自称変装名人

 

「ほらほらー認めた方が楽だよ?」
「認めるも何もそんな事実ありませんって…」

女性、アレスさんはいまだにぼくと戦士の仲を疑ってくる
だってお城で初めて会って間もないのに、そんな関係になるわけ…

「お、あれがタートルか」
「なんだ、もう着いたのか…つまらん」

つまらんってなんなんだろうか、鎧を乗せた台車を押しながら走りだすアレスさん

「それー!機械都市タートル突撃だー!!」

都市への入り口を目視できる距離までくると、思わず立ち止まる
入り口に見張りの兵が2人いる
城から配属されている兵だとヒメちゃんの素性がばれかねない事態だ

「よし、陽動作戦だ」

そういうが早いか、パーカーのポケットに手を突っ込んでいるフォイフォイさんのお腹に勢いよくナイフを突き刺す
刺さった位置からは当たり前だが赤い鮮血が吹出す
そして何事もなかったかのように差したナイフをぼくに渡すアレスさん

「え?…え!?」

残りの三人、台車を押すアレスさんとヒメちゃん、ルドルフさんは門番のところに走り
人殺しだ!!と騒ぎ立てながら街へと入っていく

「何!?人殺し!?こらー!そこの…!」

アレスさんの捨て台詞を聞いてこちらへとかけてくる兵士だったが、何かに気づいたらしく
手に持っていた槍をこちらに向けて構えてくる

「お前!まさか指名手配の…?」
「え……あっ!!」

そしてぼくとフォイフォイさんは脱兎のごとく走りだした。





兵士から逃げていると、ふと誰かに呼ばれたような感覚がして振り返る

「Doした?」
「珍しく誰かに求められた気が…」
「ふーん…もうこの辺でいいか
 血のり袋使った演技で、ちょっと怒られる程度の陽動するつもりが
 そういえばテメェーがマジ指名手配犯だったせいでマジ逃げするはめになったじゃねーか」
「ご、ごめんなさい…」
「まー理由も理由だから仕方ねーけど…あれ?
 そうか、なんとなく一緒に逃げてたけど、オレは逃げなくてもよかったのか別に」

逃げて損した…
と言いながらタートルに入るべく踵を返すフォイフォイさん
ぼくはどうしたらいいの!?
と聞くと

「お前はイイんじゃね?捕まれば。好きなんだろ?牢屋」

と当たり前のように帰ってきた
好きじゃないよ!!よくいるけど好きじゃないんだよ!!!

「あ、それとだな、口うるさく言うのはあんまり趣味じゃないんだが…」

渋りながらそう言われるとすごく気になるのだが
変に口を挟んでもやもやしたままで置いて行かれるよりはいいかと言いずらそうにしているフォイフォイさんの台詞を待つ

「何をそんな意固地になってんだ?お前は」
「意固地…?」
「お前の戦士の事だ」

ま た そ れ か !
その気持ちが顔に出ていたのかわからないが、苦笑される
あぁ、戦士もこれぐらい優しかったらいいのに

「本人たちの問題だから周りがあれこれ言うのは筋違いだけどな」
「…みんな、同じこと言うよね」

アルバも、アレスさんもヒメちゃんも、ぼくは彼に特別な想いなんて抱いてないのに
そう思っていると軽く頭を叩かれる

「口ではどうとでもいえるからな、お前今すごい顔してたぞ、自覚ないだろ」
「すごい顔って何」
「それは…まぁすごい顔だ」

どうせ街には入れないんだから、一人でゆっくり考えろ
そういいながら今度こそフォイフォイさんはタートルへと向かっていく
街から数キロ離れた位置で一人置き去りにされてしまい、手ごろにある岩に腰掛ける

「口ではどうとでも…か」

確かにそうなのかもしれない
口でも態度でもどうにもなるのに、心臓だけがすごく正直だ
だって、あいつのことを思うだけですごく幸せなんだ
会いたくて声が聴きたくて仕方ないんだ

(変なの、なんであんな…)
「あー暇だなー、みんな早く戻ってこないかなー」

この気持ちを消したくて、だれもいないのに独り言をつぶやく
すると街の方角から先ほどまで聞いていた声が聞こえた

「ニゲルくーんやっぱ戻ったよー」
「フォイフォイ…さん?」

声のトーンが違う気がしたが、何かいい事でもあったのだろうかと振り返ると

「せやでー」

黄色い髪、鼻の傷は確かにフォイフォイさんに近い。
…のだが首かどうかもわからない肩がどこにあるのかもわからないくびれがある全裸の謎の生き物がそこにいた
こちらに突進してきたかと思うと急に立ち止まりだらりと腕を下す

(なんで…全裸…いや、肌色タイツ…?)

いぶかしげに見ていると、自身の左頬に手を持っていったかと思うと
紙でも破るかのような音が聞こえると共に
フォイフォイさん…?から褐色の少年が現れた

「あっぱれや、オレの負けや」
「え…あ…うん…」
「しかし諦めんで!いつか必ず捕まえて見せる!
 それまで一時休戦としようや!握手!!」
「え、うん……?」

何がなんやらわからないうちに握手を求められたので彼の手?を握ると
カチッという音と共に何かが刻まれる音がかすかに聞こえる

「バカめ!かかったな!!この着ぐるみには爆弾をしこんであるんや!」

この、着ぐるみには
つまり着ている本人も逃げられないということで
そう思い彼からダッシュで逃げると少年の叫び声が爆発音と共にあたりに響き渡る

「くそ……まさかここまで実力に差があるとは…」
(なんで死なないんだろう)
「敵ながらその強さ…あっぱれやで!わかった今度こそほんま降参や…」

両手を肩の位置まで上げて降伏を宣言すると、地面に胡坐をかいて座る少年

「わかってるわかってる、命を狙ろたくせに何の落とし前もつけんのは無い話って言いたいんやろ?」
(何なんだこの人…1人相撲の世界チャンピオンか?)
「たしかニゲルさん街に入りたかったんよな?オレにまかしとき」

