中間考査@
「赤点を取った者は例外なく練習に参加させる事は出来ない。各自、勉強を怠らないように」


金城さんのこの言葉を耳にした瞬間、ああ、終わった…と思った。まだ始まってすらいないのに、私の頭の中は静かな絶望感で満ちていた。

明日から中間テスト最終日まで、すべての部活が休みになる。部活ばかりに熱中してないで学生の本分である学業にもちゃんと打ち込みなさいって事なんだろう。
…けどまさか、赤点取ったら部活出れなくなるなんて思いもしなかった。
赤点取ったら補修になることは知ってた。でも補修かーやだなー回避したいなー程度にしか思っていなかった……少し考えれば分かることなのに。補修で部活の時間がなくなるって。

なんとしても、赤点を回避しなきゃ…!!

けど1人での勉強には限界がある。国語や英語はまあなんとか出来ると思う。一番の問題は数学だ。中学の時の内容だって分からなかったのに、高校の内容なんて分かるわけない。誰かに教えて貰わなきゃ絶対無理…!!
よし、ここは幹ちゃんに一緒に勉強しないか聞いてみよう。


「幹ちゃん、よかったら一緒にテスト勉強しない?」
「あ…ごめんね、明日からセールだからうちの手伝いしなきゃいけなくて」


私も一緒に勉強したかったんだけど…と幹ちゃんは眉を八の字に下げた。


「ううん!それなら仕方ないよ、気にしないで!お手伝い頑張って!」


幹ちゃんは明るく頷いて、「それじゃあ準備あるから、先に帰るね!」って私に手を振って、先輩達に挨拶をして部室を駆け出して行った。
テスト期間もお店のお手伝いか…大変そうだなあ…けど自転車の事になると幹ちゃんは本当に楽しそう。

あと頼れそうな友達は……いない、なあ…。
最近みんな一斉にバイトを始めて、毎日みんな忙しそうだった。

あとは……


「赤点取ったら部活来れないのか。短い付き合いだったな、赤頭」
「なんやとボケスカシ!この天才鳴子様を馬鹿にすなや!テストなんかたこ焼きと丸めて食うたるわ!」
「ほう。その割に青筋立ってるぞ」
「あ!?」
「あわわ…ふ、2人とも喧嘩はダメだよ…!あ、そうだ!みんなで勉強するのはどうかな?僕あんまり自信なくて……」
「……まあ、小野田が言うなら」
「小野田くんがそう言うならしゃーないな」
「何何?勉強会かい?ボクも参加するよ!得意だからね、勉強は!」


部活の後だって言うのに、今日も賑やかな私の同級生達。
いいなあ、みんなで勉強会か…私も入れて……と言いたいところだけど、さすがに男子だけの中に飛び込んでいく勇気はない。何より、同じ学年のはずなのに彼らとはまだ壁を感じる。多分、態度の悪い先輩の妹だから……って思うのは考えすぎかな…。

…もう、頼みの綱はここしかない。


「ねー、お兄ちゃん…」
「……無理だ」


隣で帰り支度をしているお兄ちゃんは、まだ何も言ってないのに表情を変えないまま抑揚なく言った。「まだ何も言ってないよ!」と言えば深く溜息を吐かれた。


「数学だろ。オレには教えられない」
「…だよねぇ…」


うん…実はそんなに期待はしてなかった。
お兄ちゃんも私同様数学はあんまり得意じゃない。私より少し出来る程度。それでもダメ元だけど、藁にもすがる思いで聞いてみた。
…仕方ない……どうにか自力で頑張ってみよう。


「一花ちゃん、数学苦手なの?」


軽く絶望感に打ちひしがれているところに、お兄ちゃんの隣から手嶋さんが顔を出した。


「はい…全然わかんなくて、このままじゃやばいなあって、あはは」


笑ってみせたけど、本当は笑ってられる状況じゃない。
手嶋さん頭の回転早いし、計算とか得意そうだよなあ……教えてくれたり…ってダメダメ、手嶋さんだって自分の勉強があるんだから!


「見てやろうか?数学」


私の心を見透かしたようなその言葉に、驚いて固まってしまった。
手嶋さん私の考えまで読めるように…!?あ、いや私わかりやすいから知らないうちに顔に出てたのかもしれない。


「でも…迷惑じゃないですか?一年の勉強なんて…」


下級生の勉強なんて、自分のテスト範囲の勉強にもならないのに。教えてもらえたらすっっごくありがたいし、お願いしますと頭下げたいくらい。


「んなの気にしなくていいよ。オレ数学は得意だしさ!これでも中学の時はそろばんの県大会出た事あるんだぜ。それに復習できるし、オレも助かるよ」


そう言って、手嶋さんは笑った。
手嶋さんの優しさに思わず涙が出そうだった。そろばんの県大会って絶対すごいし!何を競うのか全然わからないけど、彼の背中に後光が見えそう。救世主だ…!
赤点取ったら部活出れないし…今回は甘えてもいい、よね…!
そう思った次の瞬間には、「お願いします!」と手嶋さんに頭を下げていた。




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