青八木兄妹の大乱闘
今日は待ちに待った休日、だけど窓の外は生憎の大雨。こんな日は外に出ないで家でだらだらするに限る。
映画を見るか、昼寝するか、わんこと遊ぶか……色々な選択肢の中から選んだのは暇そうにしているお兄ちゃんと一緒にゲームをする事。
「うわっ!こっち来た!!とっ…、わっ!…よしっ!!」
「……」
テレビの前のソファにお兄ちゃんと並んでプレイしているのは、色んなゲームのキャラ同士で大乱闘する、吹っ飛ばすのが爽快なあの人気のゲーム。
こういうのって私はついつい声出しちゃうんだけど、お兄ちゃんはこういう時も無口だし、無表情だ。けど反対にコントローラーを操作する手元だけは忙しなく、ガチャガチャとスティックを弾く音がうるさい位に動いている。言っちゃ悪いけど……もはや気持ち悪いくらい。よくそんな動きできるなあっていつも思う。前髪で片目も隠れててやりにくいだろうに。
そのえげつない動きをする手元に操作されるお兄ちゃんのオハコの可愛らしいピンクのまん丸は、潰れて敵のコンピューターの攻撃をかわしたり投げ飛ばしたり、ハンマーで吹っ飛ばしたり到底可愛くない動きで相手をいたぶっている。
……これチーム戦じゃないから、コンピューターを全機堕としたらあれを相手にしなきゃなんだよなあ…。
このゲームでお兄ちゃんに勝てた事はほんの数回しかない。今日こそは!って毎回全力で挑むけど、あっさり返り討ちに遭ってしまう。
……けど、今日はなんか勝てる気がする!
コンピューターを全機堕として、とうとう私の使う黄色い電気ネズミとお兄ちゃんのピンクの丸の一騎討ち。お互いもうあと一発大きい攻撃を喰らえばすぐに決着が付きそうだ。
よし!今日は調子いいし、ここは積極的に攻め込んで先手必勝で…!!
と、思ったけど。
「わーー!やだやだ!追いかけてこないでよ!!怖いってー!」
お兄ちゃんも考える事は同じだったのか、私のネズミを追い回してくるまん丸。
可愛い顔して動きがえげつない…!!その勢いがもう怖くて私は逃げ回るしかなかった。隙なんて全然見つける余裕ないし…!
「もーやだ!追いかけてくるのやめてって!!」
「……うるさいぞ」
と言いつつお兄ちゃんは追いかけてくるのをやめない。
…このまま逃げ回ってても仕方ない!追いかけてくるのやめないなら…!
私はお兄ちゃんからある程度距離を取って、溜め攻撃のコマンドを入れっぱなしにすると四つ足になって、黄色い電気を纏いながら横に吹っ飛ぶ頭突き攻撃を溜める私のネズミ。
…よしよし、お兄ちゃんの丸はどんどんこっちに近付いてくる…!もっと引きつけて…まだまだ……よし!
今だ!!
「……」
コマンドを離した直後に勢いよく丸に向かってネズミは垂直に突っ込んでいく。これなら絶対当たる!!今日は勝たせてもらうからね、お兄ちゃん!!
「……へ」
ステージ外に吹っ飛んでいたのは、丸じゃなくて私のネズミだった。ネズミの可愛い悲鳴が聞こえたあと、「GAME SET」と発音のいい声と共に画面に大きく表示される。……何が起きたんだろう、もしかして攻撃が当たる直前にかわされた…?
「…お前の考えてる事は、すぐわかる」
未だに呆然としている私に、お兄ちゃんは不敵に笑った。
「顔に出てる」
次の瞬間、悔しさから私の口からは呻き声が漏れた。画面見ながら私の顔見る余裕があったって事!?ああもう悔しい…!!こういう時ばかりはお兄ちゃんのポーカーフェイスが羨ましい…!
「うう〜〜…もう一回!今度は絶対勝つから!」
「何度やっても同じだ」
それから何度もお兄ちゃんに挑んだけど、結局一度も勝てなかった。
「…わかりやすいのが、一花のいい所だ」
「え?何か言った?」
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