「ねぇアルヴィ、本当に怪我とかしてないの?」

本当は全部が終わってから聞くことじゃないのはわかっているけど、改めて襲われたときのことを尋ねた。

「ああ……んー、大丈夫だよ」

歯切れが悪い様子のアルヴィは、もしかして何か隠しているんだろうか。
「本当のことを話して?」と優しく声をかけると、アルヴィの目はわかりやすく泳いだ。

「見たところ怪我とかはなかったと思うけど、もしかしてひどいことでも言われたの?」

あんな薬を飲まされたくらいだから、また容姿についてなにか言われたのかもしれない。
アルヴィを傷つけた相手に憤りを感じていると、そわそわと落ち着かない様子で話し始めた。

「あのさ、ほんとは……瞬殺だった」
「……え?」

しおらしい様子と裏腹の言葉に、僕は言葉を失う。

「5人くらい?いたけど、大した使い手もいないし魔法で……。あっ、殺してはいないよ。カイトと暮らし始めてからは、あんまりそういうことはしないようにしてるし……」
「ちょっとまって、理解が追いつかない」

僕が頭を抱えていると、アルヴィは当たり前のことのように言い放つ。

「だってカイト、ちょっと考えたらわかるけど、たかが暴漢だよ?」

あざとく小首を傾げてみせるアルヴィは、最近自分の見た目の良さで僕が黙ることを覚えてきた。

「たかがって……」
「魔法を封じることすらしないでこられても、小虫が集ってくるのと大差ないじゃない」
「じゃあ、なんで薬飲まされたりしたの」

問い詰めると、アルヴィは視線を泳がせながら辿々しく答える。

「飲まされた、というか、面白そうなモノ持ってるなと思って……」
「自分から飲んだの!?」

ありえない、というか、もしも毒が入っていたりしたらどうするつもりだったんだ。
何もなかった……とは言えないけど、とにかく無事で済んだからよかったものの、アルヴィらしくない危険な行動に思わず声を荒げてしまう。

「そんなことして、もしも何かあったらどうするつもりだったの」
「だって、こうでもしないとカイトはこんなことしてくれないだろう」

恥じらいの混じった声に力が抜ける。
というか、今考えてみたら、アルヴィはどうなるかわかった上で薬を飲んでいたわけで……ということは、僕とするのが嫌じゃないどころか、積極的だったということで……。

「わーーー!!!」

もう叫ぶしかない。「なに、なんでそうなるの」と困った顔をされたって、だってしょうがないだろう。
手の届かない存在で、絶対に汚してはいけないと思っていたアルヴィが、自分から僕のところにきてくれたんだから。

「うーー嬉しいけど、次からはぜったい、そんな危ないことしないでよ」
「んー、それはカイト次第かな」

やらかしたことの大きさが嘘のように猫のような笑顔を浮かべた恋人に、たぶん僕はいつまでも敵わない。