Dear sleeping face
『今動けない。鍵は開いている』


丁度、青八木家のインターホンを押そうと指を伸ばしかけた時、まるで何処かから見てんじゃねーのって位に絶妙なタイミングで青八木からメッセージが届いた。

鍵は開いてる、ってことは開けて入ってこいって事なんだろう。
インターホンに伸ばしかけていた指を下ろして、家のドアへと手を伸ばした。

にしても…動けないって何してるんだ?青八木が動けなくても一花ちゃんがいるし。まあ、家に上がればわかるか。


「お邪魔しまーす…」


言いながら、ドアノブを引くとガチャリと金属が動く音を立ててドアが開く。
青八木家の玄関はいつ来てもスッキリしている。
今家の中にいるはずの2人の靴はきっちりと端に寄せられて揃えられているし、両親の靴もそうだ。
雑然としたウチの玄関とは正反対だ。って、それは大体オレのせいだな…いつも適当に脱いで散らかしてるからよく母さんにちゃんとしなさいって怒られるんだ。
青八木の家に来る度に綺麗な玄関は気持ちいいんだと思い知らされる。今日はちゃんと家に上がる時ちゃんと揃えるか。

当然人の家に上がる時はちゃんとしている。オレも2人を倣って脱いだ靴を揃えて家に上がった。もちろんちゃんと開けっ放しの鍵も閉めて。

けど青八木と一花ちゃんが姿を見せる気配がない。それどころか本当に2人とも家にいるのか不思議な程に静かだ。青八木家のマスコット的な存在のパピヨンも今は寝ているのか足音すら聞こえない。他の物音すらしないし、少し不気味だな…。
とりあえず、いつも通されるリビングへと足を向けてみた。

リビングの扉を開けるとその対角線上に背を向ける形で置かれたソファーの背もたれ越しに、青八木の後頭部が見えた。


「なんだ、居るんじゃねーか」
「…いらっしゃい」


振り向いてそう言った青八木の声はいつも以上に静かだった。
それよりとても動けないようには見えないけど…ゲームでもしてたのか?
けどその理由はソファーの前に回り込んだ時にすぐわかった。

青八木の膝を枕にして、気持ちよさそうに寝ている一花ちゃんがいた。


「こりゃ…動けねーな」
「すまん…なかなか起きなくて」
「こんだけ気持ちよさそうに寝てたら、起こすの可哀想だもんな」


ソファーの前にしゃがみ込んで、一花ちゃんの顔に目線を合わせる。
彼女の寝顔を見るのは初めてだ。思っていた通り、寝顔も可愛い。思わず口が緩んじまう。口がうっすらと開いていて気の抜ける顔だけど、それすらも可愛いと思うのは末期かな…。

顔にかかる髪が口に入りそうで、それを後ろに払おうとして、指先が彼女の頬に触れた。
やべ、と咄嗟に手を離したからほんの一瞬触れた程度だった。だけどその感触はしっかりと残っている。
一花ちゃんの白い頬はすごく柔らかくて滑らかで、マシュマロかなんかで出来てんじゃねーかって思った。…もう一度触れたい。
けど兄貴いるし、ていうか寝てる女の子にベタベタ触るとかダメだろ…!
その衝動をぐっと堪えて、今度こそ髪を払った。


「つーか、いいのかよ。可愛い妹の寝顔他所の男に見せて」
「純太にならいい」


オレ以外には見せたくないってことか…。ホントシスコンっつーか、それ程に一花ちゃんのこと大事にしてんだな。改めて思う、青八木が相棒でよかったな……もし青八木と交友がなくて一花ちゃんに惚れてたらきっと大変だったろう。


「…やっぱ、好きだわ」


無防備な寝顔を見ながら、気が付けば口からぽつりと出ていた。しかもそれは青八木の耳にしっかり届いていたようで、やつの口は弧を描いていた。
その微笑ましそうな顔が『早く本人に言ってやれ』と訴えていて、思わず青八木の顔から視線を逸らした。
きっとこいつは一花ちゃんがオレをどう思っているかも知ってるんだろうな。ったく、お前だけオレの気持ちも彼女の気持ちも知ってるとか、ズルすぎだろ。


「…にしても膝枕とか、仲良すぎだろ」




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