まれ止まれ、着いた着いた」

ガンガンとヒメちゃんの後頭部を殴り支持を出すアレスさん
あれでよくここまで来れたな…
そういえばぼくも一直線でここに飛んできたことを思い出した

すでに霊魂となっているフォイフォイさんが声をかけてくる

「よぉ、無事そうだな」
「アナタはそれ無事なの?もう手遅れなの?」

轢かれた衝撃で地面に転がっていたディツェンバーが起き上がる

「次から次にと…お前らは……!
 計画がめちゃくちゃですよ…」

いつもの機会を装備した戦士が左肩のモーターを噴かす

「そうガッカリすんなよ、ディツェンバー
 勇者の力が見たかったんだろ?じゃあいいじゃねぇか
 見せてやるよ、新しい時代の――勇者の力を、な」
「生きた目しやがって…」






「……で、えっと…結局何?あいつは敵なの?」
「黒幕ですよ。勇者さんはあいつのせいで賞金かけられたりして
 すくすくと立派な犯罪者に…」
「え、それは違うような気がするんだけど…?」
「あぁ、そうでしたね、幼女の衣服を剥いだのは自己責任でしたね」
「ごめんなさいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」

ディツェンバーに負けず劣らずな黒い影を背負った戦士に忘れたい過去を告げられる
そして幼女という単語に反応したルドルフさんがつっかかってきた

「え?幼女の衣服?」
「なんでもないです、落ち着いてください…!」
「最初に会ったとき私の服を剥いだんだよ」

三代目ルキメデスさんが爆弾を投下なさった

「ニゲルー!!」
「うわぁ!怒りで羽根が生えてる!!」
「待てよ!今は争ってる場合じゃないだろ!」
「フォイフォイさん天使になってる!?こっちも違う感じで羽根が!」

背後で金属が崩れる音がしたので振り返ると
ヒメちゃんが変形に失敗していた

「あ」
「そっちはそっちで何してんの!?」

身内のボケを突っ込んでいるとそれにキレたディツェンバーが影を使った攻撃を仕掛けてきた

「お前らふざけてるんですかああああ!!!!!!
 何なんですかアナタたちは…私の計画を邪魔しに来たのか
 お遊戯会を見せに来たのか…

 お前もあんな啖呵きっておいてなんて様ですか!」

そう告げる先には先ほどの攻撃で転がり、岩にぶつかった戦士が居た

「しまった…お遊戯会が滑稽すぎて見とれてしまった…」
「誰がお遊戯会だ!」


するとしびれを切らしたのか、ディツェンバーの周りの影が一斉に立体化する

「もういい…全員消えてください…これが私の魔法…
 ドゥンケルハイト!」
「影が武器に!?」

技名だろうか、それを叫ぶと影がいろんな刃物の形になっていく
切り刻む
そう宣言したディツェンバーだったが、影から別の声が聞こえてきた
黒い事をいいことに、彼の影に入り込んでいたのは、ツヴァイの左肩に居た黒い球体だった

「私がただ腰を痛めて動かないだけだと思ってたほがか…?あまあまほがよ!」
「残念だったなぁあああディツェンバー!!貴様は実はすでに!
 我々の策に嵌まっていたのだぁああ!!」
「早く攻撃してー!!」

いつまでもだらだらと攻撃もせずに話しているツヴァイに思わず突っ込みを入れてしまった
すると案の定ディツェンバーの影に攻撃されてしまった

「まったく洗脳が役目のお前たちが洗脳されてどうする…」

そうつぶやいたかと思うと、こちらには聞こえない音量でいまだに何かぶつぶつとつぶやいている
何やらこちらを睨まれている気がしなくもないのだが…
嫌な予感がし、戦士のそばに行こうとすると、腹部に違和感を感じる
何かに切断されたような、下半身の感覚がなくなった気がした

あぁ、やられたのか…

頭では自分でも驚くぐらいに今の状況を把握している
そうかぼく、死んじゃったの、か

「こんな事で腹を立ててしまうとは…私もまだまだだな」
「あーあもったいない」
「ユーリ君、残り殺っといてください、私は帰って休みます」

何事もなかったかのように業務連絡を済ませて帰ろうとするディツェンバー
戦士やルキ達の視線に気づいたのか、再びこちらを振り返る

「何をみなさんそんなに驚いているのです?
 さっきのは普通の人間でしょう?そりゃまともに魔法くらえば死にますよ
 それともまさか、本当にお遊戯会でもしてたつもりですか?」




 

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