売れっ子アイドル、というと安っぽいけど、俺はいわゆるそれだった。ノリで受けたオーディションに受かってからの人生はまるで薔薇色。ちやほやされまくり儲けまくりテレビも雑誌も俺が出れば売れる売れるで周りのやつらは俺を神のように扱った。裏では面倒だの扱いにくいだの言われているようだけど知ったことじゃない。俺は完璧なんだから、丁寧に扱うのは当たり前だ。

そんな俺は、最近初めて本気で人を好きになった。相手は中年のおっさん。最初はいきなり楽屋に入ってきてキモいし絶対ありえないと思っていたのに、いつの間にか好きになっていた。今まで女と遊んでいたのが馬鹿らしくなるくらい。
俺は断るそいつに必死に頼み込んで付き合ってもらうことに成功したけど、付き合ったあとも俺ばかりが好きみたいでつらい。こんなこと、今までありえなかったのに。

「なぁ、キスしていい?」

でっぷりとしたそいつの太ももに全裸で跨って、擦り寄りながらそんなことを言うと、そいつはへらへら笑う。

「だめだよ」
「いいじゃん、キスくらい。おねがい」

俺がかわいこぶって見せると、さすがに我慢しきれないらしい。当たり前だ。クール系で売ってる俺のこんな姿なんて、めったと見られないんだから。

「まあ、ちょっとだけならいいかなぁ」

そいつが言い切る前に、俺は我慢しきれず唇にむしゃぶりつく。
舌を絡めて唾液を混ぜ合わせて飲み込むと、頭の中が幸せでいっぱいになる。

「はぁっ、ん、すき、すきだ」
「ありがとう、かわいいなぁ」

頭を撫でられる。幸せでとろけそう。これから仕事なんて最悪だ。このまま朝までセックスしたかったのに。

「ほら、キスしたげたんだから、早くご飯食べて用意しないと」

ここは楽屋で、今は待ち時間だ。こいつは俺の恋人だからと関係者としてテレビ局なんかにも入れるようにしてある。俺のご機嫌を取れるなら安いものだというのか、誰も文句は言ってこない。

「ここの弁当まずいから嫌いなんだよ」

こういうところがわがままと言われる所以なのか。でも、まずいものはまずいし食べたくないのだから仕方ない。

「そんなんじゃ、身体持たなくなるよ」

それに、こいつが心配してくるのも心地いい。俺は拗ねたふりをしながら擦り寄る。

「精液いっぱいかけてくれたら食ってもいいよ」

俺がふざけながらいうと、こいつは困ったような顔をする。

「本当に、そうしたら食べるの?」
「え、まじでやってくれんの?」

冗談で言っただけなのに、本当にやってくれるみたいだ。もしかして、俺愛されてるかも。

「やった。大好き!」
「いいから、フェラしてよ」

口いっぱいにこいつのものを頬張る。

「は、ぁ、先走り美味しい……ん」
「今日は時間ないんだから、そういうのいいよ」

冷たく言われて少しさみしくなる。こいつは俺がわがままを言うから、仕方なくしてくれただけなのかもしれない。

「う、ん、もういいよ」

じゅる、と抜きとられたそれはぬらぬら光る。弁当を取って蓋をあけると中には冷めたまずそうなスパゲッティがはいっていて、食べる気のしないそれに向けて、手コキをする。何度か手を動かすと、赤いナポリタンに白いソースがかかった。

「ぁ、美味そう」
「ほら、これで食べれるでしょ」

うん、と頷いて、ザーメンのかかったスパゲッティを食べる。独特の臭みとねばねばが、まずいスパゲッティを少しだけマシにする。

「はー。かわいいなぁ」

他人事みたいに言うこいつは、イマイチ俺を恋人として見ていないような気がする。
俺ばっかり空回りして、まるで子供の初恋みたいだ。

「全部食べたね。偉い偉い」
「子供じゃねーんだから、当たり前だよ」

もうすぐ撮影で離れ離れになるというのに、全然さみしそうな様子も見せない。ほんとに、俺のこと好きなんだろうか。

「なぁ」
「どうしたの?」

手持ち無沙汰に俺の乳首を弄ぶこいつに、俺は思い切って尋ねる。

「お前さ、俺のことほんとはどう思ってんの? 俺がわがままばっかり言うから、嫌々付き合ってくれてるだけなんじゃねーの?」

俺の言葉は意外だったのか、驚いたように顔を見られる。どう見たって気持ち悪いおっさんの顔なのに、なんでこんなに好きなんだろう。

「そんなわけないよ。どうしたの」
「だって、キスだって、頼まないとしてくれないし……」
「ごめんごめん、それは、君のおねだりがかわいいからつい意地悪しちゃってただけだよ」

そう言いながら、優しくキスされ、唾液を流し込まれる。ごくんと飲み干すと、今までのわだかまりが解きほぐされるようだった。

「君のこと、可愛いくて生意気なのにエロくて最高だと思ってるよ」
「それだけ、かよ」

それでも表面的な愛の言葉だけじゃ信じられなくて、俺はそっぽを向く。

「俺がこんな仕事してたって、嫉妬したりもしないじゃん」
「そりゃ、僕は見栄えが良くて自尊心を満たしてくれる上によく稼いでくるアイドルである君が好きなんだから。それにアイドルであることも含めて、君だろう?」

優しい言葉に、心が揺らされる。そう、わかってる。こんな仕事まで含めて大切にされてるって。

「俺のこと、好き?」
「もちろんだよ」
「どのくらい?」
「性奴隷……いや、精液中毒にして狂わせてあげたいくらい」

思わぬ告白に、俺は胸がドキドキする。そんな風に思われてたんだ。俺はうん、とうなずいて、抱きつく。

「嬉しい。俺、お前のだったら性奴隷でも精液中毒でもなりたい。ならせて」
「だめだよ、あくまで君は恋人なんだから。そのくらい好きってだけ」

宥めるように乳首を吸われる。うん、と少し拗ねて頷くと、そいつは思いついたように机の上のマジックを手にする。

「ここに座って、足開いてごらん」
「うん?」

俺が言われるままにすると、そいつは俺の太ももの左右それぞれに、「性奴隷」「精液中毒」と書いてくれた上に、濡れてない後ろにローションで無理やりバイブを突っ込んでくれた。

「これで、ちょっとは信じてもらえるかな?」

俺はその心遣いに嬉しくなって、何度も頷く。油性マジックで書かれたそれはしばらく消えないだろうし、後ろの刺激で仕事中もこいつを感じていられそうだ。

「あ、もひとつわがまま言っていい?」
「なに、どうしたの?」

お前専属、って書き足して。
俺のおねだりに、そいつは呆れたような顔で応じてくれる。それが愛情なんだってわかったから、今日は思い切って言ってみてよかったと思う。
ランダムに設定されたバイブは気持ちいいし、おかげで仕事も頑張れそうだ。