「かいと、たすけて」

屋敷でそわそわと待っていた僕の前に現れたのは、赤く火照った顔で息を切らすアルヴィだった。
あまりに扇情的な姿に思わず唾を飲むと、それに気づかないのかアルヴィは身を委ねてくる。熱い体温が触れる感覚に、どうしていいのかわからない。

「アルヴィ、どうしたの?」

絞り出すようになんとか尋ねると、アルヴィは俯く。

「途中で、へんな男たちに襲われて……びやく、とかいうの、飲まされて」
「えっ、大丈夫なの?怪我は?」
「ん、なんとか逃げてきたから、だいじょぶ、なんだけど、からだつらくて……ねぇ、カイト」

たすけて、ともう一度、甘い声がねだる。
びやく、って、媚薬……その、そういうことなんだろうか。

アルヴィと付き合い始めてから……いや、付き合う前からだって、アルヴィのことをそういう目で見たことがないわけじゃない。
どこからどう見たって美少年なアルヴィは、エルフだからなのかそれとも個人差があるのかはわからないけど、とにかくどこもかしこも綺麗だ。
肌は白くてすべすべで、髪はさらさらでいい匂いがして、低すぎない中性的な声は耳に心地いい。仕草は洗練されていて美しいし、僕にだけ向けてくれる微笑みなんて最高級にかわいい。そんなアルヴィを、僕の欲望なんかで傷つけてしまうことが怖かった。

「カイト、」

熱っぽく潤んだ瞳に僕が映る。
恐る恐る伸ばした手に触れたアルヴィの頬は、いつもより熱い。

「ねぇ、アルヴィ、大丈夫?」
「ん、カイトが助けてくれるなら」

求められるような声に、ちがう、と心の中で思った。
今まで、僕はアルヴィを傷つけたくないと思っていたはずだった。それなのに、いざ許されるとこんな最低な流れでも喜んでしまう自分がいる。
僕が恐れていたのは、アルヴィを傷つけることじゃなくて、アルヴィに拒絶されることだった。

「だめだよ、こんな……アルヴィが、」
「ぼくはカイトがいいよ」

葛藤をかき消すような甘い声に、自制心が働かなくなる。

「カイトじゃなきゃダメだ」

そんな言葉に、もう考えることはできなくなった。


***


着込んだローブを脱がせて、シャツをはだけさせる。
露出した肌に指を這わせると、ふるりと身体が震えた。

「あっ、んん、かいと……」

いつもより数倍甘くとろけた声が僕の名前を呼ぶ。
普段は白い肌はほんのりと赤く染まって汗ばんでいて、僕の手にしっとりと張り付く。

「アルヴィ、気持ちいい?」

うん、と恥ずかしそうに頷くのが可愛くて、そのまま触り続ける。
触るだけじゃ我慢できなくて首筋を甘噛みすると、「んんっ」とかわいらしい嬌声が上がった。

「ね、かいと、下もさわって」

照れながらそう言うアルヴィに、頷いて下着越しに触れる。
じんわりと濡れたそこに軽く触れただけで、アルヴィの腰が揺れた。

「とりあえず、一回出す?」

僕の質問に、アルヴィは羞恥心が隠しきれないのかううっと顔を隠してしまう。

「大丈夫だよ、アルヴィがそうなってるのは薬のせいだし……それに、ほら」

アルヴィの手を掴んで、自分のほうに引き寄せる。
僕だって恥ずかしいけど、アルヴィの照れをなくすためならしょうがない、と、アルヴィの手を反応しきった僕の下半身に触れさせた。

「興奮してるの、アルヴィだけじゃないから」

嫌がられたらどうしよう、と思ったのは一瞬で、アルヴィはふにゃっと笑顔を浮かべた。

「うれしい」
「僕だって、こうやってアルヴィに触れてうれしいよ」
「ぼくにも、さわらせて」

お互いに下着を取り払って、直接相手のものを触る。
アルヴィは薬の効果なのかふにふにと触るだけでもビクついているし、僕だって大好きなアルヴィの綺麗な手に触れられて我慢できるわけがない。
はじめて同士で下手くそな触り合いにも関わらず、僕らはすぐに果ててしまった。