そういうと少年は着ていた着ぐるみを脱ぎ、どこから出したかわからない馬…?のような着ぐるみをだした

「これなら指名手配犯やてばれへんやろ!」
「どこからその自信が!?」
「へーきやて!さ、ニゲルさんこれ着て四つん這いになって」
「…は?」

どういうこと…?
嫌な予感しかしない。早く早く!とせかしてくる彼に一応聞いてみると

「せやから、四つん這いになったニゲルさんにオレがまたがるとケンタウルスに」
「ならないよ!?なんでぼくが下なの!?」
「なんや、上がよかったならそういってくれればよかったやん、じゃあ上脱いで」

だからこいつは何を…
どう反論したものかと思っていると僕の上着に手をかける少年
何をしてるんだ!とその手を払いのけると上着だけうまい事盗られた

「何って、ケンタウルスやろ?上半身はだかやん。ほんでニゲルさん上がええんやろ?なら脱がないかんやん」
「なんでケンタウルス決定なの!?それに人前で脱げるわけないでしょ!変態!!」
「えーそう言われると燃えるやん。よっしがんばるか!」

なぜ気合を入れなおされたのかわからないがいきなり少年に押し倒される
どかそうとするが、男と女、力で下に組み敷かれているぼくが勝てるはずもない

「ちょっ!待ってってば!」
「いやよいやよも好きのうちっていうやろ」

笑顔で僕の上着をめくり上げるとびくりと少年の動きが止まる
好機と思い少年の下から這い出ると声をかけられる

「……ニゲルさん…?」
「な、なんだよ」
「ニゲルさんって女の子やったん?」
「そうだよ!悪いか!!」

まったくなんなんだよ!!そんなに女に見えないか!?
目頭が熱くなる、こんなことで泣いてどうするんだと必死にこらえていると
さきほどまでとは全く違う、真剣な声が背後から聞こえてきた

「ニゲルさん、オレと結婚しよう」

何いってんだこいつ
思わず涙も引っ込むぐらいの驚きに振り替える

「嫁入り前の娘にあないな事して、責任とらないなんて男やないやん」
「いや、責任とかどうでもいいので他の方法を考えてください」

結局ケンタウルスと言い張り中に入ろうとする少年。
脇腹を門番に刺されて悶えてたし、結局牢屋行き確定でした。





「また牢屋に逆戻り…もう世界救っても取り返せないくらいの前科ついてるよこれ…」
「ニゲルさん…恋愛での失恋って…恋は失うのに…愛が残っちゃうから厄介なんだよね…」
「今それ関係ないでしょ!?」
「大丈夫や、前科者ってぐらいでオレの愛は揺るがへんで」
「戦士みたいなこと言わなくていいよ!!」
「戦士?さっきのやつ?」
「へ?…いや、フォイフォイさんじゃなくて、今は一緒にいないけど…」

さっきまでふざけていたのにいきなり声のトーンを落として聞き返してくる少年
なんなんだろうかと思っていると、その視線に気づいたのかにっこりとした笑顔に戻る

「ニゲルさん安心してーや、そのフォイフォイとかいう人は遠くからしか見てへんから
 上手にできんかったけど、今度は大丈夫。近くでハッキリ見て記憶したから…」

自信の顔の前に左手を持っていき、右へスライドさせたかと思うと
一瞬で褐色の肌が白く、髪も黒から茶色へかわり、ぼくそっくりの顔が現れた

「牢屋のカギとニゲルさん」
「え…」
「ご要望があれば体系もいじれるで?夢のボンキュッボンとか」
「いいよ!むなしくするな!!」
「とりあえずオレがここでニゲルさんの代わりしとくから、見回り来る前にちゃっちゃと出てまい
 これオレの特技なんよ、一瞬で着ぐるみ作れるいうね、じゃなきゃさっきの着ぐるみだって
 すぐ用意できひんやろ?」

そういいながら頬をひっぱっている少年
近くで見るとの見ないのではこうも違うのか…違いすぎな気もするのだが…

「ほらほら、驚いとらんとさっさと行きーや」
「君…名前は?」
「何なに?やっぱりオレのこと気になるん?」
「違う!!いや違わないけど!」
「素直になってもえーんやで?オレはいつでもニゲルさんを受け入れる体制万全や!今すぐでも」

そういいながらじりじりとにじり寄ってくる彼から逃げるように牢屋の外にでる

「冗談はいい加減にしてよ!」
「ちぇ…冗談やないのに…ま、ええわ
 オレの名前はエルフ・ノベンバー
 またどこかで会えたらエエね!」






「あれ、ロスさんどうしたの?」

ピンク髪の幼女、ルキが傍らにいる青年、ロスのかすかな異変に気づき声をかける

「いや…なんだか勇者さんが口説かれてる気配がした」
「具体的な気配だね…心配なら早く告白したらいいのに」
「お前…それができないって知ってて言ってるだろ」
「だってわずらわしいんだもーん!一昨日だって!ロスさんの意気地なし!!」
「起きてたのか?」
「目がさめちゃったの!それにまだ気持ちも伝えてないのにあーゆーのはよくないと思う!!」

この魔王は…





「魔界には四大魔として恐れられてるヤツらがいるんでござる」

友人のパンチによって洗脳が説かれたヤヌアが戦士と話している

「ギルティ・ジャスティス
 ディツェンバー・ルヴォルフ





 エルフ・ノベンバー
 の三人」

四大…魔?


 

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