アルヴィと付き合ってから数ヶ月。一緒に暮らす毎日には、少しだけ変化が生まれた。
寝る時は同じベッドで眠ること、ちょっとしたタイミングでキスを交わすこと、目が合うと照れたようにはにかむこと……そんな甘酸っぱい変化。

「カイト、しばらく留守を頼むね」

薬を売りに街に出るアルヴィが、僕の手を握りながらそう言った。名残惜しそうにぎゅっと握りしめられた手を、僕も強く握り返す。

「うん、任せて」

今回は屋敷で作りかけの薬の様子を見なければならないから、僕はついて行けない。

「なにか困ったことがあったらフクロウを飛ばして。すぐに帰ってくるから」
「大丈夫だよ。アルヴィこそ、旅路は気をつけてね」

アルヴィを抱きしめて、額にキスを落とす。くすぐったそうに身をすくめたのがかわいくて、頬、鼻、唇と軽いキスを何度もすると、おずおずと腕が回された。

「カイト、好きだよ」
「僕も」

恋人になってからはじめて離れる数日間。寂しいけど、仕事をしているアルヴィもかっこいいからその助けになりたいと思う。



***



ひとりで街に出るのは久しぶりだったけど、早くカイトに会うためにすべての仕事をさっさと終わらせた。
薬は思ったよりも高値で売れたし、溜まっていた用件もすべて完了。愛しい相手がいると、仕事にも張り合いが出るらしい。

さっさと帰ろうと街道沿いを歩いていると、ふとショーウィンドウが目に入った。
老舗の衣装店で、子供でも名前を聞けばわかるブランドの店。今まで服飾品に興味はなかったけど、最近はカイトのお陰で少しずつ気にするようになってきた。
店頭に飾られている商品はどれも綺麗で、カイトに似合いそうだ。スーツはさすがに仕立てないとサイズが合わないだろうけど、小物くらいならお土産にいいかもしれない……と考えたところで、そういえば付き合ってからプレゼントを渡したことがないことに気がつく。

結局選んだのは、カイトの瞳の色に合わせた深い青色のネクタイ。恋人への贈り物としては物足りないかもしれないけど、はじめてなのだしとりあえずはいいだろう。
そんなことを考えながら綺麗に包装してもらった包みを持って歩いていると、違和感を覚える。複数の足音と、妙な視線。おそらくつけられていな、と他人事みたいに思って、あたりを探る。

気配から察するに、おそらく価格帯の高い店から出てきた金持ちを狙うゴロツキだろう。
手慣れてはいるみたいだけど、大した使い手はいなさそうだ。たぶん、ぼくがエルフであることにも気がついていない。適当に片付けようと裏路地に入ると、まってましたとばかりに囲まれた。

「おい坊主、さっきの店で買ったモンと財布の中身全部出しな」

ぼくからすればたかが数十年の人生で大人ぶっている人間のほうがよほど子供に見えるけど、まぁエルフと人間の寿命は違うのだから価値観も違うんだろう。どうでもいい、と切り捨てようとしたところで、若干風向きが変わった。

「それよりコイツ、えらい美人だな。女なら楽しめたのによぉ」
「ガキだし男でもいいんじゃねぇか? そういや、例のアレ手に入ったんだろ?」

男のうちの1人が、「ああ」と答えながらポケットから小瓶を取り出す。

「どんな強情な女でもメスに堕ちるってクスリらしいが……コイツで試すか?」
「その辺のブスよりはよっぽど使えそうだもんな」

男たちは、下世話な笑い声をあげて盛り上がる。
とりあえず薬を持っている男を押さえよう、と動いたところで、一番でかい男に腕を掴まれた。純粋な力では敵わなくて身じろぐけど、まったく抜けそうにない。

「さぁ、お楽しみの時間だ」

身動きが取れない状況で、ぼくはこれからのことに想いを馳せた。