「アルヴィ、すこしは落ち着いた?」

僕が尋ねると、うなずきかけたアルヴィは首を振る。

「まだ、もういっかいする?」
「ちがう」

甘えるように僕に縋りながら、アルヴィは小さな声でささやく。

「カイトの、中に挿れて……さいごまでしたい」

あまりの衝撃で、時間の流れが止まったように感じた。
爆発力の大きすぎる言葉に、かろうじて残っていた理性とかが霧散する。

「いいの、アルヴィ?そんなふうに言われたら、たぶんもう我慢できなくなるよ」
「いいよ、我慢なんてしないで」

甘い微笑みに、僕はすべてを委ねることにした。


***


薬のせいなのか、カイトが触るぜんぶがきもちいい。
意識はふわふわしているのにカイトの存在だけははっきり感じられて、恥ずかしさを塗りつぶすみたいな幸福感が心を満たす。

「アルヴィ、好きだよ」

中を焦らすように慣らしながら、カイトが優しくささやく。
吐息が触れるだけでも気持ちいいのに言葉まであまいから、そこから身体がとけてしまいそうだ。

「ね、もう……い、から」
「だめだよ。ちゃんと慣らさないと、怪我でもしたら大変だから」

もう指だけで数回イかされているのに、まだカイトは許してくれない。
はやく挿れてほしいのに、優しく責められると逆らえなくなってしまう。

「はやく、おねがい」

恥ずかしいのを我慢して目を合わせてねだると、カイトは一瞬固まってため息を吐く。呆れられた、と思う前に、唇が触れ合った。

「じゃあ、挿れるよ」

真正面から見るカイトの顔は、こんなに男らしかっただろうか。
ここにきてまたかっこよさを更新するんだからずるい。
うん、とうなずくと、優しくベッドに横たわらされた。

「痛かったら言ってね……止まれるかわかんないけど」
「いいよ、だいじょうぶ」

向かい合う真剣な顔が綺麗で、思わず魅入ってしまう。
そちらに気を取られている間に、後ろに熱いものが触れた。

「……っ、ぁ」
「ゆっくり、するから」

指でたっぷりと解されたそこは、カイトを少しずつだけど受け入れた。
痛みはあるけど、それよりも気持ちいいのと幸せなのがいっぱい。深くはいってくるほど、何も考えられなくなっていく。

「だい、じょうぶ?」

余裕のなさそうな声でカイトが言う。それでもぼくを気遣ってくれるんだから、本当にやさしい。

「ん、きもちいいよ」

ぼくの言葉に安心したのか、カイトは徐々に腰を動かす。
軽いピストンだけで、中からとろけてしまいそうだ。

「ふ……っぁ、かい、と、んんっ……」
「アルヴィ、好きだよ」
「ん……っ、あ、だめ」

早まる動きに、きもち良さがとまらなくなる。
快楽を逃がす場所がなくて、自分の中がぐちゃぐちゃになる。

「ね、かいと、もっと……っ、あ、」

こんな風に言ってしまうのは薬のせいに違いない。そんなに強いものだとは思わなかったけど。

「そんな煽ったら、我慢できないよ」

カイトも余裕がないのか、だんだん動きに遠慮がなくなってくる。
もう限界、というときに、身体の中に熱いものが広がった。

「……っ、ごめ、中に出しちゃった……」
「いいよ、うれしい」

そう言ってしまってから、さすがにそれは気持ち悪かったかな?と様子を伺うと、カイトはじたばたと悶えている。

「今日のアルヴィはずるいよ」

そう言って困ったように笑うカイトだって怖いくらい色っぽいんだから、ぼくから見ると十分にずるい。